21.優しいぬくもり
とん、とん、と軽やかに野菜を切る音が聞こえる。俺にとって朝を告げる役割を持つそれに従うように目を覚ます。
と、言いたかったところだがなぜか体が動かない。寒いような暑いような複雑な気分でもあるし、頭がぐらぐらするような感覚さえある。
────これは、もしかして。風邪を引いたというやつじゃ……?
それでも一旦ヴェルに伝えないと、と思い、滑るように布団から抜け出す。動いて気付いたが関節も痛い。こんなに酷い風邪を引いたのはいつぶりだろう。少なくともここ最近はなかったよね、多分。
そんな感じで這いながら移動しているとちょうど良いところにヴェルが通りかかった。
「おはようグリュン……って、な、何してるんだ……?」
「おはよヴェル、俺風邪ひいたかも」
「あぁ……それなら部屋にいればよかっただろ?」
「……伝えなきゃダメかなって思って……」
「まぁ確かに助かった、取り敢えず部屋まで戻るぞ」
ひょい、と軽々しく俺を抱えたヴェルは俺が苦労して辿ってきた道を、最も容易く戻っていったので若干腹が立って頭突きをする。
しかし、俺が風邪を引いているからいつもの力が出ていないのか、それともただただヴェルが強かったからなのかは定かではないが、事実としてびくともしなかった。少し悲しいかも……。
「ご飯持ってくるから、大人しくな」
「はぁい」
「脱走するなよ」
「しないよ!?」
ヴェルは元気そうだな、と少し笑いながら俺の部屋を出ていった。
それから、俺は眠らないといけないと思ってはいるものの全く眠くなくて。ひたすら天井を見たり、外を見たり、頭の中でヴェルを数えたりと暇つぶしをしていた。
確かに朝よりかは体調が良くなったような気がするものの、気怠さと寒さは治っていない。
というか、ご飯まだなのかな……?
「グリュン、大丈夫そうか?」
「あ、ヴェル!」
「何か、元気だな?」
「うーん……」
「微妙なのか、まだ」
はい、と手渡されたお粥もどきを食べる。味付けは何も特別じゃないはずなのにヴェルの料理はすごく美味しい。俺がヴェルのレシピ通りに作ってもこうはならないのだ。
そんなふうに優しくて美味しいお粥もどきを食べ終わった後、ヴェルがどっか行こうとしたので引っ捕まえた。
流石に俺一人は寂しい。せめて俺が寝るまでは一緒にいてほしい。
「まぁ構わないが……何かしておこうか?」
「良い、ここにいて」
「……分かった」
近くにあった椅子に腰掛けたヴェルの手を握って、布団に潜る。
先ほどとは違ってすごく落ち着いて安心するその空間に、俺はすぐ眠りについてしまった。
♢♢♢
「あー……俺どうしようか」
はしっ、と強く握られてしまって手を見つめながらそう呟く。
グリュンにしては珍しく、辛そうだったので今こうしているわけなのだが。手を握る力がいつもより強すぎて少し驚いた。
まぁいつまでこうやってしてくれるかわからないからいい……のか?反抗期来そうだしな、もうそろそろ。
「───早く良くなれよ」
グリュンには元気な姿が一番似合う。
そう思いつつ、穏やかに、満足そうに眠っているグリュンの頭をそっと撫でた。




