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【完結済み】スーパーハニーになりたくて。 ~ポンコツ令嬢はスパダリ製造機~  作者: 西九条沙羅
第二章

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⑭ 愛を乞う


帰りの馬車の中で、アリスの様子がおかしかったことに気付いていたルイは、何度もアリスに何かあったのか問いかけたが、アリスはただ寂しそうに笑って「大丈夫だ」と言うだけだった。



アリスを送った後に公爵邸に戻ったルイ。

心ここにあらずといった様子で一人でディナーを取っていると、兄のガスパルトが仕事から戻ってきた。

ルイからアリスの様子がおかしいと聞いたガスパルトは、一笑に付した。


「あの唯我独尊娘が悩むわけないじゃないか。明日にはケロッとしてるよ」


だけど、ルイは何だか嫌な予感がして、心が落ち着かなかった。


「そんなに気になるなら、行ってみたら? お前の野生の勘は当たるから」

「今から会いに行ったって、侯爵が会わせてくれないよ」

「馬鹿だなぁ。何のための運動神経だよ。お前なら二階のバルコニーぐらいよじ登れるだろう?」


当たり前の様に言うガスパルトにルイは、驚きを隠せなかった。


「女ってのはな、ロマンティストなんだよ。たとえ男が何かして怒らせてしまったとしても、好きな男がバルコニーから危険を冒して会いに来てくれたと知ったら、すぐに許してくれるよ。


そもそも女は男と違って、複雑怪奇な思考回路を持っているんだ。

男がこうだって言っても、その言葉の裏を読んだりするんだ。

だから何かかみ合っていないと感じたら、すぐに解決した方がいい。

でないと女は自己解決して、心のドアを閉めてしまったら、そこはもう二度と開かないんだ。

いつまでも昔の女を忘れられずにうじうじする男とは違って、ガチャってドアを閉めて背中を向けたら、もう男の事なんて忘れてしまっている。


女とは恐ろしい生き物なんだ・・・」



兄の演説に感心をしていたルイ。


ガスパルトがこんなにも女心に精通している理由。

それは、初めて婚約者が出来て女心が分かっていなかった時に、ルイの誕生日会に来ていたアリス(八歳)に相談したら、「本を読んで乙女心を勉強しろ」とすげなく返されたのだ。

そしてそれを陰から見ていたアデルから、翌日大量の恋愛小説が送られてきたのだった。



「でも、急に男がバルコニーから来たら、変態ぽくてヤバくない?」


全くその通りである。

両想いでなかったら、ただの犯罪である。


「お前たちは恋人同士なんだから、そこは大丈夫だよ。

明日でも構わないならいいけど、お前の勘が早い方がいいって思っているのなら、今行ったほうがいい」


ルイは少し考えて、そして微かに微笑んだ。

金色の瞳が、優しく揺れる。


「そうだね、ありがとう。兄さん」


ルイが自然とそう言ったから、ガスパルトも自然と言葉が出た。


「ルイ、ごめんな。昔、俺がしたことや・・・、言ったこと・・・」


ルイの金色の瞳を見つめて、ガスパルトは母親を思い出していた。


「わかってる。・・・気にしてないよ、もう。俺達は二人とも、傷ついた子供だったんだ」


ルイはガスパルトに笑顔を見せて、そしてアリスの元へと向かった。

ガスパルトは以前アリスに、くだらない話をして乗ってきたら謝ればいいと言われたことをふと思い出して。


(これが乗ってきた、って事かな?)


と、理解したかと思えば、あんなポンコツに言われた通りになった事に、ちょっとムッとして、そのまま一人でディナーを食べ続けたのであった。




馬に乗って夜の住宅街を走るルイ。

侯爵邸の門衛は、ルイの姿を見て快く門を開いてくれた。

そしてそのまま正面玄関には向かわず、横に広がる庭からアリスの部屋の真下へと馬を走らせる。

アリスの部屋の窓からは、明かりが漏れていた。

ルイは側の木に登って、バルコニーへと飛んで移る。


窓ガラスを少し叩いてみたら、カーテンの隙間から愛する少女が姿を見せた。

その非日常的な状況が後押しをして、ルイの心臓が早鐘を打つ。

しかしすぐに、アリスの目元が赤くなっているのに気付き、やはり今日来てよかったとルイは思った。



アリスが開けた窓から軽やかに中に入ると、ルイはそっとアリスの顔を両手で包み込む。


「アリス・・・、何があったの? 全部言って欲しい。

俺が、全て片付けてあげるから・・・」


ルイは優しく親指でアリスの頬を撫でる。

アリスの瞳に薄く涙の膜が張り、ヴァイオレットサファイアの瞳がキラキラと輝く。

薄暗い部屋の中でも、その光り輝く瞳が、ルイの行き先を照らす道しるべのようにルイは感じた。


「やっぱり今日、あの時、誰かに会ったの? 何か言われたの?

アリスを悲しませた奴の名を言って。

俺が、アリスの憂いを晴らしてあげるから」

「どうして?」

「え?」

「どうしてそこまでしてくれるの?」

「愛してるからに決まってるじゃないか」


アリスの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。

ルイは、その涙すら飲み干してしまいたいほど、渇きを覚えた。

アリスの全てを渇望する自分がいる。


「でも、私達は王命で結ばれた、政略でしょ?」


ルイはアリスの言いたい事が理解できずに、場違いにもキョトンとしてしまった。


「え?」

「私達は王命で結ばれた婚約でしょ?」

「え? うん・・・。え? それは昔からだよ? それでも、そうやって出会った俺達だけど、愛し合って恋人になったんだよね?」

「知らない! 私は知らなかった!」

「だから?」


今度はアリスが戸惑ってルイを見つめる。


「え?」

「アリスは知らなかったとして、そして今日それを知った。

それで? ・・・もしかして、俺の愛を疑ったの?」


ルイの声に悲しみや怒りがにじみ出る。


「俺が、あれだけ愛してると言葉でも、行動でも示してきたのに、アリスは、俺達の婚約が王命だったから、俺の愛を疑ったんだね?」

「あ・・・」


アリスの頬を優しく包んでいたルイの手が離れ、そしてそのままアリスの肩を掴む。

その手は、悲しみのせいか、いつもアリスを壊れ物のように大事に触れるルイには珍しく、少し強い力が出た。

アリスはその手から、ルイの悲しみを強く感じ、自分が間違えていたことに気付いた。


(ルイを傷つけてしまった・・・)


アリスの瞳から、次から次へと涙が零れ落ちる。

だけどルイはもう、その涙を拭ってはくれなかった。


「アリスが、俺の愛を疑うのなら・・・」


涙を拭ってくれないルイに、アリスはしゃくりあげて泣きだした。


「婚約を破棄しよう」


ルイの言葉が信じられず、アリスはイヤイヤしながら首を横に振る。

ルイが掴む手に触れるが、ルイはアリスが近づくのを阻止するかのように手を伸ばしたまま肩を掴むから、アリスの手はルイまで届かない。

アリスは顔を歪めて嗚咽する。


「嫌だ。嫌。いや・・・」


アリスはもう涙で前を見ることが出来なかった。

滲む視界の先にいるはずのルイは、もうアリスに笑ってくれない。涙を拭ってくれない。




「公爵家が借りたお金はもう返しているけど、今までの恩を受けた分を清算して、俺達の婚約を真っ新にして無かった事にしよう。


そして」



ルイは、肩を掴んでいた手を放してアリスの両手を掴むと、そのままアリスの足元へ跪く。



「そして、関係がなくなった状態で、俺はまたアリスを乞うよ」



涙で前がぼやけるアリスは、ルイが自分の手を放し、そして自分のネグリジェのスカートのすそを掴んで、そのすそにキスを落とす姿を見た。



「アリスの愛を、乞うよ」



アリスは、そのまま座り込む様にルイの腕の中に倒れ込む。

嗚咽で言葉が出ないアリスをギュッと抱きしめて、ルイはずっとアリスが落ち着くまで尻もちをついたまま、きつく抱きしめた。





ルイはアリスから、今日起きた出来事を聞いた。



「私は傷物だから・・・」


そう言って、下を向いてしまったアリスの顎に手を添えて、ルイはアリスの顔を軽く上げさせる。


「アリスは傷物じゃないよ」

「ルイは知らないだけだよ」

「じゃぁ、見せて?」


ルイのまさかの発言に、アリスは驚いてしまった。


「アリスは傷物じゃないよ」



ルイは優しくアリスを抱っこすると、そのままベッドまで行き、アリスを優しくベッドに降ろす。

アリスが戸惑った表情を浮かべたのが、揺れるろうそくの光の中で見えた。


ルイがそっと手を伸ばし、アリスの首元のリボンをほどく。

ルイの瞳に熱を感じたアリスは、その熱に浮かされるように、されるがままでいた。

ルイがアリスの表情を注意深く観察する。

少しでも脅えが見えたら止めよう。

そう思いながら、ネグリジェを上に持ち上げると、アリスは戸惑った表情のまま、しかし受け入れるように手を軽く上げた。


そのままするするとネグリジェを脱がせば、中はドロワーズを履いているだけで。

アリスは心もとなくなり、小さなクッションを一つ背中から取り寄せて胸元を隠して、ギュッと目を瞑った。


ルイは、ベッドの上で左側を向いているアリスの右の脇腹に、あの日の傷を見つける。


ベッドに膝をついて乗りあがってきたルイが、自分の傷に触れるのが分かった。

傷跡に、ルイの大きな手がなぞる様に触れる。

そして、ルイはその傷跡にキスを落とした。


アリスは、胸元をクッションで隠しながら、ルイが自分のお腹にある傷跡にキスをする姿を見つめる。

ルイが顔を上げると、思いのほか顔が近くにあった為、アリスの心臓は早鐘を打つ。

薄暗いろうそくの光の中で、ルイの黄金色の瞳が揺れる。

アリスは手を伸ばして、ルイの頬に触れた。

ルイは優しくアリスに微笑むと、ベッドの上に膝立ちになり、そして上半身のシャツを脱いだ。


「わっ!」


アリスが驚いて、顔を背ける。

ルイはそんなアリスを優しく見つめて「お揃いだよ」と言った。



その言葉にアリスがルイを見ると、ルイがアリスの視線を誘導するように、自分の左の脇腹にある傷跡を手でなぞる。


アリスは驚いて凝視した。

ルイにも傷跡が残っているとは、思いもしなかったのだ。


アリスが恐る恐るルイの脇腹へと手を伸ばすと、ルイはアリスが触りやすいように、少し近づいて傷跡を見えやすいように体を動かした。

アリスが傷跡を触る。


「お揃い」

「そうだよ、お揃い。アリスが傷物なら、俺も傷物だよ」


アリスはクッションで胸を隠すことも忘れて、手をついて一歩ルイに近づくと、さっきルイがしたように、アリスもルイの傷跡にキスを落とした。



アリスが顔を上げると、泣きそうな顔でルイがアリスを見下ろしていた。


だからアリスも膝立ちになって、ルイの頬に手を添える。


二人の瞳が揺れる。



そしてどちらからともなく、二人の唇が深く重なる。



そのままキスをしながら二人は強く抱きしめあった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] さすがルイ!まさにスパダリ! 前回は読んでいて辛かったけど、ルイがすぐにアリスの心を救ってくれて良かったです。 さあ、サクッと悪者退治もしちゃってください♪
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