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世界最強の竜、子育て始めました!?  作者: 蒼空花
第一章「旅立つその日まで」
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2.白雪グリュン

 秋の季節は採れる木の実や果物が豊富になる。

 それに加え、グリュンは森を探検するのが好きだったから、晴れの日はほぼ毎日のように森へ出掛けていた。少し心配ではあったが、人間側では「可愛い子には旅をさせよ」とか言うらしいので大人しく何も言わずグリュンの好きにさせていた。だから今日も同じように出掛けるのだろうと思っていたら、出掛ける間際のグリュンに手を引かれた。


「ん、どうしたグリュン?」

「ヴェル、ちょっと来て!」


 来て、という前に引きずられているが気にしない事にして、グリュンに手を引かれるまま森の中を進んでいく。

 3分程歩いた後ある一本の大きな樹の前に着いた。

 正直ここに住んでもう何年、何千年と経っているがこの樹の存在を俺は知らなかった。いや、知ろうともしていなかった、が正しいのかもしれない。

 いつも自分の住処に引きこも……いたからな。


「……グリュン、ここがどうかしたのか?」

「ここの樹の上にね、果物がなってるの」

「それを取りたいから呼んだのか?」

「うん!」


 梯子の代わりにされているような気がしなくもないが一旦グリュンを肩車する。

 しばらく経って、もぎ取った様な音が聞こえたのでゆっくり地面へ降ろすとグリュンの右手に青紫色のりんごが見えた。しばし嬉しそうなグリュンを眺めているとある事に気がつく。

 ……待て、あのりんごの色、それに黒色の葉……。

 もしかして毒りんごとか言うやつではないだろうか?

 正確な名称は覚えていない、覚えていないが食べるべきものではないことぐらい俺にもわかる。

 流石に取り上げようと俺が動いたその時。あろう事かグリュンがそれを食べようとしている事に気がついて久々に俺は血の気が引いた。


「───っ待て!それは……っ!」


 毒りんご、と言う前にしゃくっ、と軽やかな果実のかじられた音が聞こえた。と同時に倒れたグリュンを慌てて後ろから支える。

 ああもう、これだからグリュンへの心配が尽きないのだ。


「ヴェル……ありがと……」

「どう見ても怪しかっただろ、あのりんご」

「……一周まわって美味しいのかなって思って……」

「なんでだよ」


 しかし、どうしようか。俺は絶望的なほど回復魔法や治癒魔法の適性がない。とは言っても使えないわけではないのだが、適性があるのとないのとでは効果に天と地ほどの差が出てしまう。

 いや効果に差が出るぐらいならまだしも失敗する可能性も高い。それならいっそグリュンの自然治癒力に任せるか……?


 そう何故かこの子は回復力が高い。しかも、それを俺が疑問に思って『鑑定』しようとした時、不思議にも弾かれてしまったのだ。

 俺の記憶が確かならグリュンに精神干渉系の妨害術を教えた事はない。

 そもそも魔法自体教えた事はないし、俺の『鑑定』が弾かれてしまう以上何の属性が適しているのかすら調べられないから教えようがなかった。


「一旦住処に帰るぞ、それで良いか?」

「うん、本当はもっと行きたい所あったんだけど……」

「治ったらまた行けば良い」


 だから俺が今できる事はグリュンを安全な所で寝かせて栄養のある食材を採ってくる事。幸いにも木の実や果物に困る時期ではない。正直に言うなら肉や魚も用意してあげたい所だが、俺が近づく以前の問題としてここ一帯は俺を恐れて何も近づかないから調達のしようがない。ここまで怖がられると俺も傷付くのだが……。

 まぁそれは良いとして。一旦グリュンを連れて帰るか。

 そう思った俺は人型の状態を保ったまま羽だけを出してまだ昼前の青空に飛び立った。


♢♢♢


「ヴェル、もう治った!」

「分かったから、今日は一応安静にしとこうな」

「……けち」

「聞こえてるぞ、と言うかどこから覚えてくるんだ」


 結論から言うと、グリュンの毒状態は一日足らずで治ってしまった。

 転んで膝を擦りむいた時よりも治るのが早かったから、あのりんごの毒は石ころよりも弱かったらしい。毒が石以下というのもどうなんだと思ったものの何か耐性的なものが関係していたのだろう、と勝手に結論づけた。

 ただ、一時的とはいえグリュンが昏睡状態になった時は焦った。

 どこぞの森の眠れる姫みたいになるかと思ったのだ。いや王子か?……まぁいいか。


 それにしても結局グリュンの治癒能力の真意はわからないままだった。

 俺の『鑑定』を弾くことも聞いてはみたが本人は本当に知らなさそうな顔をしていたので、おそらくわざとではないのだろう。そうなると余計に対処のしようもないのだが。


 ───ただ、何はともあれ俺はグリュンが元気ならそれで良い。


 そう伝えるとくすぐったそうに笑う。

 ただ怪しげな物を躊躇いなく食べるのは止めてくれと心からそう思い、グリュンに釘を刺したのだった。

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