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見えざる者  作者: 駄犬
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「では先ずは水木さんから」


 静止を求めたワタシの声は非常に小さかった。彼等の「降霊会」に対する意気込みは、蚊の鳴くような声で止まるほど、熱量は低くなかったようである。


「おう」


 物置き小屋の中央に鎮座するパイプ椅子の上に中年男は、重みのある尻を下ろした。「ギシリ」と音を立ててパイプ椅子は泣く。


「また太りました?」


 即物的な立場から長江の手痛い指摘が中年男の虚を突いた。再び、親しさ故の小競り合いが始まると踏んで身構えたものの、中年男は神妙な面差しをしたまま凝然と動かず、「降霊」を行う為の恭順なる姿勢を崩さなかった。


「……」


 犬山は厳しい一瞥を長江に送り、これから先に待ち受ける「降霊」が、決して軽々しいものではないことを暗に語る。ワタシはその雰囲気に飲まれ、兄が不在であることを言い出す機会をみごとに失った。


「じゃあ、始めます」


 先刻の軽妙なやりとりをかなぐり捨てた中年男の前に犬山が片膝を着いて陣取った。よしんば、通りすがりの赤の他人がそれを目撃すれば、主人のお世話をする家政婦さながらの献身性を感じるだろう。だが実際は、奇異な視線を受けて当然の儀式に身を投じる光景に過ぎず、きわめて退廃的だ。ワタシがそう認識できているのは、未だにこの状況に対して不慣れである事と、当事者意識の希薄さが要因に違いない。


「……」


 草をすり潰す草食動物のモゴモゴとした口の動きを犬山がしだす。耳をそばだててみれば、言葉にならないか細い声を感じ取る。目を閉じ、聴覚に殊更の集中を求めたものの、鋭敏さは遥かに足らず、文明社会にどっぷりと浸かった身体の具合に落胆させられた。目の前で繰り広げられる降霊の儀を訝しさを交えずに座視することは土台無理だ。辛気臭い息を吐くと共に、顔を俯かせれば水の合わない環境を憂う典型的な人間の姿を象った。「降霊会」に於いて、ワタシの一挙手一投足は即さない。同じ傍観者である長江に話しかけにいき、この場に馴染もうと目論む。


「長江さんはどうして降霊会に参加しているんですか」


 耳打ちをするように尋ねれば、長江はワタシの顔を一瞥したのち、少し間を置いて答える。


「未解決事件の被害者から話を聞いて、事件の解決にあたりたいの」


 社会的意義のある趣旨を図らずも聞き、ワタシは襟を正す。「降霊会」に参加する者の動機は、暗い好奇心に後押しされた邪な了見とは異なり、前のめりになって当然の理由がそこにはあった。霊魂の所在を白日の下に晒したいという、野次馬根性たっぷりなワタシの思惑は、もはや不埒と言わざるを得ない。ひいては、「降霊会」を浮世離れした夢想家達の集まりであると睨んだ腹心が、今となっては無理解を自称する分からず屋に落ち着いてしまった。目の前で繰り広げられる降霊の儀は、宗教的意味合いを持ち、頭ごなしに否定するような軽々しさはなくなった。

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