34.アルトリウス・ゼア・フルーム
「お初にお目にかかります、グリュンと申します」
しっかりと、俺が教えた通りに挨拶をしてくれて内心ホッとする。王様相手に友達感覚で行かれたらどうしようかと思っていた。
真面目な顔でお辞儀して、そう挨拶をしたグリュンは大人だった。先程まで嫌だと駄々を捏ねていた面影はない。
どこか誇らしい気持ちになりながら、俺も同じように挨拶をする。そして二人揃って顔を上げて名乗りを聞こうとしたその時、少し俺は驚いた。
「私の名前はアルトリウス・ゼア・フルームだ。以後よろしく頼む」
女王様だったのか。それにフルームといえば確か、人類最強と名高い家系だったような。
よく見ると輝かしいほどの銀髪を靡かせ、氷のように冷たく鋭い瞳をこちらに向けているその表情は、まさに王者の貫禄がある。
ちょっと実力を見せてもらいたいかもしれない、なんて思っているうちに、アルトリウス様とグリュンの会話は進んでいく。
かと思えば突然王の間にいた衛兵を全員取り払った。
「え、あの……アルトリウス様?」
困惑のあまりグリュンがそう口にすると、アルトリウス様は先程までの厳しげな表情から一変して柔らかく、そして優しそうな顔に一瞬で変わりこう俺たちに言った。
「───そんな堅苦しくならなくても大丈夫よ、グリュンちゃん」
「……成程、こちらが素なのですね」
「あら、よく気づきましたねヴェル様」
「──私に敬語など不要ですよ、アルトリウス様」
そう俺が言うと、ふふ、と小さく笑われた。
何故だろう、俺は今の一瞬でこの人に敬われるようなことは……いやしてないな。
「私には分かりますわ、ヴェル様は竜でしょう?それもかなり上位の。
……それを敬うなと言う方が無理な話です」
「流石ですね、アルトリウス様」
「それにしても、初めてです。本当の竜と出会うのは」
「まぁすでに滅びかけている種族なので仕方がないといえばそうなのですが……」
俺のせいでとは言わなかった。そうしてアルトリウス様と会話を続けていると、とある声が挟まれた。
「……あの失礼を承知で申し上げますが、話って結局何だったのでしょうか?」
若干焦ったくなったグリュンが間に割って入る。確かにそれは俺も気になるところだ。正直正体がバレたのは気が気でないが、アルトリウス様からは悪意を感じない。純粋な敬愛だけだ。そこまで心配する必要はないだろう。
「そうでした、私はグリュンちゃんの加護が知りたかったのです」
「グリュンの、ですか?」
「おそらくはヴェル様の加護でしょうけど……それを使ったらどうなるか、やってみてはくれないかしら?」
それを言われた時、グリュンは少し困ったような顔をした。しかし取り繕うようにこう返したのだった。
「この加護は正直な所、自分でもよくわかっていないのです。もし宜しければ加護について教えて頂けないでしょうか?」
「あら良いわよ、勉強熱心な子は嫌いじゃないわ」
上手に会話を躱し、しかも俺が知りたかったことまで知れるよう誘導したグリュンに今すぐ流石だと言いたい。
ちら、とグリュンを見ると、今までと同じく澄ました顔をしているが、俺には少し誇らしそうな表情が混ざっているようにも見える。今すぐ自由に話せたのならきっと褒めろと言ってくるに違いない。
そう考えて心の中で笑う。
しかし俺たちは知らなかった。
アルトリウス様は加護のことを知っているどころか、マニアの部類に入るほど詳しく、かなりの長時間を拘束されるという事に……。




