40.出発の日
「本当に良いのか?」
「だっていなかったんだもん」
出発の日。俺は早々にアルトリウス様とスーウェンに別れを告げてきたが、グリュンの方は少々難航気味らしい。
どうやらルークが町中どこを探しても見つからないらしく、ついには諦められていた。
それで本当に良いのかと思いつつも、グリュンが決めた事ならまぁ良いのか?とも思っている。
「ねぇヴェル、次はどこ行くの?」
「一応予定としては『ネーヴェ』だが……道中にも町やら村はあるから、すぐじゃないな」
「へー……ん?なんか来た?」
ふと、グリュンが後ろを振り向く。それに釣られて俺も振り向くと、久々に見た黒色がこちらに走ってきていた。
「っは、間に合った……っ」
「どうしたの、ルーク?」
「グリュンにこれを、渡したかったんだ」
「……これは」
鈍く、青く光る石。それは紛れもない、召喚石だった。
基本的には魔物を捕獲して作り出すが、ここまで綺麗な色は出せない。となると考えられるのは。
「俺の加護は『幻獣の息吹』。これを使ってくれれば、俺はいつでも助けに行ける」
「……でもルークってあんまり強くない……」
「それは……言われると困るが。でも俺も、グリュンやヴェルさんみたいに強くなって見せるからな!」
「期待せずに待ってるね」
「相変わらずひどいな」
そんな二人の会話に思わず笑みが溢れる。もしかしたらこの二人はいい相棒になるのではないだろうか。若干グリュンの扱いが辛辣ではあるが。
ただ、ルークも、俺やグリュンと比べるから弱そうに思えるのだが、恐らく一般的に見ると強い部類に入るのではないかと思っている。
少なくとも武器の扱いは俺たちより上だし、咄嗟の判断も早い。これで魔法も上手なら完璧だったのだが。
「何か変なこと考えてませんか、ヴェルさん」
「いや?まぁ頑張れ」
「投げやり……」
「と、いうか良いの?この召喚石、ルークの大切なものじゃないの?」
「あー……まぁグリュンなら間違った使い方しないだろうって、信じてるからな」
まっすぐなその目に思わず息を呑む。何故そんなにグリュンが信頼されているのかは分からないが、嘘を言っているようにも見えなかった。
確かに召喚石は、一歩間違えれば世界を滅ぼしかねないものだ。世界だけでなく、自分自身でさえも。
何があったか、は結構長くなるので今は話さないが、いつか話そうと思う。
あ、ちなみに俺は何も関係してないからな。
「じゃあまた、帰ってきた時に思い出話、聞かせてくれ」
「分かった、貯まる前に喚ぶね」
「おい」
そうしてグリュンのルークとのお別れも終わり、じゃあ出発するか、となったのだが。一つ問題……というか気がかりがあった。
それは、俺に強烈な嫌悪を与えていった『勇者』についてだ。
アルトリウス様にそれとなく聞いてみても、それとなく濁されてしまったし、スーウェンには何故か苦い顔をされた。そんなに癖がある、もしくは厄介な人物なのだろうか。
まぁ、今すぐどうこうではないのだから気にしなければ良い話なのだが。
ただ、何があったとしても。
「ヴェル、行こう!」
「ああ、道端の草は勝手に食べるなよ」
「はーい」
───グリュンの旅は見届けたい。
そう心から誓うのだった。




