43.木漏れ日と昼下がり
「え」
目の前を歩いていたグリュンが突然立ち止まる。どうした?と問うも、返事は返ってこなくて。疑問に思い、グリュンの視線の先を見る。
───するとそこには、大きな樹が俺たちの前にそびえ立っていた。
優美でいて、それでいて壮大。世界樹かと見紛うほど美しい樹だったが、残念ながら世界樹は別にある。
ということはこの樹は本当に道端の樹。それに気が付かないグリュンではないので、言い出すことはただ一つ。
「ねぇヴェル!この樹、登っていい?」
「……だと思った。良いぞ、気をつけてな」
「わーい」
器用にもすいすいと登っていくグリュンを見やりながら、少し苦笑いする。高い場所が好きなのは昔と変わっていないらしい。
ふと、樹の上を見る。確かに樹の上の見晴らしは良さそうだ。丁度お昼時ではあるし、そこで食べるのも良いかも知れない。
そう思って軽く跳躍し、グリュンが腰掛けている枝に着地する。
「っわぁ!?」
「すまない、驚かせたか?」
「そ、うじゃないけど……久々にヴェルの人外っぷりを見たかも……」
「そうか?」
「だ、だって……ここ竜形態のヴェル以上の高さあるよ?」
え、と思って下を見ると、確かにそれぐらいの高さはあった。地面よりも空が近いようなその場所で、少しグリュンに驚かれつつも本日のお昼ご飯を二人並んで食べる。
さわさわと音を奏でる葉擦れの音が心地良い。清々しく吹き抜ける春風がグリュンの少し伸びた髪を撫でていく。
「絶妙にかゆい……」
「風情ないな、それ言われると」
「これでも一応結んでるんだけどなぁ」
ぴよぴよと小さな尻尾がグリュンに合わせて揺れる。そろそろ切り頃かも知れないな、と考えていると、グリュンがさっと尻尾を隠す。
その不可解な行動に、思わず首を傾げるとグリュンは数秒後に、おずおずといった様子でこう言った。
「俺……これ伸ばしたい」
「え、まぁ構わないが……何でまた?」
「首に巻くとあったかいから?」
「あぁー……?」
それなら別にマフラーでも良いのでは?と思ってしまったが、何か考えがあるんだろうなと思って否定はしなかった。
しない、が……マフラーがわりの髪の毛って、それで良いのだろうか、グリュンは。
そう思ってグリュンの方を向くと、呑気に鼻歌を歌っていたので、何とも言えなかった。
「……あ、ねぇヴェル?」
「どうした?」
「もしかしてヴェルは下りる時も普通に飛び降りる?」
「まぁそうだな」
大して痛くはないし、いざとなれば羽を出せば事足りる。
そんな風に考えていると、グリュンはその後にじゃあ、と続けた。
「じゃあ最初の時みたいに、俺を抱えて下りれる?」
「下りれるが……楽しかったのか、もしかして?」
「うん!」
屈託のない笑顔でそう言われて、何とも言えない気持ちになる。効率がいいからと俺が強引にした事なのに、こうも純粋に楽しかったと受け止められてしまっては、どうして良いか分からなくなってしまう。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、グリュンは駄目?と言ってきた。
「……分かった。その代わりしっかり掴まってろよ?」
「やったー!ありがとう!」
「そんなにか……?」
昔よりも遥かに人間らしい重さになったグリュンを抱える。
命と、これまで元気に育ってくれた事への感謝がこもったその重みを実感しつつ、前のように俺は、樹の下へと飛び下りたのだった。
お久しぶりです。
ようやく落ち着いたので更新再開していきます!
そして何より、更新していない間も見て下さり、ありがとうございます!




