52.旅路と違和感
「そろそろ出発した方がいいのか……?」
ここ、シャトレアに来てもうすぐ一週間程になる。
正直結構見て回ったので、もうすることはないと思うのだが、なかなか踏ん切りがつかなかった。
グリュンの方は気がついたら何かしらで勝手に遊んでいたりするので、おそらくは同じ場所でずっと過ごせるタイプなのかもしれないと思ったりしているのだが、それでは当初の『世界を見て回りたい』という願いは叶えられないのでは?とも思ったりする。
「……まぁグリュンに聞くしかないか」
ちなみに当のグリュンは、遊び疲れたのか昼寝をしているところだ。
『ネーヴェ』に向かうにおいて、通らなければいけない場所はまぁ、関所ぐらいしかなく。グリュンが行きたい所に道中寄ることは、十分に可能だった。
「……それにしても、俺を祀る国、ね……」
何故か碌な人がいなさそうだと思ってしまうのは、俺の性格なのかそれともただの勘か。確かに『ネーヴェ』は俺を祀るの部分は置いても、かなり興味深い国だ。
もしかして他の竜も祀られたりしているのだろうかと考えていると、いつの間にか俺の隣にグリュンが立っていて。
どうした?と聞くと、お水飲みにきた!と返された。
「じゃあ一杯でいいか?」
「いや二杯」
「には……結構飲むな」
はい、と手渡す。その時、丁寧にも両手で飲み干すグリュンを見ながら、そうだついでに聞いてみておこうと思い至る。
「なぁグリュン、次どこに行きたいとかあるか?」
「え、うーん……今は特にないから、もうネーヴェ?に行ってみる?」
「グリュンがそれで良いならそうするが……」
まぁ確かに、調べた所ネーヴェは雪国だったので、行くだけでも新しい景色を見れて楽しいかもしれない。ただ雪国という事は絶対に寒い。俺は耐性があるから良いものの、グリュンは耐えられそうになさそうだ。
頭の中で防寒着を縫う予定を考えていると、くいっと服の袖を引っ張られた。
「ん、どうした?」
「ねぇ、ヴェルは……」
そこで言い淀むグリュンを見て首を傾げる。一番気になる所で止めるのは、結構こちらとしても気になるので止めてほしくはあるのだが。
一旦皿洗いの作業を止めて、グリュンの目線に合わせるように少し屈む。ただ、それでも言いづらいのか、俯いてしまった。
「……やっぱり、何でもない」
「──そうか」
おそらく無理に聞くのも良くないだろう。グリュンがその気になって言ってくれたのが何十年先だとしても、別にそれぐらいなら短い年月だ。
もし言ってくれなかったとしても、それはそれで構わない。確かに知りたいとも思うけれど、我が子の全てを知る事は出来ないと誰かが言っていた…ような気がする。
俯くグリュンの頭を、今の気持ちを伝えるようにそっと撫でて、久々に抱きしめた。
「でも、遠慮はしなくていい。俺は何があってもグリュンの味方だ」
「…………うん、ありがとヴェル」
「俺はグリュンが世界を滅ぼせと言うなら、躊躇いなくやってみせる」
「そこ……まではしなくて良いよ?俺ヴェルと一緒に過ごすの好きだもん」
やっと小さくグリュンが微笑む。
そう、それで良い。何事も笑顔が一番だ。
……それにしても、結局何を伝えたかったのだろう?
聞きはしないが、それでも心には引っかかる。
取り敢えず一応、注意して様子を見る事にするか。命に関わるような一大事では無いだろうけれど、手遅れになるよりかは取り越し苦労の方がはるかに良い。
そう思っていると、ふと小さな違和感を感じる。
グリュンは、こんな雰囲気だっただろうか。
もう少し柔らかいような、ふんわりとした雰囲気を持っていたような気がするのだが。
───いや、俺の気のせい、か?
どこか俺に似たような、そんな感じがする。
……まぁ俺と一緒に過ごしているんだから不思議はないと言われればそうなのだけれど。
「ヴェル?どうかしたの?」
「あ、あぁ……何でもない」
「そう……?」
すっかりいつも通りに心配してくれるグリュンには何の変化も見られない。
それが何故か一番、違和感を持った。
やっぱり何かを隠している。それは確かだが、知る方法がない。
───頼むから、大事になる前に相談してほしい。
そう切に願ったのだった。




