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見えざる者  作者: 駄犬
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木霊

「まぁ、これもまた様々にある推測の一つに過ぎませんけど」


 長江は、手応えの感じない真実の追求に辟易しているかのように、嘆息を落とす代わりに顔を俯かせた。


「……」


 突然の沈黙に、ワタシは目線の行き場を失った。図らずも、物置き小屋に足を踏み入れた瞬間の物珍しさを再現する目の泳がせ方となり、俯いていた長江の興味を誘ってしまった。石の裏を覗くかのような、好奇心と不安が入り混じった眼差しを此方に向けられ、甚だしい居心地の悪さが催す。当時のワタシを「やめなさい」という、たったの一言で説き伏せた母親の心情を今になって正しく理解する時が来るとは夢にも思わなかった。そぞろに上がった口角は自嘲を多く含み、上下しそうな肩を既の所で抑える。


「見て」


 長江の一言に従い、ワタシはやおら面差しを持ち上げていく。そうすれば、「降霊会」の真っ只中にある犬山と中年男がおり、きわめて深い没入加減にあるその雰囲気は、何が起きてもおかしくない様相を呈していた。ワタシが自分のことで精一杯だった間にも、「降霊会」は恙無く進行していたようで、催眠に掛かったかのように中年男は力なく座っている。恭しく片膝を着いていた犬山は、中年男の首が力なくダラリと倒れたのを見て、片膝での姿勢を解き、中年男を見下ろした。


「大丈夫なんですか?」


 初めて経験する、「降霊会」の過程は未知と言わざるを得ず、不安が付き纏って仕方ない。そんなワタシの不安に対して、長江は理屈による説明を放棄する。


「見てればわかる」


 ワタシはそれ以上、質問を繰り返して長江の返答を期待することはやめた。目の前で起きる事象を誠意をもって見届けることにしよう。そう決意した直後、


「こんばんは」


 犬山は、脱力状態にある中年男に向かって、

柔和な声色を使って話し掛ける。まるで、初対面の人間と接するかのように。降霊という行為が成り立っていなければ、失笑を買って当然の振る舞いであったものの、そこに欺瞞の類いが介在しているとは思えない、迫真に迫ったのめり込み具合にあり、ワタシが嘲けた所で白い目を向けられそうだ。


「……」


 中年男の顔が徐に持ち上がり始めて、周囲の状況を咀嚼しようとする。たどたどしく回る首が、服の袖に物を引っ掛けたかのように静止した。ワタシと目が合ったことをきっかけに。


「美雪……?」


 無垢なる輝きを放つ瞳は、中年男の見目に即さず、一気呵成に吹き出す汗に混じった悪寒は、この世に存在してはならない存在が暗闇から顔を覗かせたかのような恐ろしさを覚えたからだろう。神隠しの真実を求めてやまない長江の瞳孔が大きく広がったのを視界の端に捉え、肝を冷やした母親の切実なる叫びが頭の中で響き渡る。「やめなさい」と。

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