44.潮風の贈り物
「楽しかった!」
「それは良かった」
今回はちゃんと気を保っていたグリュンに成長を感じつつ、再び俺たちは歩き始める。否、歩き始めようとした。
ざざっ、と音を立てて大柄……とは言っても俺より背は低いが、がたいだけは良い男三人組が目の前に現れる。その典型的な盗賊の現れ方に、あぁ今も昔も変わってないんだなと変なところで実感した。
「よう兄ちゃん、旅人かい?」
「だったらその荷物、悪いことは言わねぇから」
「さっさと置いていきな!」
三人揃って一人みたいな自己紹介?をしたそいつらは、どうしてもこちらを笑わせるための何かにしか見えなくて。とは言っても、向こうも一生懸命にやっているはずなので、俺が笑う前に託すことにした。
「グリュン、後は任せた」
「分かったー!気絶で良いの?」
「好きにしていいぞ」
「りょうかーい!」
命までは取るなよーとグリュンに言って数十秒。
屈強な男たちが小さなグリュンに薙ぎ倒されているのは、少し滑稽とも言えそうだがまぁ、因果応報ということで。
自分の実力と相手の実力を見極めてから、勝負を挑まないとな。
そんなことを考えていると、終わったらしいグリュンが駆け寄ってきた。
「終わったよー」
「ありがとなグリュン。しかも気絶か……上手くなったな、偉いぞ」
そう言いながら頭を撫で、褒めると、嬉しそうに笑う。グリュンが手加減という概念を覚えてくれて俺は嬉しい。
取り敢えず一旦、三人を闇魔法で拘束しておく。その時、何故か既視感を覚えたような気がしたが、思い出せなかったので早々に忘れる事にする。
そして目覚めた三人から上っ面だけの、さして面白味のない罵倒を聞きながら、先程の樹の根っこの近くに転がしておいた。
「いつか見つけてもらえるだろ」
「人あんまり居ないけどね、この辺り
「じゃあ運次第だな、こいつらの」
中々無慈悲なことを言っている自覚はあるが、流石に死にはしない……と思う。おそらく俺は死なないが、人間は知らない。あぁでもグリュンは多分、生きていると思う。
さて、と二人揃って踵を返し、ようやく歩き出す。
俺の予定では、もう少しで海沿いに出る。この前川で遊んでいた時、グリュンが海に憧れているようだったので、急遽道を少しだけ逸らしたのだ。
『ネーヴェ』に早く着かないといけない理由もないし、折角ならグリュンの行きたいところを回ってから行きたい。
すると突然、グリュンが小さくこう呟いた。
「ん……?風の香りが変わった?」
───流石だ、と心の中でそう思う。
まさかこの距離で潮風を捉えられるとは思っていなかった。
そう、この草原をこのまま真っ直ぐ行けば、もうそこは。
「……っ、ヴェル!」
「どうした?」
「どうしたじゃなくて!もしかして、これ……!」
「あぁ、前に話した『海』だ」
目を輝かせて、小さく感嘆の声を溢すグリュン。俺は、それが見れただけで満足で。そして隣には遊びたそうなグリュンがいるので、この海の近くに位置する街『シャトレア』に向かうべく、止めていた足を動かして歩き始める。
──こうして俺たちは『シャトレア』に寄ることになったのだった。




