27.自分で招いた厄介事
一際大きく、目立った建物に辿り着く。ここがカードが貰えるところ、なのだろうか。よく分からないが取り敢えず入ってみよう、と思ったその時。焦ったように複数の人が入っていった。
「何かあったのかな?」
「……おそらくそうだろうな」
既に開いている扉を通って、そのままカウンターらしき所まで歩いて行く。しかし、色々な人たちが走って行っていたりしている。
───見るからに凄く忙しそうなのだが、このまま行っても大丈夫なのだろうか……。
そう思っていたのはグリュンも同じだったようで、少し躊躇う。
それでも、このまま待っていたとしても収束しそうにないと思った俺たちは、意を決して声をかけてみることにした。
「すいません、今大丈夫ですか?」
「あ、はい!大丈夫ですよ、どうかしましたか?」
元気にそう答えた受付の人はどうやら女性らしい。水色の髪を肩のあたりで切り揃え、先を緩くカーブさせているその姿は優しそうだった。
とは言え、本当に忙しそうなので早めに要件を言って去った方がいいのだろう。
「えっと、冒険者カードというのが貰いたくて」
「分かりました、再発行ですか?それとも新規作成ですか?」
「新規作成の方でお願いします」
「じゃあ登録からですね、少々お待ちください!」
そう言いながら俺に渡されたのは一枚の紙。そこには名前と……。
そこまで見て、首を傾げた。
この紙、名前以外は記入できないようになっている。
「これから色々な適性をこちらで測らせて貰いますね」
「あ……すみません、この子にも貰えますか?」
「良いですよ、はいどうぞ」
ありがとう!と受け取ったグリュンはすぐに、ん?と首を傾げる。どうやらグリュンも気付いたらしい。そう思いつつ紙に名前を書こうとした時、名前をフルネームで書くようになっていることに気付いてしまった。
……俺はいわゆる名字を持ってないのだが、どうしたら良いんだ……。
ちら、とグリュンの方を見ると、グリュンもまた俺の方を困惑したような表情で見ていた。
───あ、そうか。
ヴェルを名前にして、ノアールを名字にすれば何とかなるのでは?
となると……。
「ヴェル・ノアールさんですね。えっとこちらは……グリュン・ノアールさん?
成程、兄弟でしたか!弟さん可愛いですね!」
「え、俺弟じゃ───」
「ありがとうございます、な、グリュン?」
「むぅ……」
この見た目で親子とか怪しまれる事この上ないので、不服そうなグリュンを遮ってそう言う。俺は厄介事を呼び込みたくない。
「それでは次に、魔法の適性を調べさせてもらいますね。ヴェルさんの方からこちらの水晶に手をかざして下さい!」
「分かりました」
水晶に手を当て、魔力を込めようとしてふと思う。もしかしてこのまま込めたら大変な事になるのでは?と。
それでなくとも光以外の適性が全てあるのは異質すぎる。
───ここは少し、誤魔化すしかないか。
意図的に魔力を氷と闇だけ流すように制限する。本当は闇を一番隠したかったが、魔力量が一番多いので隠したくても隠せない。
「わぁ、二属性ですか!しかも闇まで!滅多に居ませんよ!」
「ありがとうございます、じゃあグリュン、やって良いぞ」
「はーい」
ぽふ、と音が鳴りそうな手の置き方をして魔力を込めていく。グリュンも俺の意図に気づいてくれたのか、上手く調整して風と光だけを流してくれた。
そうして俺と同じような歓声をグリュンも受け取った後、こちらに向かって褒めて欲しそうな表情を向けたので、取り敢えず頭を撫でておいた。
「では次に武器の適正を調べますね。こちらをお持ちください!」
そう言って次に手渡されたのは青い石。かと思ったら片手剣のようなものに変化する。もしかしてと思ってグリュンに手渡したところ、グリュンは二対の短剣に姿を変えた。
珍しい、どんな仕組みになっているのだろう。
少し探究心がくすぐられた所で、いよいよ最後となったのだが。
「最後は加護を持っているかどうか調べますね!」
───知らない。俺はそもそもとして持っているのか?どちらかというと与える側では?
いや与え方も知らないが。
混乱しているうちに、何か紋様の入った紙を手渡される。
俺が意を決して受け取ると浮かび上がったのは───雪の紋様が入った花。
「これは……もしかしてヴェルさんって北の方からお越しだったりしますか?」
「いえ、違いますけど……」
「この加護、北の方の人がよく持ってるんですよね。でも、ここまで綺麗に花の紋様が出てるのは珍しいです」
あれ?と思ってグリュンの方を向く。そう言えば前にそんな花を出していなかったか?しかし当の本人はなに?とでも言いたげに首を傾げる。仕草は可愛いがそうじゃない。
それにしてもいつ貰ったのだろう?そんな本人の自覚無しに貰えるものなのだろうか。
そんな風に俺が考えていると、てててっとグリュンが近づいてくる。どうした?と聞くと何も言わずに手だけを差し出される。
それに疑問を抱きつつも手を重ねると、刹那光が走った。
自分の力の一端を譲渡したような感覚。これが、もしかして。
「……グリュンは知ってたのか?」
「アリアから教えてもらってたー」
「成程な……」
持って帰る菓子を少なめにしてやろうと思いつつも、グリュンにどうだ?と尋ねる。ただすぐに、よく分からない!と返されてしまった。
ちなみにグリュンも紙切れを持たされて紋様が浮かび上がったものの、何の加護か分からなかったらしい。そりゃそうだろうな、俺の存在自体知っている人は少なそうだ。
そうしてやっとのことでカードを貰ったのは空が朱色に染まるどころか紫紺に染まっているぐらい、日の暮れた時間だった。
「疲れたぁ〜ねぇヴェル、今日はどうするの?」
「そうだな……普通にまだ───」
街の外で野宿なんだよな、と言おうとしたその時。ずるずると俺たちの隣を通って誰かが引きずられていく。
何となく俺が目で追ったその瞬間、ばちっと目が合う。
「あ」
闇魔法で拘束されているのは間違い無く、俺が昨日放置した人間だ。
「こいつだ!?俺を捕まえたやつは!」
え?と引きずっていたであろう人たちが一斉にこちらを向く。
───終わった、絶対面倒事だ……。
元はと言えば放置していた俺が悪いのだが。それでもあんな拘束ぐらいすぐ抜け出して欲しいと、自分でもなかなか無茶だと思う要求を心の中で呟きながら俺は笑顔でこう言い放った。
「知りませんそんな人」
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