15.ハーデンベルギアの想い
「暑い……」
燦々と降りそそぐ太陽の光のもとで俺はそう呟く。
真っ黒な髪が熱を吸収してしょうがない。というか全身黒色の服で固めてるからどこも暑い。この服変えたい。
そんな苦しみを抱えていると向こうでグリュンが手を振っている。
グリュンの格好は膝下ぐらいまである短めのズボンに白のシャツ。どこからどうみても涼しそうだ。
そんなグリュンに比べ、俺の格好はグリュンと大差ないものの色が全て黒。服のセンスがないと疑われてもおかしくないぐらいの地味さと機能性のなさだ。
「……いっそもう、髪色変えるか……?」
黒じゃなければ少しはマシになるだろうか?と思って様々な色に変えてみる。水色やシンプルに茶色、赤など試してはみたがどれも大差はなく。
一番暑くなかったのは白色だが、ちょっと、いやだいぶ年配に見えそうなのでやめた。
間違いでもないような気がしなくもないが、まだ俺は現役だと言い聞かせる。
「太陽が悪いか、とりあえず」
「ヴェル?何してるのー?」
「あぁグリュン、もういいのか?」
「見て、大漁」
一旦自分なりの結論が出たその時、丁度グリュンが帰ってくる。
先程までグリュンは川で魚を獲っていてくれたのだ。
グリュンが掲げた網の中にはそこそこの量の魚たち。と、腐敗防止のいくつかの氷。
「よくやったグリュン、これで当面は困らないな」
「でしょ?ヴェルの方はどう?」
「俺の方はあんまり無かったな」
ここの森は夏にあまり果物が実らない。だから食べれそうな草を摘むしかないというひもじさに拍車をかけてくるのだった。
今回俺が見つけたのはグリュンが好きな少し酸味のある何かのハーブ。それと臭み消しには丁度いい何かの草。
「でもでも、この魚と合わせたら美味しくない?」
「まぁ、それはそう思う」
「じゃあもう帰る?それとも俺も手伝おうか?」
「いや……結構長いこといたし帰ろうか」
「はーい」
にしても暑いな、この状態で火を扱いたくはな………あ。
────グリュンがヒントをくれていたじゃないか。
ぽふ、とグリュンの頭を撫でて感謝を伝えた。ただグリュンには首を傾げられてしまったのだった。
♢♢♢
「出来た……!」
「何がー?」
「俺の暑さ対策」
俺が何を言っているのかわからないと言ったような顔をしているグリュンに今しがた完成したひんやりする手折り素材のストールをそっと首に巻く。
「え!?冷たい!」
「水と氷を組み合わせてるから結構冷たいと思うぞ」
「……これ俺のもある?」
「そう言うと思ってグリュンのもちゃんと作ってある」
グリュンに今巻いているものとは別のものを手渡す。グリュンのだと分かりやすいように、こちらはストールの端にハーデンベルギアの刺繍がしてある。
この花は何故かこの辺りで群生していて、チューリップよりもよく見かける花だ。
「刺繍……!?ヴェルすごい!」
「喜んでもらえたようで何よりだ」
「嬉しい……本当にありがとう!」
「ああ、どういたしまして」
これでこの夏が少しでも涼しく過ごせるならいいのだが。
そう思いながら、今日はもう出かける用はないので一旦ストールを二人並べて掛けておくのだった。