31.一夜のひととき
「ヴェル!これ着てみて!」
「……これは何だ?」
「俺が頑張って作った!」
何のための服なのかよく分からない服をグリュンから差し出される。
見た感じは表が黒で裏地が赤のマントと、黒色の蝶ネクタイ。そこでやっと、グリュンの意図が分かった。
「成程、仮装したかったのか」
「そう!ヴェルに似合うかなって思って……」
その服に袖を通す。昔もらったマフラーと比べ物にならないくらい、美しく、そして丁寧に仕上がっていた。
ふとした所でグリュンの成長を感じるんだよなぁと思いつつ、しっかりと蝶ネクタイまでつけてグリュンの前でくるり、と一回転する。
たなびく度に、漆黒が部屋の光を吸収して光沢を帯びる。重くもなく、かと言って破れそうなほど脆くも無いそれを着た俺の姿はまさに───
「───吸血鬼っぽいな」
「やっぱりこれが、ヴェルに一番似合うと思ったの」
「まぁ確かに狼とかよりは似合うかもしれないが……俺がこれ着て誰が喜ぶんだ?」
「え?俺だけど」
「…………」
完全にグリュンに嵌められた気がする。昔はそんな子じゃなかったのに。
ちょっと仕返しにグリュンにもイタズラをしてみようか。
とは言ってもそんな複雑なことはしない。ただ俺のような羽を背中に出現させるだけだ。あ、ついでに角もつけよう。
パチン、と指を鳴らす。これは闇魔法の中の『顕現』だ。
自分の想像するままに、魔力が足りていれば作り出せると言う、かなり使いようによっては厄介な魔法だ。俺はこんなしょうもないことにしか使っていないのだけれど。
ただ、出している間はずっと魔力を削り取られてしまうので俺でも持ってほんの数時間だった。
「わ!?何これ!?」
「俺なりのお返しだ」
「わぁ……俺これすごく嬉しい……」
ちっちゃいヴェルになったみたい!と喜んでいるグリュンを見てほっと息をつく。喜んでくれて何よりだ。嫌だ、と拒絶されたらどうしようかと思った。グリュンは反抗期が来てももうおかしく無い年齢ではあるのだから。それなのに何故か来る兆しも見えないが。
「そうだグリュン、クッキー焼いたんだが食べるか?」
「え、食べる!」
それはグリュンが大量に買ってきたイチゴと、俺が部屋で待っていた時に何故かお裾分けされたかぼちゃで作っていた。何故かというと、ただ単に俺が暇だったので。
さく、という音を聞きつつ、ほのかな甘みや美味しそうに食べているグリュンの表情を楽しむ。
───二人だけで、こんな風に楽しむのも良いかもしれない。
「グリュン、ハッピーハロウィン」
「ハッピーハロウィン、ヴェル!」




