50.砂の城
「眩しい……」
「まぁ、これだけ晴れていればな」
今日はグリュンの頼みもあって、海に来ていた。曰く、前に来た時に砂で城を作りたかったのだとか。それならその時に作っておけば良かったんじゃないか?と聞くと何故か凄く威嚇されてしまった。俺が悪い……のか?これは。
痛いほどの太陽がこちらを照りつける中、眩しいとは言いつつも元気に駆けて行ったグリュンを追いかける。
人々が集まっている場所から少し離れたところに陣取ったグリュンは、早くも砂をかき集めていて。それの意図するところはつまり、俺は水を運んできて欲しい、と言うことか。
手ですくって運ぶにしては砂の量が尋常じゃないので、近くの海水を魔力で固めて、少しづつ砂に注いでいく。
「そろそろ踏んで固めても良いんじゃないか?」
「えっ……」
「何だその反応……?」
ぴし、と動きが止まったグリュンを見て思わず首を傾げる。
そんなに砂を踏み固めることに抵抗感があるのか?いや、違うな。それよりは……。
───あぁ、成程。
「雪に埋まったことがあるからか」
「う、あってる……」
「おそらく、雪ほど柔らかくはないはずなんだが……」
「本当に?信じるからね!?」
「どれだけ嫌だったんだ」
中々の勢いでそう言われ、思わず苦笑いする。俺にとっては結構良い思い出なのだが、本人にとっては嫌な過去の一つらしい。
結局グリュンが恐る恐るながら踏み固めていく。俺は形を整えながら、砂が固まっていないところがあれば補強していった。
そうして大まかな形ができた頃、どんな城を作るか話し合う。
「俺は王都で見たお城、作りたいなぁ」
「良いんじゃないか?ただちょっと……難易度は高そうだが」
「そこはヴェルが補ってくれるはず!」
「……それは俺頼みと言うんじゃないか?」
そんな俺の言葉を聞いているのか聞いていないのかわからないグリュンは、早々に取り掛かり始める。ちゃっかり氷魔法でで小さなスコップらしきものを作っているところが何というか。
俺もグリュンの真似をするように小さなスコップを作り、制作を始めるのだった。
♢♢♢
「出来たっ……!」
「ほとんど最後の仕上げ、俺任せじゃなかったか?」
「気のせいじゃないかな?」
「そうか……?」
じゃあ俺が仕上げている最中に視界の端に映った、波打ち際に打ち上げられていたクラゲとグリュンがにらめっこしていたのは幻覚だったのだろうか。
まぁ良いか、と思考を打ち切って、改めて完成した砂の城を見る。
それにしても、よく完成したな……。
そう俺が一息ついていると、グリュンは満面の笑みでこう言った。
「楽しかったー!」
「あぁ、俺も結構楽しかった」
「砂にはまらなくて良かった……」
「気にするところはそこなのか」
「俺にとっては大事なの!」
そう言って砂の城の近くに寝っ転がったグリュンはそのまま空を仰ぐ。清々しいほどに透き通った空が、鏡のように瞳に映った。
少し冷たい潮風がさぁっと通り過ぎて、引いていく波がちゃんとクラゲを回収していく。
「……アリア、元気かなぁ?」
「アリアか、あいつは……元気じゃないか?」
「そうかな……」
唐突に出てきたその懐かしい名前。今の時期だと紺色の髪に紫の瞳になっていそうだな、あいつ。
ちなみにシャトレアにいると忘れがちだが、一応今の時期は冬だ。
と言うことはそろそろ旅に出て半年、と言うところか。
早いな、と思う反面、まだ半年か、と思うところもある。
───一歩、また一歩と、グリュンが離れていく。
それは比喩とかではなく、その場に残る事実で。
「……年、明けなきゃ良いんだけどなぁ」
小さく、波の音に紛れるようにそう呟いた。




