4.魔法の宝珠
まだ若干降り積もった雪が地面には残ってはいるものの気温は少しづつ上がり、春の訪れをほんの微かに感じられるようになってきた。外で活動するにはうってつけの気候と言えるだろう。
そこで俺は当分目を逸らしていた、グリュンに魔法を教える事にしたのだった。
俺にとっては非常に気が気でないのだが、当の本人は嬉しそうにしているのでぐっと堪える。これはグリュンの護身のため、と何度も自分に言い聞かせて。
「じゃあまずは基本のおさらいから行こうか」
「はーい」
元気よく返事をしたグリュンに続くように説明を始める。
「まず、この世界には魔法が存在していて、それぞれが属性を持つという事は教えたな?」
「確か、炎と氷、水、風、雷の五種類だっけ?」
「正解、よく覚えてたなグリュン。
普通は持っていても人の場合二つが限界なんだが……グリュンには俺の『鑑定』が効かないから実際に試して適性を確認してみようか」
そう伝えるとグリュンは楽しみそうに瞳を輝かせる。とは言ってもそこまで特殊な事はしない。ただ自分の魔力で宝珠を作るだけだ。その宝珠の色で自分の適正属性が分かる。
俺は見本の代わりに一つ作ってグリュンに見せた。俺の宝珠は赤と水色、青、緑、紫、そして黒に染まっている。ちなみに黒は闇属性を表す。この世界に存在する特殊属性とも言うべきもので、光と闇の二種類しかない。
つまり俺は光以外の全属性の適性がある。ついでに光の適性もあれば回復魔法や治癒魔法が上手く使えたのだけれど。
「凄い……これどうやって作るの?」
「え、魔力を固めるだけなんだが……」
「──俺、魔力の使い方分かんないよ?」
そうグリュンに言われて、そういえば俺も正直な所よく分からない事に今更ながらに気付く。今まで感覚で何となく使ってきたから、意識しなくても出来るんだよな……。
「えっと、手にぎゅって力を込めたら出来ないか?」
「……ヴェルってもしかして、説明下手?」
「悪かったな」
そうしてグリュンと共に試行錯誤すること数時間。途中で爆発したり、周りが氷漬けになったりと色々あったものの、ようやくグリュンが小さな宝珠を作り出すことが出来た。
「そう、その調子でもう少し大きく出来るか?」
「やってみる、けど」
そう言ってグリュンも俺と似たような大きさの宝珠を作り出す。はい、と手渡されたそれを見た時、俺は一瞬自分の目を疑った。
始めは俺の宝珠から黒色を抜いただけだと思った。いや、それでもグリュンが人である以上、五種類も属性を持っていること自体凄いのだ。
しかし、それだけではなかった。宝珠の内側で輝いているのはまさしく白色。つまりグリュンは光属性も持っている事になる。
「……ヴェル、どうしたの?」
「──凄いなグリュン、滅多にないぞ」
結果をグリュンに伝えると嬉しそうに笑う。それは俺が褒めたからなのか、ただ単に属性をたくさん持っていたからだったのかは定かではないが、とにかく嬉しそうだった。
さて、何から教えるべきか。宝珠の色の割合を見ると緑が一番占めているのでおそらく風が一番得意なのだろう。そして二番目が──光。
俺が持つ闇とは相反する属性である光に、教えられる事はあるのか?と思ってしまう。
光属性は基本的に回復と治療を得意とする人が多いが、稀に浄化を得意にする人もいて、闇属性の専売特許である腐敗や吸収などとは相性が悪いのは明らかだ。
「何から教えてくれる?」
「そうだな……風でどうだ?一番得意みたいだからやりやすいんじゃないか?」
「えー……」
「……どういう反応だ、それ?」
「俺、ヴェルが一番得意な属性、教えて欲しい!」
「……良いのか?それで」
俺が一番得意なのは氷だ。ただ氷属性の魔法は魔力の消費こそ小さいものの威力も他と比べると劣っている。その代わり見た目だけはどんな魔法よりも綺麗だと思っているが。
そんなさしたる取り柄もない魔法を教えて欲しいのか?
「……グリュン、理由を聞いても良いか?」
「理由……?だってヴェルが得意な魔法は使えるようになりたいし、俺が覚えればヴェルとお揃いになれるでしょ?」
「……それだけで?」
「俺にとっては大切なの!」
俺は無意識に笑みが溢れる。
この子は何の損得勘定もなく、ただひたすらに自分の興味と感情に従って生きている。それは羨ましくもあり、同時に嬉しかった。
穢れの無い、純粋無垢な心を持つグリュンは眩し過ぎるぐらいだ。
ずっとそのままでいて欲しいと、心からそう願ったのだった。
早くも100PV……!?
いつもありがとうございます!