⑬ アリス
アリスが少しメンタルをやられてしまいますが、スパダリがすぐに駆け付けるのでご安心ください。
その為、少し短めです。
『女の子は誰だってみんなプリンセスなの。
白馬に乗ったアリスだけの王子様が、愛してくれるわ。
アリスは、アリスと言う人生の主人公なのよ』
いつから、ルイは私の特別になったのだろう・・・。
気付けば一緒に居た。
毎日一緒だったから、ルイが来ない日曜日は、自分の半身がどこかに行ってしまったように感じた。
昔から私は、我儘な子供だった。
自分が望んだことが叶えられないなんて、考えた事もなかった。
お母様の様な、お姉様の様な、淑女になりたくて。
いつも真似っこをしていた。
皆がそんな私を見て、微笑んでくれる。
ルイはとても可愛い男の子だった。
自分よりも小柄で、自分の意見をあまり言わないルイは、弟みたいな存在だった。
(わたしがルイのめんどうをみなきゃ!)
そうやっていつもルイを引っ張っていたな・・・。
ルイはいつだって私の望みを叶えてくれた。
手を繋いでどんどん歩いて行く私の後ろから付いてくるルイ。
振り向いたら、いつも眩しい笑顔で微笑んでくれた。
他の人もそう。
この世にいじわるな人なんていない。みんな私に微笑んでくれた。
優しい人々に囲まれて、優しい世界でぬくぬくと生きていて、私は驕っていたのだろう・・・。
だって私は、どんなに怖い状況でも勇気を振り絞って立ち上がったら、いつも幸せを手に入れる事が出来たから・・・。
あの船底で囚われた記憶は、私の心に大きな闇となって残った。
自分が今まで見たことも無い、恐ろしく暗い、闇。
私はあの日まで、自分は何だって出来ると信じていた。
だけど、ちっぽけな私の小さな手では、守れない物もあるのだと、知った。
ジュリエット様と話した後、自分がどうやって生徒会室に戻ったのかも分からない。
だけど、何時もの様にルイと話しながら馬車で帰る。
何事も無かったかのように。
ルイは、私に話し掛ける時、とても優しい瞳をする。
――— だけどそれが愛ゆえだと、どうして分かるの?
私の様子がおかしいと、すぐに気づいてくれる。
――— それが愛されている理由になるの?
今まで信じていた何かが、急に心もとなく感じた。
今までの私だったら、聞いていたかもしれない。ルイに問い質していたかもしれない。
だけど、怖くて聞けない。
お姉様が読んでくれた小説にあったな。女の子は恋をすると臆病になるって。
もしも私を愛していなかったら、もしも本当にジュリエット様を愛していたとしたら・・・。
私はルイの手を放せるだろうか?
この手を、この瞳を、失くしたまま一人、生きて行けるだろうか?
家に帰った私は、食欲が無いからと言ってそのまま部屋に閉じこもった。
キキがやってきて、無理やり私の手を引いてお風呂に入れさせる。
私の髪の毛を洗いながら「嫌な事、悲しい事は湯船で洗い流せばよいのですよ」と言って、私が涙を流している間ずっと、歌いながら世話をしてくれた。
お風呂に入ってさっぱりすると、少し気が楽になった。
ジュリエット様と話して、少し神経質になっていたのかもしれない。
今なら、ルイの手を放してあげることもできそうだ。
そう思って、やっぱり少し泣いてしまった。
バルコニーで物音がした気がして、カーテンから外を少し覗いたら、そこにルイが居た。
黄金色の瞳に、不安げな、迷子の様な表情の自分が映っている。
ルイ、大好き。
だから彼を、自由にしてあげなくちゃ・・・
『白馬に乗ったアリスだけの王子様が、愛してくれるわ』




