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⑤ 暗躍する侯爵夫妻

アデルからルイとガスパルドの確執を聞いた夫妻は、パーティの間も二人の様子を観察した。



(これはちょっと時間がかかりそうね・・・)



その夜邸に戻った夫妻は、ワインを飲みながら今後の話し合いをする。


その結果、他人が入ってややこしくなる可能性も捨てきれないために、時間を置くことにした。

ガスパルドの悲しみも、ルイの苦しみも分かるし、どちらが悪いという訳でも無いのだ。

二人の結論は、


「公爵が悪い」



だった。


侯爵は領の立て直しのための話し合いに訪れた公爵邸で、会議の後に時間を設けてもらい、公爵を説教する。

一つ上の公爵に憧れていた自分の学生時代を返せ!と文句を言いながら、妻を失って殻に閉じこもってしまった彼のお尻を叩き、子供たちにもっと目を向けるように諭す。

その日のディナーで、公爵は長男と次男を改めて見つめた。

自分にそっくりで、公爵家の色を持って生まれた長男。

愛する妻にそっくりで、王家の瞳の色を持って生まれた次男。


『あなたの愛した女性が、命がけで繋いだ命なのですよ』



侯爵の言葉が心に響く。



二人は黙々と食事をしているが、そのマナーにも愛する妻の面影が残っていた。


公爵は顔を覆って泣き出した。


「すまない・・・。すまない・・・。お前達を愛しているのに。

自分の事で精一杯で・・・」


いきなり泣き出した父親に、子供達は驚き固まる。



「アルマ・・・。アルマ・・・」



母の名を呼びながら泣き続ける父を見て、ガスパルドは席を立って父に抱き着く。

二人は泣きながら抱きしめあった。

その時公爵の目の端に、ガラス玉の様な瞳で、前を見続ける無表情のルイが映った。



『特にルイ君に、気を付けてあげてください。

ガスパルド君は、悲しみを外に出せるからまだいい。

だけどルイ君は、内に閉じ込めてしまう。

それは、とても危うく、そして周りに気付いてあげられる人がいなければ、とても恐ろしい事です・・・』



「ルイ・・・」


公爵は、つい先日五歳になったばかりの次男に声を掛ける。

ルイは振り向いて、無表情で公爵を見つめる。泣きもせず。悲しみもせず。感情の無い目・・・。


あの色の瞳で自分に微笑んでいた(ひと)・・・。



「ルイ! おいで!!!」



父が大きな声で呼ぶと、ルイは少し驚きながら父親に焦点を当てて、ゆっくりと近づいてきた。

公爵は長男を抱えている手と反対の手で、ルイを力いっぱい抱きしめた。


「アルマがいなくて寂しいのは、お父様もお前たちと一緒だ。

だけど私たちは生きている。

生き続けなければ・・・。

皆で乗り越えて行こう!」


父のその声を聞いて、ルイの瞳に少しだけ涙の幕が出てきた。


公爵は二人のおでこに祝福のキスを、順番に落としていった。

妻がよく子供たちにしていたのを、公爵は見ていた。


「不出来な父親で申し訳ない。

だけどこれから、頑張るから。

お前たちを愛しているから、立派な父親になるから!」



公爵はそう宣言して、また二人をきつく抱きしめた。






侯爵夫人は、数人の侍女とメイド、そしてコンフラン家の副執事長を公爵邸に送った。

子供の状況を公爵にきちんと伝えられていなかった公爵家の現在の執事長には、申し訳ないが降格してもらう。

前執事長が使い込みをしてとんずらしてしまった為、急遽昇格してしまった執事長だが、彼ではまだ公爵家の采配を振るうのは早すぎたようだ。


侯爵家の執事長セバスチャンがなかなかのベテランで、そろそろ引退を考えていた為、彼は自分の甥でもある副執事長に少しずつ仕事を教えていっていた。

侯爵夫人は、ちょうどいいと思った。

あちらで目一杯腕を振るって欲しい。

侍女とメイドには公爵家の実情は伝えてある。

現在あそこに残っているメイドは、転職活動中の若手か、もう転職できないお局しかいない。

つまりやる気のあるメイドは皆、早々と転職してどこかへ行ってしまい、残ったのはやる気のない人間ばかりだった。

侍女も然りで、残っているのは姫様を慕い、王宮から付いて来た公爵夫人の腹心だけだった。

彼女が残っていた為に、何とかやって来れていたのが実情だろう。



「やる気元気勇気!」がモットーの若手メイドがバリバリと掃除をしていき、侍女は子供たちの心のケアに専念した。

そして副執事長も、近い将来の予行演習として、公爵家で采配を振るった。

そしてこの副執事長、趣味は剪定で、ストレスが溜まると庭木の剪定をチョキチョキチョキチョキチョキチョキするのだ。


それを知っている侯爵夫人は、わざと庭師を送らなかった。


慣れない場所で結果を出さなければいけないと、肩に力を入れまくっていた副執事長は、翌日からストレスで剪定を始めて、一週間も経たない内に、前庭を綺麗に仕上げてしまった。



この様子だと、裏庭もすぐに綺麗に仕上げてしまうだろう。


侯爵夫人はセバスチャンに、彼が裏庭の剪定も終えて、さらにトピアリーを作ろうとする前にはフォローしてあげるように、とだけ指示を出した。



そうして邸にいながら、公爵邸での子供たちの様子や豪邸の状況を入手し、副執事長に指示を出す侯爵夫人。



侯爵も副執事長の報告書を読み、ルイの教育を、侯爵邸でアリスと一緒に受けさせることを公爵に提案した。

両家は国の中でトップクラスの名家であったので、どちらも高級住宅街の特に良い場所に門を構えているため、馬車ですぐのご近所さんだったのだ。


公爵も、長男と次男の確執を思うと少し離した方が良さそうだと思い、侯爵に頭を下げてお願いをした。

そうしてルイは週に五日、朝からコンフラン家に通うようになった。






「おはよう、アリス」

「おはよ! ルイ!!!」





ルイの笑顔は相変わらずアンニュイで、まだ感情が表に出ることは少なかった。

しかしアリスが満面の笑みで迎え入れると、子供らしい笑顔をアリスに返した。





侯爵夫妻は二人の笑顔を守るために、これからも公爵家再建に力を注ぐことを誓い合った。




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