23.救いを貴方に
ついに、来てしまったと思った。
俺にとっての運命の日。幸せの終わり。
前々から覚悟していたとはいえ、それでも名残惜しさはある。
けれど、引き止める事なく送りだそうと思っていたのに。
────いや、俺は思っていたんだが……。
「だからねヴェル、一緒に俺と旅、しよう!」
いや何で?と反射的に言ってしまいそうになった。
♢♢♢
「大分魔力の使い方も上手くなってきたな」
「本当!?」
「……あぁ、そうだな」
嬉しそうなグリュンの頭を撫でながら俺は少し複雑な気持ちになる。
俺に比べたらかなり背は低いが、その代わりに俊敏性があり、一度見失ってしまったら再発見するのが困難なほど素早い。何より一番厄介なのは、光魔法を利用した目くらまし。それを使って視界から消え、そしてその一瞬の隙を狙って放つ風の刃は俺でも回避するのに苦労する。
これだけ力があれば、きっと世界に出たとしても十分通じると思った。
……思って、しまったのだ。
「ヴェル、俺強い?」
「そうだな、強くなった。よく頑張ったなグリュン」
思ったが、グリュンはかなり努力家だ。毎日何らかの練習を欠かさない。
ただ、まるで何かに追われるかのように強くなっていったから、そんなにここから出て行きたいのか……?と思ったりもした。ただ、どうやらそれは違ったらしく、グリュンに全力で否定されてしまったが。
「ねぇヴェル、一つ言いたいことがあるんだけど」
「……なんだ?」
「俺ね、世界を見て回りたいなって思ってて……」
「………そうか」
ついに、来てしまったと思った。
来ると分かってはいたが、それでもやっぱり名残惜しい。
けれど引き止めるわけにもいかないから笑顔で送り出そうと心に決めた。
…………グリュンが次の一言を言うまでは。
「だからねヴェル、一緒に俺と旅、しよう!」
一瞬、何を言ったのか分からなかった。程なくして、やっと頭が理解しようとした。
した、のだが。結局一周回って何故?としか出てこなかった。
え、普通早く親から離れたいんじゃないのか。それとも、俺が願い過ぎた故の幻聴なのか?
一旦聞き返すか……?
「……え、今、なんて言った?」
「ん?だから、一緒に旅しよう、って?」
聞き間違いじゃなかった……。
こてん、と首を傾げてこちらを見つめているグリュンは嘘を言っているようには思えなくて。それだから尚更、分からなかった。
するとグリュンは混乱している俺にこう言った。
「俺ね、もっとヴェルと一緒に色んな事をしたいの。一緒に楽しい事をしたい。一緒に同じ物を見たい。
───それは理由にならないかな?」
「……グリュンは、それで良いのか?」
「何が?」
「俺といると争いに巻き込まれるかもしれないんだぞ?それに、俺が……」
───あの過ちを、繰り返さないとは限らない。
その言葉は声にならなかった。
俺の罪であり、呪いの象徴。
それは俺が抱えなければならないもので、間違ってもグリュンに背負わせてしまうものではない。
そんな俺の考えを遮るように、グリュンがこう言った。
「俺は、俺の夢は。
ヴェルに頼ってもらえるような人になる事。
全部、抱えられるとは思ってないけど、でも俺だって……」
「俺だって、ヴェルを幸せにしたい」
力強く、そう伝えられたその言葉は決意に満ち溢れていて。いつものグリュンからは想像できないほどの確かな意思を感じた。
そうか、だからあんなにも早く強くなっていったのか。
……今まで、何故グリュンが焦るように強くなっていたのか分からなかったが。
けれど今、全てが繋がった。
「………駄目、かな?」
心配そうにグリュンはそう聞いてくる。
確かに、俺自身への不安も過去への恐怖もまだ残っている。
ただそれでも、この日々を続けたいと、そう思っている自分もいて。
───だったら、答えは一つに決まっている。
「一緒に世界を巡ろうか、グリュン」
ぱぁっ、と目を輝かせる。
この先全く困難や苦労がないということは無いだろう。
もしかしたら、俺がまた何かしてしまうかもしれない。
それでも、きっと──
「本当!?絶対だからね!?」
───俺はこの、グリュンの笑顔と明るさに救われていく。
今までも、そして、これからも。
こうして俺の新たな竜生が幕を上げたのだった……。




