16.歌を紡いで
「ねぇアリアー、今ひま?」
「暇じゃないと言ってもどうせ来るだろう?」
「それはそう」
がさ、と葉っぱをかき分けつつアリアがいつも居る湖に近づく。今は夏だからかアリアの髪の色は水色に、瞳の色は青色に変化している。季節に応じて変わるのちょっといいな……。
そんなことを考えながら湖の中央に浮遊しているアリアに手を振ると振り返してくれる。
意外と律儀らしい。
「で?今日は何の用だ?」
「今日はヴェルがシャーベット作ってくれたから、お裾分けに来たの」
「ありがたく頂戴する」
「……相変わらず反応早いなぁ」
クールな見た目に反してどうやらアリアは甘いものが好きらしい。そしておしゃれをするのも好きだとか。なので時々ファッションチェックされて、ヴェルと揃ってダメ出しされることもある。俺が思っていたよりこだわりが強かったようだ。
「それだけじゃないだろう、少年?」
「うん。ねぇアリア、俺に歌教えて?」
「……は?何でまた?」
「アリアの歌綺麗だなって思ったから?」
「えぇ……」
あ、なんか滅茶苦茶嫌そう。
そう、時々アリアはこの湖で歌を歌っている。初めの頃は鳥か何かだと思っていたから、音の発生源がアリアだと知った時はかなり驚いた。
「まぁ仕方ない、いつもおやつを貰っているしな」
「やったー!ありがとうアリア!」
「まずは発声練習からだな。ただその前に私が食べ終わるまで待ってくれ」
「はーい」
♢♢♢
アリアがシャーベットを食べ終わってから始まったのは歌の基礎の基礎。どうやら俺は歌が上手そうだから本気で教え込むらしい。別にそんなところで本気にならなくても、と思ったが。
ただ予想外だったのは歌にも魔力を込めれること。
込める魔力によって普通の歌にも特殊な効果が発生するらしい。
「アリア、ここも出来たー!」
「本当に上手いな、歌で生きていけるんじゃないか?」
などなど、先生のお墨付きを貰いつつ、アリアの元に通い続けて一週間。
俺が覚えたのはどれもこの近くにあった街に伝わる歌だった。
「ありがとう、アリア!楽しかった!」
「ああ、私も楽しかった。また来い」
「うん!」
そう言えば、俺が何故歌をアリアに教えて貰いたかったのか。
それはただ単純にアリアの歌が上手かったからと言うのもあるが、それ以上にヴェルに聞かせたかったのだ。
最近ヴェルが寝ている所を俺は見ていない。
だから子守唄がわりに歌って睡眠時間を確保してあげたかったのだ。
「そうと決まれば、決行はやっぱり……」
───今日しかないよね。
♢♢♢
ふわ、とひとつあくびを溢す。
何故か最近グリュン用のおやつが消えているので俺が夜な夜な作っているのだ。
グリュンは育ち盛りだからそこそこちゃんと食べさせてあげないといけないと俺は思っているのだが、最近おやつの減りが尋常じゃない。
グリュンが二人いるのではないかと錯覚するぐらいだ。
「ヴェルー?まだ起きてるの?」
「……グリュンか?寝てていいんだぞ?」
「でも……」
ぽす、と俺の後ろに座ったような音がしたものの取り敢えず気にせず、料理を続ける。
ゼリーを作るか、それとももう一度シャーベットを作るか今絶賛悩み中なのだ。
その時、俺の耳に穏やかな音色が聞こえる。高くもなく低くもなく、丁度いい、透き通った音程。若干込められている光の魔力から、これを歌っているのはグリュンであると推測する。
……それにしても、一気に眠気が増した。
気を抜いたらその場で寝てしまいそうなぐらい眠たい。
「ねぇヴェル、今日は久々に一緒に寝ない?」
「え?あぁ……いいぞ」
「やった」
珍しい気がした。大きくなってから俺と一緒に寝ないと言い張った日を思い出す。
でもまぁ、たまには悪くない。
そう思いながら、どちらの部屋で寝るのかでまた当分時間がかかったのだった……。