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世界最強の竜、子育て始めました!?  作者: 蒼空花
第二章「世界を巡る旅へ」

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29.小さな一人旅と出会いと


「本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫!ヴェルは心配しすぎなの!」

「なら良いんだが……」


 今日は唐突にグリュンが一人で出掛けてみたいと言い出した。

 確かに森で生活していた頃は日常茶飯事ではあるのだが、今、ここは街であっていつもの森ではない。しかもまだ二日目なのだし、もう少し慣れてからでも良いのではと思ったのだが、グリュンは頑なに嫌がっていた。


「じゃあ行ってくるね!」

「ああ、行ってらっしゃい」


 結局行ってしまったグリュンの背を見送る。

 ……予期せぬグリュンの外出に俺が暇になってしまった。

 仕方なく部屋にあった椅子に腰掛け、適当に本でも読みながらグリュンの帰りを待つ事にしたのだった。


♢♢♢


「どこ行ってみようかなぁ」


 ぶらぶらと当てもなく宿屋から出て歩いていく。ちょっとやってみたかったんだよね、一人でお出掛け。どうしようかな、ヴェルにお土産も買って帰ってみたいし、ただ単純に色々な物を見て回りたいと言う欲もある。

 じゃあ両方すれば良いと言う話になってしまうのだが、それはそれで面白くないかなぁとか、無駄な考えをしてしまっていた。


「……ん?何これ」


 はら、と一枚の紙が俺の目の前を通り過ぎていく。それは何かのお知らせのようだった。


「……の、帰還、祭?」


 一番大切であろう所が読めなくて少しもどかしくなる。

 ただ、何というか。感覚的に嫌な感じがしたので、わざわざ追いかけてみるようなこともせず、風によって舞っていくのを見ている事にした。

 それにしても、ただ帰ってくるだけで祭りが開かれるというのはなかなかに豪華だと思った。そんなに重要な人物なのだろうか?


 そう思いながら歩いていると、果物を売っている露店の前を通りかかる。何気なく見てみると、森で見慣れているリンゴやブドウと、それと……見た事ないのがたくさん。


「お、興味があるか?」

「うん、それなんて名前なの?」

「それはイチゴって言う、酸っぱくて甘い果物だ。何なら一つ食べてみるか?」

「いいの?」

「いいぜ、お前さんそもそも買ってくれそうだしな」


 バレてる、と思いつつも一つ貰って食べてみる。それは確かに酸っぱさはあったものの、ほんのり優しい甘さが丁度良かった。

 結局買っていった俺は、おまけに貰ったかご片手に再び歩いていく。すると、昨日ヴェルにデコピンされていた人が街道の端っこで黄昏たように座っていた。

 そのまま見て見ぬふりをして通り過ぎようとした時、すかさず「待て」と声を掛けられた。


「もー何?何なの?」

「確か、昨日いた奴だよな?」

「そうだけど」

「……頼む!一つ頼みがあるんだ!」

「えぇ……?」


 やだ、と言いかけて、そこでふと気付く。この人、俺とあまり年齢が変わらない気がする。ちゃんと顔を見たこともなかったし、見ようともしなかったから気付かなかったけど。

 少しぼさぼさしているが、黒色の髪はヴェルと比べるとそうでもないけれど綺麗だし、紺色の瞳はアリアみたいに切れ長でかっこいい。こんな人を顔立ちが整っていると言うのだろうなと思った。


「聞くだけ、聞いてあげる」

「本当か!?」

「うぅ……ほんとに、聞くだけ」


 ルーク、と名乗ったその人は俺にこう言った。

 簡単に言うと、強くなりたいのだとか。何故俺?とも思ったが、流石にヴェルに言うわけにはいかないんだろうなぁと思っておく事にした。


「そういえばお前、名前は?」

「えー教えなきゃ駄目?」

「いや、俺は教えただろうが」

「……グリュン」

「へぇグリュンか、良い名前だな」

「!ルークも、良い名前だと思う」


 ありがとな、と返される。俺は生まれて初めて名前を褒められて少し嬉しくなった。

 話を聞いていくと、どうやら盗みはしたかった訳ではなく、お金が必要だったから仕方なく行っていたらしい。それでヴェルに捕まっちゃったんだ……。

 曰く、病気の妹が居て、しかも親が居ないから自分が稼ぐしかないのだと言っている。


「良いなぁグリュンのとこは強くてかっこいい兄貴がいて……」

「……ヴェルはお兄ちゃんじゃないよ?」

「え?」

「ん?」

「あー……もしかしてそっちも複雑なのか……。悪かったな気軽に聞いて」

「───え?」


 何かとんでもない勘違いをされているような気がするが、訂正の仕方が分からなかったのでしなかった。しておいた方が良かったような気がする。

 すると、ルークは突然、こう切り出した。


「グリュン、俺に魔法を教えてくれないか?」

「え、俺が?」

「あぁ、何か魔法上手そうだ」


 ………これ、もしかして巻き込まれてる?───

 そう思いつつも、何だか放っておくこともできなくて。

 仕方なく、かつての俺とヴェルのように、ルークの魔法の練習に付き合ってあげる事にしたのだった。


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