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【完結済み】スーパーハニーになりたくて。 ~ポンコツ令嬢はスパダリ製造機~  作者: 西九条沙羅
第二章

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番外編: アポリーヌ・ブザンソン


ヴィルフランシュ王国の西端に位置するブザンソン辺境伯家には、美しい娘が居た。



同盟は組んでいるが、常に諍いを起こしてくる国と国境を面しているブザンソン領は先の大戦から世界で和平が結ばれた後も、辺境伯のまま独自の騎士団を保有していた。


辺境伯家は妻取りにも普通の令嬢ではなく、騎士や丈夫で大柄な女性を迎える事を信条にしているため、子供達は皆、一様に逞しく大柄に生まれて来る事が多い。


三人兄弟達も元気で煩かった。


三人兄弟を産んだ辺境伯夫人は、子育てに疲れ果て「もう無理」と言って拒否したが、どうしても女の子が欲しかった辺境伯の希望で、最後にもう一人頑張ってみたところ、生まれてきたのは念願の女の子であった。


妹の出現に、辺境伯含め兄弟達はメロメロになった。


妹が怖がらないようにと、兄弟達は走り回ったり喧嘩をする事もなくなり、夫人は正解だったと胸を撫でおろしたという。



アポリーヌと名付けられた末娘は、元気に育ち、そしてやはり他の令嬢達よりも背丈が高かった。

栗色の髪はふわふわとしていて、少し釣り上がった大きな猫目は紫水晶の様に光り輝いている。

その美貌はかなり華やかで、平均より背丈の高い少女はその地位と相まって、同世代の男性から高嶺の華として一目を置かれていた。



しかしそんな事も知らないアポリーヌは、大変おてんばに育ってしまった。


十歳で王都の社交界デビューを果たした彼女はとある公爵家のお茶会で、木から落ちた雛鳥を木に登って元に戻してあげるという、領地では普通にやっていた事を、扇子以上に重たい物を持った事が無いような王都の貴族令嬢の前でやってのけたのだ。



少女達はここぞとばかりに彼女をあざ笑い、オブラートに毒を包んで彼女に攻撃してくる。

辺境の自然の中、両親や兄、優しい領民達に愛されて育った彼女に取って、少女達の攻撃は恐ろしく、そして心を傷つけられるものであった。


悲しみを顔に出してしまうアポリーヌを、少女達はさらに淑女として失格だと、親切を纏った暴力で追い打ちをかけてくる。


そんなアポリーヌの前に現れたのが、このお茶会の主催者である公爵家の長女、マノンであった。


アポリーヌ達がいるテーブルに泰然と歩いてきたマノンは、アポリーヌの椅子の背に触れると、上からアポリーヌに微笑みかけた。


「雛の命を救うために行動されたブザンソン嬢は、ここに居る誰よりも美しい心を持っているのでしょう」


宰相の孫であり、筆頭公爵家の娘であるマノンの一言に、もう誰も何も言えなくなった。

苦しい状況から手を差し伸べれたアポリーヌは、我慢していた涙が一粒零れてしまった。

そんなアポリーヌにハンカチを差し出したマノンは、アポリーヌには女神に見えたのだ。


「・・・お姉様と呼んでもいいですか・・・?」



マノンから渡されたハンカチを握って、縋る様に自分を見上げるアポリーヌのあごに軽くふれて、マノンは悠然と微笑んだ。

見た目は可憐で小柄なマノン(14)と、華やかな美貌に高い身長のアポリーヌ(10)の邂逅であった。



アポリーヌは、それからはマノンがいるお茶会にしか参加せず、マノンの傍から離れなかった。

恋する乙女の様な目でマノンを見つめ、そしてマノンはそんなアポリーヌを殊の外可愛がった為、多くの貴婦人方から温かい目で見られていた。





しかしマノンが学園に入ってから、アポリーヌは寂しい日々を過ごした。

マノンを思い出しながら、彼女の様な淑女になるようマナーや勉学に励んだ。彼女に褒めて貰えるように。


しかし、アポリーヌは二度とマノンに会う事ができなかった。



宰相の孫で公爵家の娘であるマノンの葬儀は、近親者のみで行われた。

棺に縋りついて泣く王太子の背中で、マノンからもらったハンカチを握りしめて、デビュタントも終えていないアポリーヌはただただ迷子の子供の様に、声も出せずに涙を流し続けた。





(絶対に違う。お姉様はそんな事をしない。お姉様は・・・)




葬儀の後、ふさぎ込んでタウンハウスの自分の部屋に閉じこもってしまったアポリーヌは、ある日にフラフラッと邸を出ると、馬車で学園に向かった。



マノンが亡くなって一ヶ月。

既に日常を取り戻した学園は、マノンという少女が居なくなったことなど気にもかけていないかのように、アポリーヌの前に立ちはだかっていた。



悲しみに押し潰されそうで部屋に閉じこもっていたアポリーヌは、自分の中で怒りの炎が生れた事に気付いた。



(お姉様は絶対、いじめなんてしない! 誰かに嵌められたんだわ!)



王太子は棺に縋って泣いていた。


それは紛れもない事実。


アポリーヌは、真実を白日の下に晒し、マノンの汚名を晴らす事を誓った。




その時、一人の少年が学園から出てきた。


輝く金色の髪に蒼い瞳の少年。


どう見ても自分と同年代で、学園の生徒には見えない。



二人は一瞬視線を交わしたが、すぐに各々の帰る場所へと戻って行った。



そして、会ったことすら忘れた頃に、二人は親の紹介で婚約を前提としたお見合いをした。



アポリーヌ・ブザンソン、アダム・コンフラン、二人はお互いの瞳の中にある炎に気付き、そして惹かれ合った。







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