10.光を織る
しとしとと外では雪が降っている。冬にはよく雪が降る地域なので仕方がないのだが、外に出れないぐらい積もるので、俺的には雪かきが若干面倒だった。
そして何より困るのが服や毛布が足りない事。
グリュンは成長期だからすぐに服のサイズも合わなくなる。しかもその、お世辞にも寝相が良いとは言えないから、すぐ布団が惨殺されてしまうのだ。
だから今俺は魔力を込めて作った魔力糸でちまちま服と布団を編んでいる。
この糸の特徴は、炎の魔力を込めたら温かいものができ、逆に氷の魔力を込めたらひんやりしたものができるなど、込める魔力によって出来上がった時の効果が変わるのだ。
闇で作った事はない。ちょっと俺も着たくないし。
「あ、ヴェル何してるの?」
「何って……グリュンの服と布団縫ってるんだよ」
うぐ、と息が詰まるような声が聞こえて思わず笑みが溢れる。どうやら一応自覚はあるらしい。いつもありがとう、と伝えてくるその頭を撫で再び作業に戻る。
ちく、ちく、と一定の音が響く。
俺がそう縫っている間にも熱心な視線を向けてくる人が一人。
「あの……グリュン?そんなに見つめられるとやりにくいんだが……」
「ねぇヴェル、これ俺にもできる?」
「……ん?出来るぞ、教えようか?」
「うん!」
何に惹かれたのかはよく分からないが、そんなに難しいものでもないし、何ならグリュンができるようになったら冬の俺の内職が楽になると思って教える事にした。
幸いグリュンは手先が器用だったから習得が早かった。これで糸まで惨殺されたらどうしようかと少しヒヤヒヤしたものだ。
「で、何を作るつもりなんだ?」
「んー内緒!」
「え」
爆速で糸だけを持ち逃げしていったグリュンのその背を眺める。
しかも何の魔力も込められていない、今から込めるはずの糸たちを。
「……何なんだ一体……?」
♢♢♢
ヴェルから持ち逃げした糸を持って自分の部屋まで走る。これを使って、ヴェルにマフラーを作ってあげたい。
上手くいくかは分からないけど、でもやってみたい。
そう思いつつ、まず最初はヴェルに教えてもらった通りに糸に魔力を込める。何の属性にしようかな、光とか効果、どうなるんだろう。
光の魔力を込めた糸を大量に作った後、いよいよ編む作業に取り掛かる。
「これ……俺最後まで出来るかなぁ」
自分で言うのもなんなのだけれど、結構飽き性な部分があって。始める前から自信を無くしてしまいそうだった。
けれどヴェルに作るんだ、と思って気合を入れる。
そうして俺の編み物に埋もれた生活が始まったのだった……。
♢♢♢
グリュンが糸を持っていって数日経った。
いつもなら起きてきて朝ごはんを食べた後、俺の近くで何かしらをしているはずなのに、最近はすぐ部屋に戻っていってしまう。
これが反抗期とか言うやつだろうか。もしそうだとしたら少し悲しいかもしれない。
そんな事を考えながら俺は布団カバーの作成に取り掛かる。少し前、意を決して闇の魔力を込めた糸で編んだ服を着てみたところ、着ただけでは何の変化もなく。じゃあ何だろうかと調べたら耐久値が異様に高かった。
これでグリュンの布団はいつもよりも長持ちするかもしれない、という淡い期待を込めて作り始めた。
───途端、俺の脇腹に走る衝撃。
何事だと思い、衝撃を受けたところを見てみるとグリュンが頭から俺に突っ込んでいた。何故?とは思ったがグリュンの足元に俺が置いておいた編む時に使う棒が転がっていたのでおおよそこれにつまづいたのだろう。
「……どうしたグリュン?」
「うう……ヴェルに、プレゼント、渡したくて」
「……プレゼント?」
体勢的に半ば押し付けられる形で、もけもけした何かを受け取る。
清々しいほどの純白を持ったこのもけもけはどうやらマフラーのようで。
……マフラーだよな?これでストールとかの引っかけ問題じゃないよな?
それによく見たらこのマフラー、光の魔力が込められている。だからこんなに白いのか。確か光の効果は──自動回復。
「いいのか?こんな良いものを……」
「俺がヴェルの為に編んだんだから良いの!」
「……ん、待て。これグリュンが編んだのか?」
「そうだけど?」
これを一人で?だから今までずっと……。
最近のグリュンの不可解な行動の全てが今繋がって、どうしようもない愛おしさが湧いてくる。
「ありがとな、グリュン。嬉しかった」
「本当?やったー!」
──そのマフラーは少し不格好で、でもそれ以上に暖かさに溢れていた。