47.とある人とカニの探検
「じゃあ行ってきまーす!」
「あぁ、いってらっしゃい」
そうヴェルに言って、宿屋から駆けて出る。
今日は清々しいほどの快晴で、探検日和だった。森にいた頃とはまた違った晴れ空に、無意識に胸が高鳴る。
じゃあ最初は何処に行ってみよう、と考えていると、いつの間にかクラが俺の肩に陣取っていた。
「おはよう、相変わらず元気だね」
しゃきん、とハサミで返事をされ思わず笑ってしまう。すっかりそれが返事の代わりとなってしまったらしい。
取り敢えず適当に歩いてみるかと思い、気の向くまま歩みを進める。そうして最初に、海に近づいてみた。一番近かったし。
まず靴を一旦脱いで、波打ち際すれすれに立った後、屈んで海の中を覗くようにして眺める。奥に向かうにつれて徐々に深く、濃い青色になっていくのを見ていると、何故かこちらまで吸い込まれそうな感覚がして。
その時、一際大きな波が俺の足元を掬うように満ちて引いていく。
何とも言い難いその感触に戸惑いつつ、あまりの波の大きさに張り詰めていた息を吐き出した。
「び、っくりしたぁ……そのまま流されるかと思った」
人ひとりぐらいなら簡単に攫えそうな海は、確かに生命の母と形容されるのも頷ける。まぁ俺の親はヴェルだけだけどね?
そう思いながら、しばらく海水に足を浸して楽しむ。砂で城でもつくろうかとも考えたが、それはヴェルと一緒に作りたいと思ったのでやめた。
ふと周りを見ると、俺みたいに一人で来ている人は少なく、二人以上で来ている人が多くて少し居心地が悪くなるのと同時に、ヴェルと一緒に来れば良かったかなと思ってしまった。
「ふふ、慰めてくれるの?クラ」
心配そうにこちらを見てくるクラにそう答える。
残念ながら、俺はそんなにか弱くない。確かにちょっと後ろを向きたくなる時もあるけれど、やっぱり人生は明るく生きていたいよね。
……それに俺が笑うとヴェルも笑っていてくれるから。
だから俺は何があっても笑顔でいると決めている。
「じゃあ次のとこ行こーっと」
後ろについた砂を軽く払い、立ち上がって再び歩き回る。
例えば、大きなヤシの木を見上げて首が痛くなったり、大きな葉に包まれた甘い何かを食べてみたり。そんな風に海以外にも初めてな事ばかりだったから、物珍しさに色々な所を歩いていると、目の前に何故かボロボロになった男二人組が現れた。
「おい、こいつならいけるんじゃないか?」
「そうだな、黒髪の奴には返り討ちにされたが……」
「恨むんじゃねぇぞ、こっちも仕事だからな」
「うわ」
唐突に振られた拳を避けて、その流れで回し蹴りをする。目の前で相棒がやられたのがよっぽどショックだったのか、呆然としているもう一人にも手刀を入れて気絶させる。
台詞の割には呆気なかった人たちを眺めて思わずこう呟いた。
「で、結局何だったの?」
そういえばさっき黒髪の人に返り討ちにされたって言ってたっけ……。
……え、黒髪?もしかして……いやでも、違うかなぁ?
ぼんやりと大好きな親のことを思い浮かべながら、日も暮れ始めたので取り敢えず、帰路に着くことにしたのだった。
歩いて数分。ようやく俺が泊まっている宿が見えてきて。
それと同時に俺にとっては馴染みのある、そして今朝ぶりのヴェルの姿も見えた。
「ヴェル!」
「グリュン、その様子だと楽しかったようで何よりだ」
「結局会えなかったなぁ……」
「ここで会えてるんだから良いんじゃないのか?」
「まぁそれはそう、なんだけど」
でも街の中で会いたかったなぁと溢すと、ヴェルに苦笑いされる。
それに釣られるように、俺も声を上げて笑った。
今思うと、昔よりも笑ってくれるようになったヴェルに満足しつつ、お互い今日あったことを話し合うのだった。




