9.落ち葉の宝物
だんだんと紅葉が美しい時期になってきた。グリュンを誘って紅葉狩りに行くのも良いかもしれない。そんな事を考えているうちにはらはらと赤く染まった葉が一枚、また一枚と俺のそばに落ちてくる。
舞い落ちる紅葉は風情があって良いと思う。思うのだが…。
「流石にこの量はな……」
俺が振り向いた先には大量の落ち葉。
何故か今年は多い。例年の三倍はある。これを俺にどうしろと?
どうしろと言われても何も思いつかなかったから、現実逃避も兼ねて思いつくまでと思い落ち葉を掃いていたら、いつの間にか落ち葉の山が大量にできていた。
「燃やす……は駄目だな、山火事どころじゃない、俺たちの住処まで燃えそうだ。
なら風で飛ばすか……?いや違う意味で災害になりそうだな」
うーん、と未だに際限なく落ちてくる葉っぱを掃きながら考える。しかし、ただ葉っぱが溜まっていくだけで。もういっそ俺が食べてしまおうか、と考えたその時。小さな足音が微かに聞こえてきて、その音の方を向く。
すると遊びに行っていたグリュンが何かを抱えながら小走りでこちらに向かってきていた。両手に持っているものは土で汚れていてよく見えないが、紫色のあの形はもしかして。
「ヴェルー!これ見つけた!」
「……よくやったグリュン、これで俺は落ち葉掃除を終えれる」
「え、何が?」
グリュンが持ってきたのは通称あまイモ。
落ち葉の中に入れて焼いたらとてつもなく美味しい事で有名な芋だ。
丁度良い所に落ち葉もたくさんあるのだから焼き芋にしたら良いのではないだろうか。そう思い、グリュンが持ってきた芋たちを簡単に水で洗い、焼きすぎないよう薄く水の膜を魔法で作る。
「それどうするの?」
「これを落ち葉の中に入れて焼くんだ」
「……?いつものと何か違うの?」
「まぁ、出来上がってからのお楽しみだな」
不思議そうに見つめているグリュンを落ち葉の山から少し離れさせて着火する。すると想像以上に燃え上がってしまったので少しだけ待つ事にした。
そうして若干火が落ち着いて熾火ぐらいになった頃、俺は芋たちを火の中に入れる。
どれぐらいかかるか分からないが、三十分はかかるだろう。
それまでどうしようか、と考えていると第二の落ち葉の山でグリュンが寝転がっている事に気が付く。
「……何してるんだ?」
「あ、ヴェル!ここ、意外と気持ちいいよ!」
こっちこっち、と手招きするグリュンの側に座る。確かにふかふかで暖かくて昼寝には丁度良い。
「ヴェルも一緒に寝る?」
「寝たいのは山々なんだが……火事になったらいけないからな、あれが」
「そっかぁ」
気の抜けた返事が返ってきたその数秒後に寝息が聞こえ始める。…… 早くないか流石に?
そう思いつつ何となく、焚き火の爆ぜる音を聴きながら空を眺める。綺麗なほどの秋晴れ。どこかの魚の名前を冠している雲も浮いていて、ますます秋を実感する。
そんな感じで時間を過ごした後、俺は焚き火の中から芋を取り出して焼き上がり具合を確認していった。
「もう良さそうだな……グリュン?って、いつの間に」
「良い匂いがしてたから起きてた!」
「ほらグリュン、これが焼き芋だ」
「やきいも……?」
食べ方はきっと分からないだろうから、二つに割ってグリュンに手渡す。
鮮やかな紫色の皮とは対象に、眩しいほどの金色が現れてグリュンは目に見えて目を輝かせた。今まであまイモの料理は作った事なかったから、目新しいのだろう。
「これ、食べていいの?」
「いいぞ。あ、ただし熱いから気をつけて食べろよ?」
「はーい」
俺も久々に食べるか、と思い小さめのを一つ取り出してグリュンと同様に二つに割る。熱そうだな、とは感じたものの美味しそうだったので躊躇いなく口に運んだ。
その途端口に広がる優しい甘み。しっとりしすぎず、かといってほくほくしすぎていない、絶妙な舌触り。そして少しだけ感じる皮の苦味が程よいぐらいに甘さを中和してくれる。
これは、間違いなく。
「……美味いな」
「美味しい!」
二人して声を揃えてそう言った。ここまで美味しいのならまたやりたい、とお互いに笑い合う。まだ焼き芋は残っているから、グリュンに多く分けよう。
ふと空を見ると今までにないほどの快晴で。
ささやかなこの時間をくれた秋の宝物に感謝した。