① 「あたち! “スパハニ”になりゅ!!!」
己が決意を眼に秘め、人生の岐路に立たされた人間が浮かべる毅然とした表情をしたのは、この侯爵家の次女。
幼児用チェアに仁王立ちになり、小さなもみじの様な手の、さらに短くてちっさなお母さん指を天上へと突き刺し、アリスは宣言した。
ビックリした鳥たちが大きな羽音をさせて飛び立って行く中、コンフラン侯爵家自慢の庭にあるガゼボで、少女たちは時が止まったかの様に音もさせず幼女を唖然と見つめ続けた。口を半開きにしたまま。
木漏れ日が美しく降り注ぐ、穏やかな春の午後の事であった。
アリス・コンフランがこの世に生を享けたのは、この伝説の仁王立ちから三年と少し前の事。
コンフラン家は、このヴィルフランシュ王国に港を有する広大な土地と、さらに数年前に、枯れそうだった鉱山でダイヤモンドまで見つかった、とても裕福な侯爵家だ。
アリスが生れてから侯爵家を継いだ父親は、辺境伯家の母親と政略結婚だったが、お見合いの席で“微微々”と来た二人は、結婚前から恋人同士となった。
そんな愛し合う二人の元に、長女であるアデルが生れたのは更に七年も前の事。
金髪碧眼の侯爵と、栗色の髪に紫眼の母親から生まれたアデルは、この世の美を詰めたような美貌を持って生まれた。
母親似の栗色の髪は彼女を愛らしく、そして父親似の碧眼は彼女を理知的に見せた。
五歳で淑女教育の始まったアデルは、その才能を遺憾なく発揮し、六歳で国中に才色兼備の名を轟かせた。
それ以降なかなか子供に恵まれなかった夫婦の間に、第二子が誕生したのはアデルが七歳の時。
またまた女の子であったため、ほんの少し隠れてがっかりした侯爵だったが、生まれた赤子の顔を見てビックリ。
巨匠が描く宗教画に登場するような天使がそこにいたのだ。
父親似の黄金の髪に、母親似の紫眼。それらはどちらも次女の美しい顔立ちを、さらに高貴に見せた。
侯爵は姉の名と同じように、“気高い”という意味を持つ“アリス”と名付けた。
アデルが十一歳の時、王太子の息子である十五歳の王子の婚約者選びが始まった。婚約者候補筆頭は公爵家の娘と、才色兼備と名高いアデル。当初は十二歳から十六歳の貴族女子から選ばれる予定だったが、王家がアデルを候補に入れる為に、年齢を十一歳からにしたことは、誰もが知るところ。
年上の令嬢からの熾烈な嫌がらせすら知恵で軽くあしらい、最年少でありながら王子妃教育で最高点を叩き出したアデルが、一年と待たずに正式に婚約者に選ばれた。
アリスが三歳の時である。
アデルは、王子の婚約者に選ばれた翌週、親友二人をお茶会に招待した。
周りの令嬢方の状況を確認するためだ。
侯爵令嬢であるソフィアと伯爵令嬢であるイネスは、コンフラン家の薔薇園にあるガゼボに現れたとたんに辺りをキョロキョロと見渡した。
「「アリスちゃんは?」」
可愛いものが大好きな二人は、いつも姉の後ろをとてとて付いて歩くアリスの大ファンなのだ。
「今日は情報収集の為だから、あの子は邪魔でしょ? その為に、あの子のお昼寝の時間にこのお茶会をセッティングしたんだから」
アデルは二人に席を進めて、メイドにお茶を入れるよう指示を出す。
アデルもかなりのシスコンで、普段は常に後ろを付いて歩くアリスにメロメロなのだ。
まずはアリスが付いて来ている事に気づきながら、素知らぬ振りをしてずんどこ歩いていく。
まだ三歳のアリスには早すぎるため、一生懸命短い足を忙しなく動かして、何とか姉においつこうととてとて小走りする姿を堪能する。
そして、あたかも今気づいたかのように振り向いて待ってあげると、アリスは満面の笑みで姉の横までやってきて、「ん!」と言って、手を繋いでもらおうと伸ばしてくるのだ。
手を繋いであげると、今度は嬉しさを表わすかのようにぴょこぴょこと飛び跳ねながら一緒に歩いていくのだ。その飛び跳ねているステップが、実は世に言うスキップであることは、まだ侯爵家の誰も気づいていないのだが。
そんなシスコンのアデルは、心おきない友とのお茶会の時は、姉の真似っこをしたいアリスも一緒に参加させてあげるのだ、普段は。
「トロワ公爵令嬢は、かなり不服なのを隠しもしていないわ。今アデルに何か不幸があれば、彼女が犯人で間違いなしね」
「そうとは言い切れないわ。ブブロン伯爵は自分の娘が選ばれなかった事に、表向き隠しているけどはらわたが煮えくり返っているもの。今アデルに何か不幸があれば、彼が犯人よ」
伯爵令嬢であるイネスは、幼馴染の伯爵令息に片思い中の為、今回アデルのせいで自分も候補に入ってしまった事で軽くアデルを恨んでおり、侯爵令嬢であるソフィアは、五年前に生まれた弟ではなく自分が侯爵家を継ぎたいと思っていた為、これまたアデルのせいで自分も候補に入ってしまった事で軽くアデルを恨んでいた。
十一歳の二人は、本来ならば候補に入らなくて良かったのだ。
「他は特に不満が溢れ出ている人はいないわね」
「みんな、親が期待していたせいで候補としてやってきたけど、実際はアデルが候補に入った時点で、ほとんどがやる気をなくしていたそうよ。
だから一年もかけずに決着を付けてくれた事に感謝しているわ」
アデルは、二人が仲間の振りをして候補だった令嬢達の腹の底を探ってくれた情報を精査する。
誰が泣いていた、誰それは選ばれずに安堵していた。
筆頭候補であったアデルには見せない顔を、他の候補者はこの二人には仲間の気安さで見せていたのだ。
その時薔薇園の方から、聞いていると思わず笑みがこぼれてしまいそうになる可愛らしい声が響いた。
「ぉねぇたま!」
生垣からぴょこっと飛び出して来たのは、この侯爵家の天使、アリスであった。
真っ白なシフォンのワンピースがアリスの動きに連動してふわふわと揺れる。鮮やかな金色の髪も、まだ生えそろっていないのか細く薄い。その軽さゆえ、ドレスと同じ様にふわふわと揺れ、アリスの高貴な相貌に華やかな色を添える。それらはキラキラと光る紫眼と相まって、ますます彼女を天空の住人の様に見せる。
「「アリスちゃん!!!」」
手を胸の前で組み、感動で胸を高ぶらせる友二人を背にアデルが振り向くと、満面の笑みでこちらにとてとてと走ってくる可愛い可愛い我が妹の姿が。
テーブルに着いたアリスは、自分が受け入れられないとは思うこともなく、メイドに「ありしゅのいしゅ」と、自分の席を用意させる。
アデルは心を鬼にして妹を諭す・・・ことはしない。教育は親の仕事であり、自分の仕事は、アリスに淑女の姿を見せることだ。言い換えると、アリスに憧れてもらいたいのだ。
大事な話も大方終わっているため、アデルはメイドに了承し、アリスの為の幼児用チェアを準備させる。
その間も親友たちは「アリスちゃん何食べる?」「何食べたい?」と、目をハートにしながらアリスを餌付けしようと目論む。
準備された幼児用チェアに、アリスのメイドが抱っこして座らせようとしたところ、アデルについていた騎士が「大変でしょう。わたしが・・・」と、メイドからその役目を奪った。そして、アリスの脇に手を入れて持ち上げる。
その瞬間、いつものメイドのスロー抱っことは違い、ギュンッと一気に持ち上げられた浮遊感で、アリスがキャッキャと喜びの声を上げた。
それに気を良くした騎士は、さらに高くアリスを持ち上げてから、ふわっと椅子に座らせる。アリスはそれが楽しかったのか、椅子に座ってからも「もっかい!!!」と騎士にせがむ。
「アリス」
アデルが淑女然と微笑みながら名前を呼べば、「あい」と返事をして、アリスも淑女然と前を向く。
アデルは騎士とメイドを下がらせて、お茶会を再開する。
アデルは“抱っこ”が大嫌いだった。
なぜならば、それがアリスの一番のお気に入りであるにもかかわらず、三歳になったアリスを抱っこすることは、貴族令嬢のアデルには出来ない事だからだ。
(アリスがまだ赤ちゃんの時は、私が抱っこしたらいつも泣き止むほどだったのに・・・)
過去の栄光に囚われているアデルは、たった今アリスを喜ばせた騎士を嫉妬にまみれた視線で一瞥するのだった。
アデルは姉の真似をして澄ました顔で座っているアリスの前に、問答無用でミルフィーユをサーブする。
そして自分の前にも。
ミルフィーユという名の淑女の天敵をフォークとナイフで器用に横に倒すと、アデルはパイ生地をボロボロにする事無く綺麗にカットして口に運ぶ。アリスは姉のすんばらしいマナーに目を輝かせてから、同じように真似をしながら自分も天敵に挑み始めた。
そうしてアリスの意識を目の前の敵へと向けさせて、アデルは友との会話を再開する。
「アデルが王子殿下の婚約者に選ばれたのだから、この侯爵家はアリスちゃんが継ぐのね?」
「そうね。この子をしっかりと守ってくれるスパダリを探さなければいけないわ」
「アリスちゃんの婿が侯爵になるの? 最近では娘でも爵位を継げるのに?」
「この子、意外にどんくさいから、たぶん婿に継がせると思うわ。まぁ意外に才能があってアリスが侯爵になったとしても、この子の婚約者にはアリス至上主義のスパダリを選ばないと」
ヴィルフランシュ王国では二十年前に、娘にも爵位の継承を認める法令が出来た。
それは、とある伯爵家でお家乗っ取り事件が勃発し、その家の娘であった伯爵夫人が自分の夫を訴えるという世紀の裁判によって、世論が動き出したのだ。
それまでは、スパダリによって溺愛される恋愛小説が女子の間で流行っていたが、その伯爵夫人(現伯爵)を主人公にした小説が一世を風靡してからは、強いヒロインが敵に立ち向かっていくような小説も人気となり始めた。
しかし恋に恋する十代乙女からは、まだまだスパダリに溺愛される系が大人気なのだ。
ここからは、ミルフィーユを口に含むより場外に零す量が圧倒的に多いアリスの頭上で、どこの家の誰がスパダリ要員かが話し合われた。
「〇〇家の次男は? お父上の伯爵様はとても素敵な紳士よ! お父様に似たら凄いイケメンになると思うわ!」
「あそこは長男を見てみなさいよ。あんな風に失敗する可能性だってあるわ。
それよりも、〇〇家の三男は、どう? 長男も次男も素敵よ?」
「あそこはだめよ、長男が女ったらしよ。子爵様も愛人がいるもの。浮気性のDNAが受け継がれている可能性があるわ!」
三歳のアリスの相手なのだ。
相手もまだ幼児であるため先の見えない話なのに、少女たちはウキウキと話に花を咲かせる。
ミルフィーユの相手に疲れたアリスは、しれっと自分でも手が届いたクッキーを、姉達の興奮する話をBGMにもぐもぐ食べ続ける。
「この国って、意外にスパダリ少ないんじゃない?」
「バカね。滅多にお目にかかれないから、憧れるんじゃない」
「「そうよね~」」
姉たちが頬に手を添えて、はぁっと重力を感じさせるようなため息を吐いたとき。
アリスは大好きな姉に聞いた。
「ぉねぇちゃま。すぱだりって、なぁに?」
こてんと首をかしげるアリスは、中央教会の天井画に巨匠レオナルドの手によって描かれた、聖母様の横にいる天使にそっくりだった。
しかもバックは赤い色の薔薇で覆われたアーチと、侯爵家自慢の見事な噴水。
少女たちは絵画の様に美しいその光景をうっとりと見つめる。
「“スパダリ”とはスーパーダーリンの略よ。文武両道でイケメンの、何でも出来る滅茶苦茶かっこいい男を指すのよ」
「ありしゅはすぱだりとけっこんしゅるの?」
「おねぇちゃまがそれを望んでいるのよ。 あなたをとってもとっても大事にしてくれる、優しくてかっこ良くてイケてる男性と結婚して、この侯爵家を盛り上げて欲しいの」
「ありしゅじゃなくて、すぱだりがこーしゃくになるの?」
「その方がアリスもいいでしょ? 難しい事はして貰えればいいのよ?」
アデルがにっこりと微笑む。
難しい鬱陶しい事をやって貰いたいのはアデルの方なのだ。
才女として名を馳せてしまったが為に、難しい鬱陶しい事もしなければならない立場へとやられてしまったが、本来アデルは、夫のお尻を叩いて馬車馬の様に働かせて、自分は家でゆっくり趣味に没頭したいと常々思っていたのだ。
アリスは口を半開きにしたまま、小さな脳みそをフル回転させる。
「もし、そのすぱだりがこーしゃくけをのっとったりゃ、どーしゅるの?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
まさかの三歳児の発言に、少女たちは絶句した。
「あ、アリスちゃん。どうしてそんな事思うの???」
「だって、ぉねぇたまのよんでくれるご本に、あったよ?」
またまた首をこてんとさせるアリスだったが、その天使も真っ青な美貌も背後にある薔薇も、今回は少女たちに何の影響も与えず、アデルは親友二人に般若の顔で睨まれた。
「「アデル。あなた、地上に降り立った天使に一体どんな本を読み聞かせているのよ!」」
アデルは、友二人の勢いに押されて言葉をなくす。
「ありしゅが子どもをうんでしんじゃうのよ。そしてありしゅのこどもがひとりぼっちになって、ありしゅのおっとがおんなのしととこどもをつれてきて、その子をいぢめちゃうの。はなれにおいやられちゃうの。そしてこーしゃくけがのっとられりゅの。
どーしゅるの?」
(注釈:アリスが子供を産んで死んじゃうのよ。そしてアリスの子供が独りぼっちになって、アリスの夫が女の人と子供を連れて来て、その子をいじめちゃうの。離れに追いやられちゃうの。そして侯爵家が乗っ取られるの。どうするの?)
アデルはここで、自分が重大な罪を犯した事に気づいた。
恋愛小説が大好きなアデルは、淑女教育の合間に趣味として多くの小説を読んでいた。
しかし王子の婚約者に選ばれてからは、やれ今後の王子妃教育のスケジュール調整や、やれお披露目のパーティの準備。更には親族がお祝いに駆けつけたりしたため、趣味に費やす時間が取れなかった。
そして、アデルのもう一つの趣味が、アリスへの読み聞かせだった。
寝る準備が終わったアリスは、隣のアデルの部屋まで来てご本の読み聞かせをせがむ。アデルはアリスと手を繋いでアリスの部屋に行き、枕もとでご本を読んであげる。ウトウトしながらも目を必死に開けようとするアリスの表情に悶絶しながらご本を読んであげるのだ。そして眠った天使の顔をツンツンしたりして満喫してから、自分も寝る準備をするのが、アデルの日課であり大事な趣味の一つだった。
そして、そんな激務の日々を過ごしていたアデルの頭の中で、趣味と趣味が手を繋いだのだ。
(読み聞かせの童話を、自分が大好きな小説に置き換えたらいいじゃない!!!)
そうして先日読んで聞かせたお話が、今アリスが言った内容で。
その後助け出された虐げられた女の子が、スパダリによって華開いていく溺愛系のお話なのだ。
寝かせる為のお話なのに、寝てしまわないように頑張って目を開けていようとするアリスが可愛くて。
アデルは無垢な瞳を自分に向けてくるアリスを見て、どう軌道修正しようかと頭をフル回転させた。
「いけてるじょしは、なんていうの?」
アデルがアリスを言いくるめようと模索している間に、アリスの可愛いお口から質問が飛び出した。
その内容に、少女たちがざわざわする。
「え? イケてる女子?」
「それは、あれよ。 イケジョよ」
「そうよね。 イケメン、イケジョって言うわよね」
「・・・んじゃぁ、すぱだりはじょしにはつかえないにょ?」
「「・・・」」
「そうね、スパダリは男性を指すわね」
「じょしをさしゅときは?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
「なくない?」
「・・・聞いたこと無いわよね・・・」
「ダーリンの対義語はハニーじゃない?」
「え? じゃぁ、スーパーハニー???」
「え~? そんなの聞いたことないわ」
「どうしてかしら?」
「スーパーハニーの需要が無いからじゃない?」
「確かに! 男は可愛くてお馬鹿な女子が好きだからね」
「イヤになっちゃうわよね~。そうして淑女教育もされていないような、馬鹿でお股ユルユルな平民上がりが愛されて、私たち貴族女子が婚約破棄されるのよ」
「男の方が頭ユルユルよね。そんな女が貴族夫人になれるわけないのに」
「そんな女と結婚したら家が潰れるっつ~の!」
「っていうか、そもそもその平民上がりも貴族夫人となるための教育を受けたら、あんた達が好きな馬鹿でお股ユルユルはいなくなるのが、わからないのかしら???」
いつの間にか、最近流行っている恋愛小説の話へと移行してしまっている少女たちを、無垢な目で見つめ続けるアリス。
それにいち早く気づいたアデルは友の口を閉じさせる。
「アリスの前で(お股ユルユル)は止めて!」
少女たちはばつが悪くなり、少し冷めた紅茶で喉を潤す。
「ありしゅ、おもうの・・・。
わるいやちゅほど、あたまがいいのよ。
だからね、ありしゅがすーぱーはにーになって、こーしゃくけをまもりゅ。
しょちて、ありしゅのおっとはバカがいいとおもうの。
そちたら、ありしゅがおっとをまもってあげられるから」
神妙に将来を語る三歳児に、アデルは冷や汗を掻きながら止めに入る。
「アリス、そんな事考えなくても大丈夫よ。おねーちゃまは王子妃になるのですから。アリスの夫が悪い奴だったら、このおねーちゃまが守ってあげますからね?」
「ぉねぇたまは、おまたゆるゆるのせいで、おーじしゃまにこんにゃくはきされるんじゃないの?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
「ありしゅは、あたまのいいわるいやつより、あたまのわるい、いいやつのほうがしゅき」
アリスはテーブルに肘をついて、流し目で小さくため息をつく。
「アリス・・・。きっとスパハニは自分のことを名前で呼ばないわ・・・」
何とかアリスの思考を軌道修正したかったが、もう何も思いつかなかったアデル。
彼女の頭を占めるのは、母親に怒られる未来だけだった。
アリスはおもむろに幼児用チェアに立ち上がると、すっと右の拳を天へと向ける。
そして、小さなもみじの様な手の、さらに短くてちっさなお母さん指を天上へと突き刺し、アリスは宣言した。
「あたち! “スパハニ”になりゅ!!!」
大してポテンシャルの高くない主人公が尊大な夢を見たがために、そう遠くない未来に多くの大人が振り回されることとなる。
そして、そんなポンコツの婚約者に選ばれてしまったかわいそうな少年が、間近でポンコツのポンコツぶりを見たせいで、逆に危機回避能力が発達し、スパダリに成長していってしまう物語が始まった。