第一王女の影武者は婚約破棄に巻き込まれる
「お前との婚約を破棄する!!」
パーティー会場の中央ではロベルト・アシルダ伯爵令息が、その婚約者であるアリア・ルクトベル男爵令嬢に対して婚約破棄を宣言していた。
……こんな所に姫様を来させなくて正解だったわ。純粋なあの方にこんなどろどろとした場面を見せたくなんてないもの。影武者の私が来て良かったわ。
「私は真実の愛を見つけたのだ!」
ああいう奴は大抵すぐ浮気する。何が真実の愛だ。どうせ権力か体目当てに決まっている。ああいうゴミが姫様の婚約者にならないよう、我々部下は目を光らせておかないとね。
「そ、その真実の愛の相手は一体誰なのですか!」
婚約破棄されてしまった男爵令嬢は肩を震わせながら叫ぶ。
可哀想に。まあでもそんなやつと別れれて良かったわね。どうせ真実の愛の相手もろくでもないやつよ。
「カリア第一王女だ!」
ああなんだ、真実の愛の相手って姫様の事だったのね。……ってええ!?姫様!?
「カリア様はすれ違っただけで私に声をかけてくださるのだ!」
いや、それ姫様は誰にだってしてますけど……
「そして私と話す時はそれはもう美しい満面の笑みなのだ!」
逆に嫌そうな顔をして話すわけがないでしょ……
「ほら、カリア様からも何か言ってください!」
……?姫様は今日は来ていらっしゃらないですけど。なぜ会場の皆私を見ているのでしょうか……
は!?そういえば私、今姫様の格好をしているんでした!
「カリア様!我々のラブラブぶりを世間に見せつけてやりましょう!」
いや無理無理!近づかないでよ!
ああ、蹴り飛ばしてやりたい!……でも今の私の行動は姫様の行動。慎むのよ、私!
「すみません。良く分かりませんわ」
「恥ずかしがらなくていいんだ!」
そう言いながらロベルト伯爵令息は私の目の前まで近づいてきた。
私はゆっくり彼から遠ざかろうとするのだが、私の倍のスピードで彼が近づいてくる。
「私にそう言った意思はありませんので!」
「何を言っているんだ!」
ガシッ
ロベルト伯爵令息はそう言いながら私の腕をつかんだ。
な、なんでこいつ私の腕を掴んでるの!?キモい!キモすぎるわ!
「離してください!」
私が腕を振っても、彼は手を離すどころかさらに力をこめてくる。
「素直になれよ!カリア!」
その彼の一言で私の中の何かが弾けてしまった。
「姫様の事を呼び捨てにするな!!」
私は腕から手を捻って外すと、彼の右足を蹴りあげる。
「おわあ!」
その瞬間、左足一本で立たなくてはいけなくなった彼の上半身を思いっきり引っ張り、前のめりに体重をかけさせる。
「こ、こける!」
こける程度ですますわけがない。
私は上半身を引っ張る力を強め、その瞬間に唯一の彼の支えであった左足を思いっきり上に向かって蹴りあげた。
「うわぁ!」
体全体が空中に持ち上がった彼めがけて、私はあげた足を振り下ろす。
「ぐぎゃぁ!!」
ドバダンッと地面に人が叩きつけられる痛々しい音が会場を包み込み、その後静寂が訪れる。
ふっ、姫様を呼び捨てにするなんて百年早いわ!
……ってあれ?やりすぎちゃった?
その後姫様には「戦闘王女」とかいう不名誉なあだ名が付けられた。姫様は笑っておられたけど、私としては肩身が狭かった。
唯一の救いとしては、姫様にまとわりつく羽虫を一匹潰せたことだろう。あの一件があった後から、姫様の名前を聞くだけで悲鳴をあげる伯爵令息がいるとかいないとか。
あと、姫様の元に何故か女性から婚約の申し込みが何件かあったらしい。どうやらパーティー会場で一目惚れしたのだとか。
なんだろう。嬉しいようなそうじゃないような。
……まあ、姫様が楽しそうだったし良しとしますか!
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