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見えざる者  作者: 駄犬
11/12

神隠し

「……」


 伽藍のような静けさがこの場に必要であると肌で感じ、ワタシは口を固く閉じる。犬山の囀りに意味を求めて耳を澄ます一方で、中年男の身体が前後に揺れ出すのを見た。本当にごく僅かだ。


「とくに、この地元で起きた神隠しは解決したい事件の一つだね」


 ワタシが漸く、「降霊会」に対する態度を定めたのも束の間、無粋にも長江は話を続ける


「今から十年以上前かな。光輝君はいつもの通りに登下校を行い、放課後は公園で友達と遊んでいたそうだ。流行り病や急な気候変動などに襲われていない町は至って平易にあり、世間を騒がす神隠しめいた失踪事件が起きる機運なんて、雲を掴むようにあてどないものだったみたい」


 過去に起きた悲劇を叙情的に語る長江の顔は、第三者であるからこそ出来る陶酔加減であった。だからこそ、ワタシの眉間に這ったミミズを蔑ろにでき、滔々たる弁舌を披露できている。


「お祭り騒ぎに例えても全く齟齬がないほど、町に部外者が雪崩れ込み、光輝君の安否は差し置かれ、行方不明の原因ばかりに気を取られた」


 ピリピリと肌が痛みだし、皮膚の上に爪を立てて細かく往復させる。ワタシは幼少期の頃から、精神的負荷を感じた際に、自傷する悪癖が社会人になった今現在も続いていた。よもや、「降霊会」などといった、奇妙を体現する場に於いて、過去の伝聞を聞く形で上記の悪癖を催すとは露も思わなかった。


「解決に尽力するという名目で、光輝君の家族には取材が殺到し、家庭環境から人間関係まで丸裸にされたようだよ」


 長江は憂いのようなものを横顔に湛えているが、話している内容は全て、有象無象の厚顔無恥な人間達が集めた情報を羅列しているだけだ。つまるところ、後学を授かっただけの野次馬と変わらない。彼女は事件の解決を望んで、「降霊会」に参加しているようだが、その実どれだけ真に迫った願いなのかは推し量れない。


「父親と母親の共犯説も出ていたけど、世間は事件という側面に偏りすぎだと思うんだ」


 世間では風化した事件事故の背景を知ろうとする人間は、往々にして裏で糸引く存在を感じやすい傾向にあると思う。だがしかし、長江は客観的な事実を私情を抜きにして良し悪しを判断する能力があるようだ。


「もしかしたら、川に遊びに行って流されてしまったのかもしれないし」


 あの日は、記録的な気温を計測された。むせ返るような風の暑さや、コンクリートの地面から立ち上る熱気は、夏という季節を象徴し、こんこんと額から落ちてくる尋常ならざる汗の量から、いつ熱中症にかかっても不思議ではなく、情け容赦ない自然の猛攻に対して、ワタシは文明の利器であるエアコンの嵩にかかるのが常だった。


「確かに事故の可能性だって考えてもいいですね」


 ワタシは長江の中立的な立場を支持する。

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