12.優しさと温情
「そういえば俺、朝ごはん作ってなかったな」
アリアとグリュンと話していてふとそれを思い出す。確か日課の掃除をして、その後にご飯を作る予定が、掃除中にアリアが来てしまったから作れていないのだ。
俺もグリュンも早起き型とはいえ流石にお腹が空く頃だろう。一旦俺は切り上げてご飯の準備をするか。
「すまないグリュン、俺はご飯作ってくるから」
「分かったー」
「ああ」
……ん?今何気にアリアも返事したな?
まぁ一人増えた所であまり変わらないから良いのだが。
そう思いつつ、俺は一人で住処の方へと戻ったのだった。
♢♢♢
住処へと戻っていくヴェルの背を見送った後、アリアの方へと振り返る。
一つアリアに聞いてみたいことがあったのだ。
「ねぇ、アリアって強い?」
「ん?……ノアに比べたら強くはないが……」
「あのね、一つ相談があって………」
アリアに、ヴェルに頼ってもらえれるぐらい強くなりたいことと、その理由を伝える。すると俺が見た事のないぐらい華やかな笑顔でこう言った。
「良いだろう、ただし私は厳しいぞ?」
「やったー!ありがとうアリア!」
♢♢♢
俺が朝ごはんを作り始めてから数分。何故か外から爆発音が聞こえる。
二人して何をしているんだとは思うもののアリアも一応常識人ではあるから、そこまで変なことはしていないと信じることにする。
アリアの心配はしていない。ただ俺はグリュンが心配なだけだ。
それにしても模擬戦闘でもしているのだろうか。それにしてはやけに爆発しているような気もするが。
「本当に何してるんだ……?」
一応もうすぐご飯はできる。できるが、呼んでいいのだろうか?すごく汚れているような、ものすごい残状が広がっているような、嫌な予感しかしない。
先に風呂か、なんて考えながら扉を開ける。
「グリュンにアリア、ご飯出来たぞ………って。
───何してるんだ?」
思ったより酷かった住処前の惨状に思わず顔が引き攣る。
二人してやんちゃすぎるだろ……
グリュンはともかく、アリアまで何してるんだ?仮にも大人だよな?
俺の目の前に広がるのはクレーターだらけの地面に泥だらけの二人。
本当に、何してた?
「いや、違うんだノア!グリュンが魔力調整を教えて欲しいというから……!」
「確かにそう言ったけど、アリアに教えられた通りにやるたびに爆発したんじゃん!」
「………はぁ、まぁ良いんだが……グリュン、目を瞑っていろ」
「分かった……?」
二人の言い分的には魔力調整をアリアに切り出したのはグリュンとはいえ、俺と練習した時にはここまでひどくなかったのでこの惨状を生み出したのはアリアだと判断した。
なので二人の洗濯と罰も兼ねて、大量の水を頭上から降らせる『水禍』を送ろう。
「───とりあえずアリアは反省してくれ」
「な……!?私はただ────」
♢♢♢
「グリュンに先に言っておけばよかったな、アリアが俺以上の説明下手だって」
「説明上手そうなのに……」
俺とグリュンで食卓を囲みながらそう話す。
ちなみにアリアは目に水が入ったからか後ろでまだ悶えている。俺の知ったことではないが。
「そういえば何でまた魔力調整を教えてもらおうと思ったんだ?十分グリュンは上手いだろ?」
「う……でもまだ時々爆発するから、ヴェルに迷惑かけたくなくて……」
「……そうか」
何故ここまでグリュンは良い子に育ったんだろうか?少なくとも俺似ではないな。
本当に申し訳なさそうなグリュンの頭をそっと撫でてこう伝える。
「その気持ちは嬉しいが、グリュンは俺にもっと迷惑をかけていい。良い子すぎて逆に俺が心配なんだ」
「本当に……?」
「ああ、だから遠慮するな」
「……うん!」
その優しさは私にはないのか……と後ろで呟いているような気がするが聞かなかったことにする。グリュンには無条件の優しさを注ぐことはできるが、あんなアリアにはとてもじゃないが温情しか与えられない。
もう一度グリュンと一緒に未だに悶えているアリアを見て笑ったのだった。