36.落ち着く場所
「俺、今日ここにいる……」
げそっとした声が微かに聞こえる。どうやら昨日で元気を使い尽くしたらしい。まぁ仕方ないか、俺だってかなり緊張したから疲れている。
なら今日はのんびりしよう。そう思って俺は一冊の本を取り出した。この本は少し前に通りで見かけたもので、そこまで長い訳ではないが『花の誓い』と言うタイトルに惹かれて買ってしまった。
御伽話っぽいので、いつかグリュンに読み聞かせてあげようと思い読み始める。
すると読み始めた途端、俺の膝に小さな重力が乗っかった。
「……どうした?」
「ヴェル、何読んでるの?」
「少し前に買った物語だ。いつか読み聞かせてあげるから待っててくれ」
「俺も読んじゃ駄目?」
「構わないが……」
しれっといつの間にか俺とほんの間に滑り込んでいたグリュンに苦笑いしつつ、本を読み進めていく。
それは永遠の命を持つ鬼と、はるか昔に友であった人間の話だった。
ある日生まれ変わりだと思われる少年に出会った鬼は、喜びつつも自分のもとに訪れる理由がないだろうと、一度きりの夢だと言い聞かせる。しかしそんな鬼の予想を裏切って少年は大人になっても、年老いてもなお訪れ続け───そして最後に来世で、と言い残していく……。
と、まぁそんな話だった。
「ん?いつの間に……」
気がつくとグリュンはすやすやと眠ってしまっていて。元々グリュンは文字を読むのが苦手だったから読み切れるとは思っていなかったが。
そんなグリュンを抱えてベットに寝かせる。しかし本を読んだとは言ってもまだ昼前。本気で何もすることがない。
どうしようと悩むうちに、そういえば結局貰ったカードって何が出来るんだ?と思い、じっくり観察してみることにした。
……よくよく考えれば俺もグリュンも武器を持ってない。買いに行かないと、いつまで経っても丸腰というわけにはいかないよな。
「とは言っても、カードには自分のランクが書いてあるだけ、か」
あんまり俺たちには関係ない仕様に、俺は早々にして思考を投げ捨てる。
一応盗賊を捕まえていたからか最低ランクは回避しているのだが、一個上なだけなのでなんとも言えない。
「仕方ない、溜まりに溜まった仕事をしていくか……」
洗濯やら片付けやら、その他諸々。
それをこなしていけば時間は過ぎていくだろうと信じて、俺は作業に取り掛かった。
♢♢♢
「ん……」
「お、起きたかグリュン」
「おはよ……って、え、もう夜!?」
「そうだな、よく眠ってた」
結果として夜まで眠り姫となっていたグリュンに苦笑いしつつ、水を手渡す。寝癖からか若干爆発気味になっている髪の毛に思わず笑いそうになったものの、なんとか堪えた。
「思ったよりヴェルの近く、安心する」
「近くというか俺が包んでたけどな、あれは」
「落ち着く場所っていうのかな、そんな気がする」
「俺が落ち着く場所って……」
大丈夫だろうか、この子は。俺はもしかして育て方を間違えたんじゃないだろうか。
もう何度目かも分からないその心配を胸にしつつ、晩御飯の準備に取り掛かるのだった……。




