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⑩ アリス、誘拐される 後編

子供が傷つく描写があります。

苦手な方はご注意ください。


アリスとルイが誘拐されるほんの少し前。


浜辺で貝殻を拾っていたアデルとラファエルは、穏やかな空気に身を置いていた。


アデルはラファエルの中に少し前から、自分への愛が芽生えている事に気付いていた。

ラファエルへの愛は無いけれど、恋人同士の様にデートをするのは楽しかった。彼が一生懸命に自分に贖罪をしようとしていた時も、愛を乞おうとしている今も、彼は不器用なまでに真っ直ぐだった。それは何でも器用にこなすアデルにとっては、新鮮であり好感が持てた。そしてそんな彼からの愛情表現は、くすぐったくもあった。



二人手を繋いで、寄せては返す波を見ていると、近くで男達が騒ぎを起こしだした。

些細なきっかけのようだったが、胸倉を掴み始めた為に、少し離れて護衛をしていた騎士達が一斉にラファエルとアデルを取り囲んだ。

驚いたアデルだったがすぐさまアリスの様子を見る。少し離れたところで女の子と一緒にいた。

アリスとルイの傍には騎士が一人ついている。

それを確認してから、アデルは騒ぎを起こしている海の男達に視線を戻し、辺りの家族達が怯えたように距離を取り始めたのを確認して、ラファエルに数人の騎士を向かわせてはどうかと伝えた。


ラファエルも周りの状況を確認してから、数人の騎士を、喧嘩を止める為に向かわせた。


喧嘩をしていた男達はこの領地の人間であったが、騎士が間に立つと大人しくなった。

ホッと息をついたラファエルとアデルの耳に、一人の騎士の叫び声が届く。


「ルイ様とアリス様が居なくなりました!!!」



アデルが倒れそうになるのをラファエルが支え、騎士の報告を促す。



「先ほど浜辺で、領民と思われる親子とお話をされていたルイ様とアリス様でしたが、父親がこちらの騒ぎを指さした為に目を離した瞬間に、親子共々お姿が・・・」


騎士は青褪めて報告をする。

一瞬目を離したすきに居なくなってしまったことに気付き、慌てて辺りを見回し、そして近くにいた家族連れにも声を掛けたが、誰も姿を見ていなかった。

更に喧嘩をしていた海の男達に確認すると、一人の男から言葉巧みに誘導されて、気が付けば喧嘩に勃発していたが、よくよく話をしてみれば行き違いに気付いた。


「その、誘導した男はどんな人相だった?」

「中肉中背の、特に特徴のない男だった・・・」


海の男は、もう一度その男に会っても分からない程、特徴の無い男だったと、顔を青褪めながら話した。

それを聞いたルイとアリスに付いていた騎士も、その地元民と思われる親子は全く特徴が無く、一秒毎に忘れていってしまう、と頭を抱えた。




「あ、ああ、アリス・・・アリス!!!」


アデルは立ってもいられない程に困惑し、その場に座り込んでしまった。

そんな彼女をきつく抱きしめて、ラファエルが大きな声で指示を出す。


「すぐに侯爵家に伝令を!!! ルイとアリスが誘拐された!!!」



ラファエルの怒鳴り声が聞こえた領民達が、騎士達が動く前に素早く行動をする。



「緊急事態発生! 緊急事態発生!!!」


誰かが叫びながら浜辺にある鐘を鳴らすと、それを聞きつけた要塞の中の店の主達も大声を出しながら、店に取り付けている鐘を力いっぱいに鳴らす。



「緊急事態発生! 緊急事態発生!!!」



ラファエルと騎士団が呆然としている間に、船乗り達が大勢砂浜に集まってくる。

そして騎士から状況の説明を受けた男達が、各々に動き出す。それは統率の取れた騎士の様な動きで・・・。



「殿下。・・・こ、これは・・・」


侯爵家陞爵の条件は騎士団の解体。

しかしどう見ても騎士の訓練を受けたような動きを見せるのは、海の男達・・・。



「この件は、とりあえず置いておこう。今大事なのはルイとアリスの安全だ」


ラファエルは騎士のリーダーに小声でそう言い、船乗りたちの様子を見ていた。


男達は四人一組となって小舟に乗り、それぞれが港にいる船に向かっていく。

どうやら全ての船の積み荷を調べるようだ。

ラファエルは統率の取れた船乗りの動きに安堵したが、騎士のリーダーは、たった今出航した一つの船を見つめていた。

この短い時間では、絶対に無理だとは思われる。

しかし、杜撰なようで緻密なこの計画。

もし、もしも二人を攫ったのが人攫いに慣れた海賊で、もう出航したあの船に二人が乗っていたとしたら・・・。


恐ろしい考えに囚われていた彼が、それを告げようとラファエルに振り返った時、ラファエルが眉を顰めてとある方角を見つめている事に気付いた。


「どうされました? 殿下」


ラファエルは不思議な動きをした二人を指差した。


「彼らは何をしていると思う?」


ほとんどの船乗り達が積み荷の確認に向かったのに対し、二人の大柄な男達が港の灯台のある丘へ上って行った。

そして灯台の麓にあっという間に着いたかと思ったら、丘にある木でできたレバーを二人掛かりで押したのだ。






******




警鐘を鳴らされた時には焦ったが、すでに船は出航許可を受けていた為、海賊たちはアンカーを上げている最中であった。

焦る必要はない。

今から動いても、自分たちの船はもう沖に到達する。

海賊の統領は操舵室から行き先を見つめる。

目の前には水平線。

もう何人たりともこの船を止める事は出来ない。

笑いが込み上げてくる瞬間、



「0時の方向に障害物ありー!」

「1時の方向にも障害物ありー!!」

「11時の方向にも障害物ありー!!!」



船乗り達の信じられない警告に、統領は目を凝らす。するとそこには、海から尖った鉄の棒が等間隔で浮き上がっていた。

来るときには無かったそれが、彼の進路を阻む。至急船を止めた彼が目線を動かすと、左右から四人の船乗りが乗った小船が彼の船の横に付き、大きな声を張り上げた。


「事件が発生した為、積み荷の確認にご協力をお願い致します」


丁寧な依頼だが、有無を言わせない態度が見てとれる。

この時、統領はあることに気付いた。

この港に初めて来た時、ガタイのいい船乗りが多いと思った。だけどそれだけだった。

だけど今、彼らが揃って行動をしている所を、その統率の取れた動きを見て気づいた。


(こいつらは船乗りじゃない! 騎士・・・いや、戦士だ!!!)


統領は、目の前にあったヒントに気付かなかった事に、悔しさに奥歯を噛み締めた。

しかし彼は、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸を一度して、側近に目配せをする。


(まだ大丈夫だ。あの隠し部屋に気付くことはできない。船乗りならなおさらだ)


統領は踵を返して船長室の横にある小部屋に身を隠す。

そしてそこにある隠し窓から船長室の様子を見た。

コンフラン領に属する船乗りの一人を伴って、自分の側近が話を聞くために船長室に入って来た。

エマの父親役をした、顔に特徴のない男だ。


「どうしたのですか? 我々はきちんと出航の許可を頂きましたよ?」


船乗りの男は隙のない動きで船内を素早く観察すると、船長役の男に対峙する。

手を後ろで組み、仁王立ちで自分の前に立つのがただの船乗りで無い事に、船長役の男も遅ればせながら気付いた。


「この領地の姫様が攫われまして。・・・何かご存じですか?」

「そうだったのですね! それは大変だ! この船には居ませんが、協力は惜しみませんよ」


特徴の無い顔に、人好きのする笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます。

姫様と一緒に攫われましたのは、この国の王子様です」

「・・・は?」

「国王の末姫様が御産みになったルイ王子殿下です」


船長役の男の背中に冷や汗が流れる。


(国王の孫・・・。)


隣の部屋にいた統領も自分の顔が青褪めていくのを感じた。


(あの少年の髪色は何色だった?・・・黒だ。間違いない。では瞳の色は・・・?)


音を出してはいけないと感じながらも、統領は生唾を飲み込んだ。


暗い船室では彼の瞳の色は正しく認識できなかった。しかし、琥珀色に見えたあの瞳が本当は、空の下で見たら、金色だったとしたら・・・。



「これがもし海賊の仕業なら」


船乗りの声が遠くに聞こえた。

扉を隔てた向こう側とこちら側、海賊たちは船乗りの声を一言一句聞き漏らさないようにと、固唾を呑んで耳を澄ます。



「貴族に手を出したなら、捕まった海賊は打ち首です。しかし」


船乗りの視線が、前の男を捉える。


そして、ゆっくり首を傾げて、ただ壁の方へと目を向ける。


しかし統領は、彼と目が合ったような錯覚に陥った。


「王族に手を出した事が発覚した場合は・・・」



海賊がとある帝国を後ろ盾に活動していることは、公然の秘密だ。

だから彼らは、時には自分たちの利益の為に、他国の貴族に手を出したりする。証拠を残さずに海に出てしまえばいいだけだ。

しかしもしも王家の物に手を出したら。

彼らの後ろ盾は、絶対に彼らを守らない。


運が良ければ逃げ切れるが、二度と陸には上がれないだろう。

もしも捕まれば、拷問で死よりも恐ろしい目に遭うだろう。



彼らが黙り込んだのを見て、船長室を出た船乗りは、近くに控えていた男に伝える。


「姫様と王子殿下はここに居る。もしかすると予想外の場所に隠し部屋を作っている可能性がある。床板、壁、全てを取り払っていい。絶対に見つけ出せ」

「はっ」


男が自分の命令を他の船乗りに伝えに言った後ろ姿を見送り、船乗りは部屋に戻り、そして船長役の男を見ながらドアに鍵をかけた。


「そこの男も、もう出てきたらどうだ?」







ルイは、泣き疲れて自分に凭れ掛かって眠ってしまったアリスの体をずらして、彼の膝枕で眠れるようにした。


(どうか。彼女が眠っている間に解決して欲しい。


もうアリスが、恐ろしい物をその瞳に映さなくてすむように・・・)



ルイは、エマが今まで見たことが無い程の優しい手つきで、アリスの髪の毛を梳いていた。



「あの男は、本当にエマのお父さんなの?」


ルイがエマに掛けた声音は、先ほどまでアリスに向けられていた声音と同じとは信じられない程に鋭利だった。

いつも優しい彼の黄金色の瞳が、怒りによって冷たい色に光り輝く。



エマは声に出さず、ただ首を横に振った。


「母親の形見を落としたって言うのは、嘘・・・?」


今度は黙って頷く。


「そうか、よかった」


冷たい声音だが、ルイは心を込めてそう言った。


エマが問い質し気にルイを見る。


「僕もお母様を亡くしているから、もし本当に形見を失くしてしまったとしたら、どれほど悲しいだろうと思って・・・。

嘘で、良かった・・・」


ルイはもうエマを見ようともせず、ただ目線を下げて、アリスの寝顔を見ながら彼女の髪を優しく梳き続けた。



「君も攫われた子なの?」


ルイとアリスの横の檻に入っていた男の子がエマに聞いた。ルイ達より少し幼い少年だ。身なりからすると貴族の子供かもしれない。

ルイは見ていなかったが、エマが頷いたのを感じた。すると別の檻から、ルイ達より少し年上の男の子が吐き捨てるように言った。


「嘘だぜ! そいつは母親に捨てられて海賊になったんだぜ!」

かなり薄汚い少年は、長くこの檻にいるようだった。

「違うもん! 捨てられてないもん! 攫われたんだもん!」


エマが手で耳を塞いで目を瞑った。

その様子をみてルイは、少年の言ったことが正しく、エマが現実から目を逸らしていることに気付いた。


「攫われたんだったら、助けてよ。僕達と一緒に逃げようよ・・・」


隣の檻の少年が、縋るようにエマに助けを求める。


「知らないわよ! 裕福な貴族の坊ちゃんなんて! 売られて酷い目に遭ってしまえ!!!」


立ち上がったエマは鬼の形相で怒鳴りつけた。

隣の檻の少年は泣き出してしまった。


その時、ルイの耳が外の音を拾った。

何かを探すような音がして、 “姫”という単語が聞こえた。自分たちを探しに来たのだ。


「みんな! 助けが来た! 助けて!!! 僕達はここに居る!!!」

「助けてーーー! 助けてーーー!!!」


ルイが有らん限りの力で叫ぶ。

隣で泣いていた少年も一緒に叫んだ。

しかし声は遠のいて行ってしまったようだ。


「何で・・・」


ルイが絶望の声で呟くと、年長の男の子が空ろな瞳で言った。


「無駄だよ・・・。ここは、外の音が聞こえるのに、ここの声は聞こえない仕組みになっているんだ・・・」



ルイは絶望で心が折れそうになったが、自分の腿に頭を乗せて、赤い目を瞑っているアリスを見て、心を鼓舞した。


「僕はルイ・カイゼルスベルク。

僕のお母様が国王の末姫で、僕は王家の血を受け継いでいる。身分は公爵家だけど、王位継承権も持っているから、王立騎士団にとって僕は、王子殿下になるんだ。

ここには王太子の息子であるラファエル兄様も来ている。アリスのお姉様がラファエル王子殿下の婚約者なんだ。

だから王立騎士団が僕達を探している。今この船で。

だから諦めないで。声を出し続けよう!」


ルイは周りの少年少女を鼓舞した。

きっとここには、平和ボケした王立騎士団ではなく、この領地にいる戦士たちが助けにくるだろう。

しかしこのコンフラン家以外から連れ出された子供達にとっては、王立騎士団の方が勇気を貰えるだろうと、ルイは判断した。


その判断が功を奏して、子供達が有らん限りの力を振り絞って叫び始めた。

ずっと空ろな瞳で座り込んでいた少女達も。


どれくらいの時間が経ったのか。

ルイが声を枯らし咳き込んだ時、子供達の声が止まった。

誰もが無駄だったのかと心折れそうになった。


「だから、無駄だって言ったじゃない」



そう、何も見ていない瞳でエマが呟いた時。



アリスが静かに頭を起こした。



その動作が緩慢だったのか。


皆の目には全てがスローモーションに見えた。



アリスはまるで今までの会話を全て聞いていたのかという程、今この場の全てを把握しているかの様な毅然たる表情を浮かべて、エマを見据えた。


この薄暗い檻の中でも、彼女のヴァイオレットサファイアの様な瞳が光り輝く。

黙ってエマを見据えるアリスは、誰もがひれ伏したくなるような美貌の(かんばせ)に尊大な表情を浮かべた。


まるで、自分の願いが叶わない様な事が、この世界で起こるわけが無いと言うかの様に。



「大丈夫。私はスパハニだから。絶対皆を助けてあげる。

あなたも、あなたも、あなたも」


アリスが一人一人を指差していく。


そして最後にエマを指差し


「あなたも」




「アリス・・・」



ルイが揺れる()でアリスを見つめる。



アリスは高慢で傲慢な笑顔をルイに向ける。



そして、大きく息を吸い込んだかと思うと・・・




「んぎゃ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!」






特大の意味不明な奇声を発した。




子供達は呆然とアリスを見つめる。


ルイも開いた口が塞がらなかった。


まさか“助けて”じゃなくて意味不明な叫び声をあげるとは夢にも思わなかったのだ。


しかしアリスの奇声から遅れる事20秒。


天井の板が外れたかと思うと、屈強な船乗りの一人が華麗に天井から降り立ち、アリスの前に膝をついた。



「ご無事で、姫様」



鼻息荒く一度深呼吸をしたアリスは一言、「遅い」と文句を言った。






*****




子供達が無事に助け出されて、海賊たちは一人残らず縄がかけられた。

檻の中の子供達は、泣きながら抱き合いながら、お互いの無事を確かめ合った。

ルイとアリスも抱き合って泣いた。


「かっこ良かったよ」

「ルイもね」


二人はお互いの涙を拭いて、そして小舟に乗せられる子供達の列に並んだ。

もう怖い物は無い。

皆が笑顔を浮かべた頃、船乗りに連れられてエマがやって来た。手は後ろで縛られていた。

彼女が被害者になるのか加害者になるのかは、誰にも分からなかった。


アリスは船乗りの前に立ち塞がる。


「手を放してあげて」

「なりません」

「その子も被害者だわ」

「それはこれから調べてから判断されます」

「手を放してあげて」

「姫様」

「勘違いしないで。これはお願いじゃなくて命令よ」


誰もが固唾を呑んで見守っている中、アリスが吐き捨てるように言った。

たった二言三言、言葉を交わしただけの少女を何故助けるのか?

ルイには理解できなかった。


だからだろうか。



ルイは少女の一挙手一投足を、目を逸らさずに見つめ続けた。

縛られた腕が自由になった少女。


「大丈夫。エマの事も守ってあげるから」


アリスが笑顔でエマに言うが、彼女の目はずっと、自分を引っ張って来た船乗りを見つめていた。


彼もエマの一挙手一投足を、目を逸らさずに見つめ続けた。


だけどほんの一瞬、小舟に乗り込もうとした少女が態勢を崩したときに、エマから目を離した。


その一瞬を逃さずに、エマは俊敏に自分のスカートの裾から鋭利な折り畳みナイフを取り出して、ルイとアリスの方に切りかかってきた。

いち早く気づいたルイがアリスに被さる。しかしエマが到達する前にルイの行動で異変を感じたアリスもまた、ルイの下から出てきて彼に被さった。

折り重なるように抱き合った二人に刃物が躍る。


「恵まれた貴族がえらそうに!!!」


その声と同時に、ルイの左の脇腹と、アリスの右の脇腹が、一本の線の様に斬られた。




「キャ――——!!!」



子供達の叫び声でその場が混乱に陥る。



左の脇腹が火傷を負ったように熱い。

ルイは朦朧とする意識を叱咤し、倒れ込んだアリスの肩を掴んで傷口を見る。

傷口は深く大量の血が出ていた。


「アリス! 大丈夫!?」


ルイはかすむ目でアリスの顔を覗き込む。

アリスは真っ青な顔に笑みを浮かべた。


「ルイ、だいじょーぶ・・・?」


何とか聞き取れた声は、震えていた。





アリスは、かすれる目でルイの無事を確かめた後、滂沱の涙を流して叫んだ。


「痛い! 痛いよ~!!!」


この世に生まれ落ちてから、ほとんど怪我などしたことがない貴族令嬢であるアリスにとって、死んでしまうかと思われる程の痛みであった。

そして、痛みに耐えきれずアリスはそのまま気を失ってしまった。



(ああ! 神様! 彼女を守って!!!)



ルイの意識もそこで途絶え、彼は折り重なるようにアリスの傍で気を失った。
















アリスは一ヶ月近く眠ったままだった。


目を覚ました彼女は、さらに一ヶ月以上ベッドから起き上がれず、気が付けば年を越していた。



さらに、寒い冬を越し、春が訪れた。







窓辺のカーテンが、春の風に乗って軽く揺れる。


庭の木々が冬ごもりから目覚めて、青々とした葉を実らせていた。

あと少ししたら春の花たちも、自分の美しさを誇る様に、我先にと競って咲き乱れるだろう。




だけど、その景色を一緒に見たい少年は、もう傍にいない。





ルイは一度もアリスの前に姿を現さなかった。




それからアリスはルイと、四年間会うことはなかった。







闇を抜けて、夜が明けていく




アリスとルイの、子供時代が終わりを迎えようとしていた ———・・・











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