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【完結済み】スーパーハニーになりたくて。 ~ポンコツ令嬢はスパダリ製造機~  作者: 西九条沙羅
第三章

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④ 不穏な動きをする者と、新しい環境へ旅立とうとする者

離宮に戻ったサタネラは、怒り狂って手当たり次第に物を投げて壊した。




「あの小娘め! ふざけやがって!」




普段の可憐な姿は鳴りを潜めて、鬼の形相でクッションを振りかざし、鏡台に並べられた小物などを壊していく。

その姿を見たメイドや侍女達は、震えあがって一目散に逃げていった。彼女に心酔している侍女と騎士だけが残って、彼女を宥めようと試みるがサタネラの怒りは収まらない。

挙句の果てには腹心の侍女の頬を引っ張叩く。

騎士に後ろから羽交い絞めにされたサタネラは、騎士の手を振りほどくと、頬を殴られて座り込んでしまっている侍女に大声を出した。



「今すぐお父様を呼んで!」





騎士は侍女を連れて部屋を出て行った。


荒く呼吸を繰り返すサタネラに、一人残った侍女が声を掛けてきた。




彼女の名前はベレニス・モンペリエ伯爵夫人。


結婚する前はベレニス・トロワ公爵令嬢で、ラファエルの婚約者候補だった。

アデルに婚約者の地位を奪われて、公爵令嬢であった自分が伯爵夫人に甘んじなければいけない事に恨みを持ち、サタネラが離宮に蟄居させられてから彼女の腹心となった侍女だ。


「サタネラ様、落ち着いてください。コンフラン家に立ち向かうには、冷静にならなければ揚げ足を取られてそのまま落ちぶれてしまいます」



彼女はサタネラが落ち着くように、鎮静作用のあるお茶を入れて差し出す。

茶色の瞳に茶色の髪は、平民や低位貴族によくある色で高位貴族では珍しい。それ故に彼女は王子妃の位に執着し、アデルを妬んだ。

頭の回転が速い彼女は、サタネラを掌で転がす事にも長けており、彼女の好きなお菓子も用意し、ソファへと座らせる事に成功した。


「コンフランの次女のせいで、計画は滅茶苦茶よ!」



お茶を一口飲んだサタネラはソファに深くもたれかかり、鏡台に置かれているジュエリーボックスを見つめた。


後ろに下がりながらも、ベレニスはサタネラの視線の先を追った。







*****






サタネラに呼ばれても子爵がすぐに来る事はなく、父親に会えたのはそれから二日が経った日の事だった。


「お父様! どうして私が会いたいと言ったのに、すぐに来て下さらなかったのですか!?」


二日が経ってもサタネラの怒りが収まる事はなかった。

子爵は面倒くさそうに自分の娘の姿を一瞥する。もう王太子妃でなくなった娘は、数々のやらかしで予算を削られていき、今では最新のドレスを仕立てる事もできていない。

子爵は値踏みをするように娘を見つめた。

その瞳に、冷めた感情が混じっている事に気付いたサタネラは、唇を嚙みしめた。もう昔の様に可愛がってくれる事もなく、最近では自分を蔑ろにし出した父親に苛立つ。



「王太子妃の私を馬鹿にした、あのコンフラン家の次女を何とかしてください!」

「元、だ」


子爵は、自分の娘がもう王太子妃の地位に戻れない事に気付いている為に、どうやってこの場をやり過ごすかしか考えていなかった。


彼女の自尊心を満たす為に、その為だけに動く事はもう、するつもりがなかった。

相手がコンフラン家であるならばなおさらだ。


もしもサタネラが王太子妃に返り咲く可能性があったとしても、子爵はコンフラン家に関わる事はしない。


手出しをする勇気はない、という方が正しいかもしれない。




七年前、アリスの誘拐未遂事件で、一つの海賊団が殲滅された。

彼らはこの国と帝国の間の海域で名をはせた海賊団だ。そして、帝国の後ろ盾を持っている事も、知る人ぞ知る。


しかし誰も知らないのは、その帝国の後ろ盾を持った海賊団は、この国の海域では子爵の命を受けて動いていたことを。



あの誘拐未遂事件は、娘の溜飲を下げる為に、ラファエルの婚約者であるアデル、もしくはアリスを狙ったものだった。

なのにその誘拐に失敗し、帝国の海賊団を奪われてしまった子爵は、膨大な慰謝料を帝国に払わなければならなくなった。

帝国から情報料を貰う為に売国しているのに、慰謝料を支払わなければならない状況に、子爵は憤慨した。

しかし、その頃サタネラは王太子妃であったため、彼女の機嫌を取る事は彼にとって重要な事であったのだ。



「もうコンフラン家の事は忘れろ。我々には勝ち目は無い」


話は終わりだと言う様に、子爵は忌々しそうに手を軽く振ると、そのままサタネラを一瞥する事なく部屋を出て行った。


「お父様!」


サタネラの声は、閉じた扉によって遮断された。

ソファから立ち上がって、背もたれにあったクッションを扉に思いきり投げつける。


何もかもが上手くいかない。




今までは全てが思い通りだったのに。


嫌な奴は蹴落とすか父親に頼めば、誰もかもがいなくなった。


あのマノンという女でさえ・・・。


なのになぜ、アデルは、アリスはいなくならないのか・・・。




サタネラは瞳をギラつかせながら、親指の爪を噛み続ける。




もう父親の手を借りることは出来ない。


しかし今まで欲しい物は全て手に入れて来たサタネラは、我慢ができなかった。


サタネラは爪を噛みながら、鏡台の下に落ちているジュエリーボックスを眺める。


何の変哲もない木で出来たそのジュエリーボックスが、最近視界によく入る。



それを手にソファに腰を下ろすと、サタネラはゆっくりとジュエリーボックスを開いた。

普通のボックスで中には母の形見のネックレスが入っている。

だけど仕掛けボタンを押すと隠しボックスが開き、中から魔女の秘薬が出て来た。



サタネラは母の声を思い出す。





『いい、サタネラ? 

こっちの青い瓶は、どうしても落としたい男に使うのよ。

そしてこっちの赤い瓶は、あなたの敵を排除する時に使いなさい』



青い瓶はもう既にアンリに使った。

そして赤い瓶はまだ残っている。

アンリを落としてからは使っていなかったため、サタネラは久しぶりにそのジュエリーボックスを開いたのだ。

それを初めて見たベレニスはサタネラが気づかない程小さく息を呑んだ。

そして歓喜の笑顔を浮かべた後に、サタネラの横に(ひざまず)いて訊ねた。



「そちらは・・・?」



サタネラはベレニスを値踏みするように一瞥した後、彼女を自分の前のソファに座らせた。



「あなた、アデルに一泡ふかせたいのよね」

「もちろんですわ。その為に王宮の侍女となり、そしてわざわざサタネラ様の専属侍女となったのですから」




決意の表情でベレニスが伝える。



「何でもできる?」

「もちろんですわ」



間髪を容れずに、ベレニスは誰もが見惚れるような淑女の笑顔で返事をした。







*****








最終学年の最後の学期末が終わり、試験の結果が掲示板に張り出された。

アリスは女神様へとお祈りを捧げてから、試験結果を上から順番に眺める。

一位はルイで、二位は同じクラスの侯爵家の嫡男。そしてイザベラは三位だった。

四位も同じクラスの侯爵家の子息で、二位から四位は一年次からいつも、この三つ巴の戦いであった。

そのまま公爵・侯爵のクラスのメンバーの名前が連なり、伯爵家のクラスの名前がどんどん出てくる。

アリスは見落とさない様に、ゆっくりと順にみて行く。

ルイとイザベラを含めたクラスの全員が、固唾を飲んでアリスの後方で彼女の動きを凝視する。


十位からも順に同じように見て行き・・・



「あった・・・」


アリスはその美しい紫色の瞳に、零れんばかりの涙の膜を張り、胸の前で両手で拳を作った状態で後ろにいるクラスメイトに振り向いた。



「うわ~~~ん! あった~~~~~!!!」



感極まったアリスは、そのままその場所でギャン泣きしてしまった。



イザベラがギュッとアリスを抱きしめて、ルイがアリスの背中側から二人をまとめて抱きしめる様に両手で包み込む。

クラスメイト皆もその周りに集まって、「よかった。よかった」と拍手していた。

アリスは初めて順位表に名前が載ったのだ。


「十八番か。頑張ったな、アリス!」



ルイがアリスの頭のてっぺんに優しくキスを落とすと、周りの女子から黄色い声が出る。




アリスはクラス全員に笑顔でお礼を言った。クラスメイト達も笑顔を返す。

最初は噂の天使と同じクラスになって、少し浮足立つ様な感じだったクラスメイト達。同じ人間だと思えずに、少し遠巻きにしていたのも事実だった。


しかしアリスが、成績や恋に悩む、自分達と同じ人間であると気付いてからは、いつも笑顔で裏表の無いアリスが大好きになったのだ。


色々な事があったが、人間関係に問題が無くやってこれたのは、ルイとアリスのカップルのおかげだと、皆は何となく思っていた。


クラスメイト皆で王都のカフェに向かい、皆でお別れのパーティをした。


明日の卒業式を終えれば、それぞれの人生が始まる。



現在高位貴族の彼らも、結婚によって伯爵家へと婿入りや嫁入りするクラスメイトもいる。

通常ならば卒業をして地位が変わってしまったら、人間関係も変わってしまう場合がある。


しかし、この七人は変わらず友としてこれからの人生を歩めると皆が思っていた。


ルイとアリスが爵位で関係を無かった事にするような人間でないと、皆が知っているからだ。





「いや~、しかしイザベラが婚約出来るなんて、思いもしなかったよ」


ルイがしみじみと言うと、クラスメイト皆がうんうんと頷いた。


「あなたそれ、何目線ですの!?」


少し切れ気味でイザベラが応戦する。


「私は信じてたよ! イザベラは出来る子だもん!」


アリスがフォローを入れるが入れ方がマズい。


「だから何で上から目線ですのよ!!!」


イザベラがブチ切れて、大声を出しながら席を立つ。

それをクラスメイトが笑いながら相槌を打つ。



そうやって皆で楽しい時間を過ごして、夕方には皆で笑って別れを告げた。



アリスはルイと皆を見送った後、公爵家の馬車でコンフランの邸に戻った。


「なんか寂しいな」


アリスの呟いた一言は、誰かに向けられたものではない。

だけど、そんな小さな呟きでさえ、ルイは絶対に聞き逃さない。

馬車の中で、前に座っていたルイはさっとアリスの横に移動すると、アリスの頭をそっと自分の方へと引き寄せる。

アリスがルイに体重をかけてもたれかかると、ルイがそっと笑みを零す。

自分を信頼して全てを委ねてくれるアリスが、愛おしくて仕方が無かった。



「イザベラはうまいことやって、嫁ぎ先も公爵家だから、今まで通りに常に一緒にいられるよ。

他のメンバーも、しょっちゅうお茶会に呼んであげればいいよ」

「アハハ。何てこと言うのよ、うまいことやったって」

「本当の事だろう? あいつアデル姉様の近くに行きたくて、絶対公爵家と縁付くって息巻いてたから」


ルイは楽しそうにそう言ったが、一転して暗い声を出した。


「それにしても・・・。まさかイザベラに先を越されるなんて・・・」



イザベラの婚約者は少し年上だった為、イザベラは卒業して半年後に結婚する事が決まっていた。



卒業後すぐに結婚したかったルイは、結婚が決まったとイザベラからドヤ顔で言われた日の事を思い出して、また少し腹を立てていた。

アリスは少し頭を起こして、ルイに視線を送る。


「私も早く結婚したいけど、その前に私達にはしなければいけない事があるでしょ?」


ルイは、アリスが元王太子妃とその一家の事を言っていると思ったが、アリスの頭にあるのは違う事だった。


「まだ私達のどちらが侯爵家を継ぐのか、お父様からの回答は貰ってないわ」


アリスの瞳に、ライバルを見る闘争心溢れた炎の色を感じたルイは、うっかり忘れていた事に気付いた。

ルイにとってそれは、本当にどうでも良かったのだ。


「ムキーーーッ! 忘れてたわね!」


アリスが身体を起こして、ルイの胸を(女子らしく可愛く)ポカポカと殴る。


「ごめんごめん! でも本当にどうでもよくて」


ルイが素直な気持ちを吐露すると、アリスの怒りの炎が燃え盛る。アリスはルイの胸を(結構本気で)ボカボカと殴る。



「いててて! いて!」


ルイはアリスの手を握って、暴力をそっと封じ込めると、アリスの瞳を優しく見つめた。


「俺は、当主になっても、当主となったアリスの補助になっても、どっちでもいい。アリスが側にいれば」


ルイの優しい眼差しを、アリスは真剣に見つめる。彼の本心を探すかの様に。



「俺にとって一番大事なのは、アリスが側に居てくれて、俺がアリスを守る事だから」


ルイはアリスの左手を握っていた手を離して、そっとアリスの後れ毛を耳にかけて、そのまま下に流れる黄金色の髪を優しく撫でた。



アリスの瞳に涙の膜が張る。

馬車の外は茜色の夕焼けで、彼女の髪を赤く染めていた。

だけど、ヴァイオレットサファイアの瞳は、何色にも染まらずにキラキラと光っている。

そこに自分が映っている事に、ルイの魂は歓喜で震える。



ルイが自分の唇に視線を落としてほんの少し近づくと、もう彼が何を望んでいるのかを知っているアリスは、そっと受け入れる様に瞳を閉じた。


柔らかい感触が自分の唇に落とされる。


ルイの息使いが少し荒くなる。


ルイがアリスの体を持ち上げ、自分の膝の上に乗せる。

アリスはルイと対面する形で彼の膝の上に乗ると、彼の首に腕を絡める。

二人は隙間なくピッタリと抱き合ったまま、馬車が侯爵家に到着するまで何度も唇を交わした。






明日は卒業式とパーティがある。

その為、アリスはキキによって磨き上げられて、早々とベッドルームへと押し込められてしまった。



「明日は過去最高を叩き出すために、お嬢様には最高のコンディションになっていただかないと」



キキはそう言っていたが、アリスは今日眠れない気がしていたのだ。


帰りの馬車で熱い口づけを交わした二人は、熱を帯びたまま別れた。


だけど。


だから。



アリスはベッドルームの窓をそっと開ける。


下弦の月が優しく照らす庭に、軽く走る馬の蹄の音がする。




そうしてアリスの部屋の窓の外に現れたのは、ルイだった。



ルイは馬に乗ったまま動こうとしない。逡巡しているのだ。

自分を信頼してくれている侯爵夫人との約束を破って、アリスと一線を越えてしまった事に、ルイは罪悪感を覚えていた。

侯爵夫人は二人が一線を越えた事に気付いていたが、何も言わなかった。そしてルイも、夫人が気付いた事に気付いていた。


それからは鋼の精神で堪えた。


今でも目を瞑れば唇が、掌が覚えているアリスの柔肌を。


なのに、卒業式を明日に控えて、体が熱く燃えている。


アリスは、窓を開けてそっとテラスに出た。


そして、お預けをされている子犬の様に、自分を窺い見ているルイの表情に気付いて、笑みが零れてしまった。


アリスがテラスからそっと手を差し出すと、ルイは意を決したかのように表情を改めて、そして側の木に愛馬を繋げると、その木を登ってアリスの部屋のテラスに飛び移った。


アリスとルイはどちらからともなく近づき、深く口づけを交わした。


そしてそのまま、絡まりながらベッドへとなだれ込んだ。





ルイルイ、そろそろ怒られるよ?

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