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【完結済み】スーパーハニーになりたくて。 ~ポンコツ令嬢はスパダリ製造機~  作者: 西九条沙羅
第三章

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番外編:目を逸らしてきた事実、それは・・・

作者から皆様へのクリスマスプレゼントの番外編SSとなります。

楽しんで頂けましたら嬉しいです!



さっきまで可愛い孫達に囲まれていて、「あ~、幸せだなぁ」と呟いたアリスは、気が付いたら白くてふわふわする物の上に寝そべっていた。


「ありゃりゃ? ここどこ?」



周りにいるのは、白い衣装を着た子供や大人達。だけど誰もアリスの事は気にせずに各々が好き勝手に過ごしている。

白いふわふわがどこまでも続くだだっ広い空間に、一人でいる事が寂しくなったアリスは、可愛いお目目にポチッと涙の雫を作る。

口をへの字にして込み上げてくるものを堪えていると、目の前に現れたのは・・・。


「るい!」


急に目の前に現れたルイに、アリスがタックルをかます。



「ぅぐぅぇっ!!!」


何かが飛び出そうになったルイは、自分のお腹に顔を埋めてえぐえぐ泣いているアリスに気付いた。

そして気付いた。


「ありしゅ、ちっちゃくなってる!」


そして、見事に噛んだ自分の口を両手で塞ぐ。その手も小っちゃい。

アリスも驚いて涙で濡れた顔でルイを見上げる。


「ルイもちっちゃいよ・・・」


その一言で、二人は自分の体を見回して、手も足も小さくなっている事に気付いた。


「これ、ありすにはぢめて会った頃のおれと、同じさいじゅだ!」

「あたちも! 3しゃいの頃のさいじゅだ!」

「アリス! 背中に羽がちゅいてる!」

「ルイもだよ!」


二人はお互いの背中を追いかける為に、ぐるぐると円を描きながら歩く。


「どゆこと?」

「わかんない。 アリスが死んじゃって、悲しくて悲しくて泣いてたら、気付いたらここにいた」


二人は呆然と辺りを見渡すと、そこに居た人々の背中には、もれなく羽がついている事に気付いた。



「みんな死んじゃって、天使になったんぢゃない?」

「じゃぁ、あたちたちも天使?」

「たぶん・・・」

「じゃあ、ここは天国で、あたちたち雲の上にいりゅのね!」

「たぶん・・・」


ルイは、急にファンタジーの世界にぶっこまれて、忙しなく辺りを見渡して状況を分析していく。

アリスは、突如始まったファンタジーにワクワクが止まらずに鼻血が出そうな程に興奮して、両手で握り拳を作ったままその場で忙しなく足踏みをしていた。



「しゅごい、しゅごい! “ごっこ”じゃなくて、本物の天使になれた!」


興奮MAXのアリスと対照的に、すんっとなったルイは小声でつぶやく。


「なんでわざわざ3しゃいの頃の姿にもどすのさ・・・。いいじゃん、18ぐらいの頃の姿で。

30ぐらいでもいいけど」

「何が気に入らないのさ!」

「だって! 3しゃいじゃ、アリスのたわわが無いぢゃないか!!!」


いきなりのセクハラ発言に、人生で初めて・・・、人生が終わって初めてアリスはルイに向けて汚物を見るような目を向けた。

それに気付いたルイが、少し戸惑いながらも自分の気持ちだけは吐露する。85年一緒に居る間に、どんな事もどんな気持ちも全て、共有して生きて来たからだ。


「せっかくファンタジーにとちゅ入したのに・・・。ルイ、さいてー」

「だ、だって・・・」

「3しゃいの姿でそんなえっちなことを言うなんて・・・。見た目と脳内が合っていないと、こんなに不快感をあたえりゅのね・・・」


アリスに変態を見るような目で見られたルイは、耐え切れずに「死にたい」と呟いた。




もう死んでいる。






*****





「ねぇあれ、教皇しゃまじゃない?」


ダメージから回復したルイが、白く長い髪に、白く長い髭のおじいさんを指差した。

アリス達が悪と戦っていた時の教皇に対し、アリスは戦友の様な感情を持っていた。教皇も同じ気持ちだったのか、アリス達の長男が結婚する頃には既に、次の代へと教皇の座を渡し普通のじぃじになっていたが、二人の長男の結婚式を司祭として執り行ってくれた。

二人は感動の再会に嬉しくなって、教皇に走り寄った。



天国でも人が死ぬのか不明であったが、アリスがこのままタックルするとよくない気がしたルイは、途中でアリスの手を握って久しぶりに手綱を締める。

そのおかげで、二人は教皇の前で立ち止まることができた。


「教皇たま!」


アリスの呼びかけに顔を向けた老人は、教皇とは違い紫水晶の様な瞳をしていた。


「アリス、違う。この人は教皇様ぢゃない・・・」


二人がよく目を凝らすと、老人は教皇とは似ても似つかない人物であった。


「まぎらわしーね・・・」

「老人はみんな、あんなスタイルにしたがるのかな。俺にはわかんない趣味だ・・・」

「ルイは、白髪を伸ばすことなく後ろに撫でつけてて、とっても恰好良かった。

老人になってもイケオジだったよ♡

あ! イケじぃじか」

「いろんな髪型を試したけど、ありしゅがあの髪形が一番シュキだったんぢゃないかと思って」

「ありしゅのため?」

「俺のしゅべてはアリスの為だけだよ」

「いやん♡」


いきなり足元でイチャイチャし出した三歳児に、老人は大笑いをした。


「ふぉっふぉっふぉ! 相変わらず仲がいいのぉ! なのに何でここにいるんじゃ?」


二人は顔を見合わせてキョトンとする。


「「どーいうこと?」」


「ここは天国で、わしは天使じゃ。普通の魂は亡くなったら輪廻の輪に入っていく。ここには、心残りがある人間だけが留まるんじゃ」



まさかの内容に、アリスが驚愕に震えた。


「じじぃ! 天使だったの!?」

「・・・・・・」

「驚くところ、そっち? あとアリス、前に俺も孫に言われてショックだったんだけど・・・。じぃじって言いたかったとは思うんだけど・・・、間違えてじじぃになってるよ・・・」

「!?」

「それ、ただの悪口だから・・・、気をつけて」



少し微妙な空気が流れた天国。

しかしここで一番の大人(と思われる)天使が折れて大人の対応をする。

つまり先ほどの会話をスルーした。



「ここは天国で、わしは天使じゃ。普通の魂は亡くなったら輪廻の輪に入っていく。ここには、心残りがある人間だけが留まるんじゃ」


そして次に(人間的に)大人のルイが、会話のやり直しの舵取りをする。


「ちゅまり、俺たちに心残りがあるって事でしゅか?」


いい会話の流れに、天使を名乗ったじぃじが満面の笑みで、ルイとアリスに頷きで返事をする。

しかしアリスとルイは、いきなり心残りがあるのだと言われても心当たりが無かった。

アリスに至っては、誰もが羨む様な穏やかで緩やかな死だった。ルイはアリスの居ない世界に興味が無かったので、もっと心残りは無い。



だけど、ルイは気付いた。

ずっと目を逸らしてきた事実に、向き合う時が来たのだ。

ルイは真摯な瞳で天使と視線を合わせると、天使は一つ頷いてアリスとルイを二人っきりにしてあげた。

全く二人の流れに付いて行けていないアリスが、キョトンとした顔でルイと、去って行く天使の背を交互に見つめる。



二人きりになったルイは、そっとアリスの小さなもみじの様な手を握った。

さっきの話の流れから、ルイに心残りがあると感じ取ることは、アリスには・・・出来ない。

なぜならば、ポンコツだからだ。

八十八年生きても、ポンコツから脱出する事は不可能であった。



「ありしゅ・・・」


自分の名前を呼ぶことさえできずにいる、三歳の下っ足らずなルイにキュンキュンしていたアリスは、ルイの次の言葉に驚いた。


「俺には心残りが1つだけ、あるんだ・・・」


あれだけ傍若無人に人生を謳歌していたように見えた夫の、まさかの告白にアリスは開いた口が塞がらない。


騎士として王立騎士団に入団したルイは、そのまま駆け足で騎士団長の座まで上り詰めると、アリスに懸想した者やイヤらしい視線を送っただけの者まで、これまで数多くの男達に決闘を申し込んではコテンパンにやっつけていったのだった。

それは現役を引退する六十歳まで続いた。


それによって名付けられた、“天使の狂犬”というダッサイ通り名・・・。

しかしいつだって思い通りに生きて、思い通りにアリスのたわわに顔を埋めて生きてきたルイに、まさかの心残りがあるなんて・・・。


アリスは、久しぶりに目と眉に力を入れて、キリリとした表情を作る。


「ルイ・・・。あたちに言ってごらん。ルイの心残り。このスーパーハニーが解決してあげるから!」


ルイは真一文字に閉じた口を開き、一度深呼吸をしてから、アリスの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。




「ありしゅ・・・。俺の事、『愛してる』って言ってくれたこと、無いんだ・・・」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




恐ろしい程の沈黙。


耐え切れなくなって目を逸らしたのはルイだった。


まさか、本当に愛していなかったとは信じていないが、もしかすると『愛してる』と言う程の愛情では無かったのかと、心が折れそうになる。



「言ったよ!」


アリスが驚いてルイの両手をギュッと握りながら大きな声を出した。


「・・・・・・・・言ってない」

「嘘! いつ!?」


「い、いや・・・。言ってないからいつとか、無いから」

「本当???」

「うん。証拠」


そう言って、ルイは密かに小説家に書かせていた自分とアリスの物語を、アリスの前に差し出した。

この世界でたった一冊しかないその小説は、現在コンフラン家の宝物庫に鎮座している。

しかし今、ルイが必要とした時に現れた。ミラクル! ・・・ではなく、ファンタジー。


ルイに証拠として渡された小説を、アリスは雲の上に足を投げだして読んでいく。




そして八時間後 ———・・・






「ルイ、起きて」

「う~ん・・・。アリス、読み終わったの? 遅いよ・・・」

「三部作なんて、今日中に読み終わったのが奇跡だよ。長いよ・・・」

「どうだった?」

「天使も寝るんだね」

「そこぢゃないから・・・。そして俺達は天使じゃないから」

「あたち達、天使ぢゃないの!?」

「天使はあの、白髭のじじぃだけだろ?」

「むむむむむ・・・。納得いかにゃい。あんなじじぃよりあたちの方が天使っぽい!」

「ありしゅはいつだって、俺の天使だよ」

「いやん♡」



イチャイチャしだした二人。

ツッコむ第三者がいない為ずっとイチャイチャするかと思われた二人だが、体が三歳児の為に脳内も三歳児に引き寄せられたのか、大人のイチャイチャには移行しなかった為に早々とルイが理性を取り戻した。


「そうぢゃなくて。それ、読んで分かったよね? ありしゅはいつも大好きって言ってくれるけど、愛してるとは言ってくれて、・・・無いんだよ」


信じ難いが、ここに証拠があるのだからそうなんだろうとアリスは気づいた。


そして、それを心残りにしている夫が憐れで可愛くて。


アリスは胸をキュンキュンとさせながら、ルイに飛びつくとその愛らしい唇を奪った。


擬音語でパクッという音が付きそうなそのキスは、その擬音語の通りアリスはルイの小っちゃな口を食べちゃう勢いで口にくわえた。

もうキスでも何でもない。事実通りに記載するなら、食べてしまった。


ルイはアリスの急な野性的な行動に驚いて、顔を真っ赤にさせて固まった。



そんなルイに、アリスが満面の笑みで言った。



「ルイ! 愛ちてる!!!」



出会った頃の姿で、最期の瞬間まで失われなかった愛らしい満面の笑顔でアリスはそう言うと、ルイをギュッと抱きしめた。


アリスの体が、ルイの体が薄く消えて行く。


二人は、ルイの心残りが消えて、自分たちの魂が輪廻の輪に入って行くのを感じた。



「アリス! 愛ちてる! 来世でも絶対アリスを見つけて、愛ちゅるから!!!」

「あたちも! ルイを絶対見つけて愛ちゅるから! 愛ちてるから! ルイ!!!」





二人の姿が消えて魂が昇華して行くのを、白髭の天使だけが優しく見つめていた。



「また、出会えるよ。二人は永遠に結ばれた、魂の(つがい)同士だから。



来世でも、その次の来世でも。・・・ずっとじゃ」














その次の生で、生後八ヶ月で再会を果たした二人。

前世の記憶など持ち合わせていないのに、アリスを見たルイは、ハイハイ選手権があればブッチギリ優勝を果たすであろう高速ハイハイでアリスの元まで行くと、アリスのおしゃぶりと自分のおしゃぶりをワイルドにもぎ取って、擬音語でパクッと音がしそうなキスでアリスのファーストキスを奪ったのは、また別のお話。








これにて完結となります。

皆様、本当にありがとうございました^^


アリス「じじぃ! 来世ではファンタジーに生まれ変わりたい! 魔法を使えるようになりたい!」

天使「じじぃぢゃない! じぃじ! 一文字違いで大違いじゃ! あと、お前の様なポンコツが魔法をつかうなんじゃ、恐ろしすぎるからダメじゃ」

アリス「ケチ! うわ~ん、ルイ! じじぃがいぢわるする!」

ルイ「じじぃ! 大人げないぞ!」

天使「・・・・・・・・・・・・・・」

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― 新着の感想 ―
番外編もありがとうございます。 この2人はセットじゃないと恐ろしいので、ずっと一緒で良かった。天使様、ナイス判断。 ルイは何度生まれ変わっても「天使の狂犬」というダサい二つ名になるのかな(笑) 可愛い…
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