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 くるくるとクライドはまたエレノアの髪を巻き付けてシュルシュルととく。それに何してるんだと不思議に思って彼に視線を送る。


 すると視線だけで意味に気がついた様子でクライドは艶のある長い金髪をさらりと持ち上げてからパラパラと落とす。


「これ、切ったらどうだ」


 おもむろにそんな風に言われて、そんなに目障りかと思いエレノアは後ろに流している髪を肩にかけて前にもってくる。


「なんで」

「戦ってる時、靡いて邪魔だろ女騎士連中は大体短いぞ」

「別に邪魔じゃない」

「邪魔だ、俺はやらねぇが、そんなになびかせてたら髪を掴まれて引き倒される」


 言われて想像してみると確かに剣を打ち合っているときに、そうされない可能性もなくはない気がする。腰まである長い髪なので掴もうと思えばどのタイミングでもつかめただろう。


 それはわかるが、流石に切ることは出来ない。


「そうかもしれないけど、譲れない」

「お洒落の為って事か? ならせめて纏めろ」


 端的に返すと彼は、別の提案をしてくる。それにも首を振って返した。この髪型を変えることはできないという意味だ。


「……これが一番似合う髪型がいいから」


 言いながら頭につけているカチューシャを指でなぞる。それは深い藍色をしていて金の金具がついている大人しいデザインのものだ。


 貴族の令嬢が身に着ける物としては、地味すぎるぐらいだがエレノアは寝てるとき以外はいつもつけている。


 エレノアの表情をみてクライドはそのカチューシャに視線を移し、それから、なるほどと納得した。


「アレクシス王子殿下からの贈り物なのか? 随分前からつけてるだろ」

「うん。婚約した時からだ」

「そうか……田舎娘が王都引っ張り出されて、高貴な人間とうまくやれんのか心配してたけどその様子なら悪くねぇ関係なんだな」


 しみじみといった様子でクライドはそういって視線を空へと向ける。


 それに対してエレノアは心配に対するお礼を言って、昔から割と面倒を見てくれる彼を安心させてやりたかったが、現在の状況を思い出して言葉に詰まった。


「悪くはないんだけど……うん」

「なんだよ。歯切れがわりぃな」

「ちょっと相談していいか?」

「お、おう」


 珍しく真面目に言うエレノアにクライドは身構えて背もたれに預けていた体をおこしてエレノアと視線を合わせた。それから、昨日の出来事をやんわりと彼に説明した。



「本当の意味で愛してくれないなら婚約破棄ぃ?」


 話をするとクライドはものすごく嫌そうな顔でそういった。やっぱりこういう反応になるだろう。エレノアだって同じようなものだった。


 そしてそれに誠心誠意考えた結果の行動も伝えると、クライドは額を押さえて項垂れた。


「……聞いていいか」

「うん」

「それをあのアレクシス王子殿下が言ってんだよな?」

「まぁ」

「お前を伯爵家後継ぎの地位から引きずり降ろして、無理を通して求婚してきたあの王子が言ってんだよな?」

「……」


 改めて聞かれてエレノアは微妙な顔をした。事実だけ見たらたしかにその通りなのだ。


 もともと、エレノアは伯爵家の長女だ。一応は後継ぎとして育てられていた、しかしどこで間違ったのだかアレクシスに求婚されて嫁に行くことになった。


 婿取りなら容易だろうということで、色々と嫁に入ることを考えられていない強気な性格は、エレノア自身の性質もあるが後継者教育のたまものでもある。


「そりゃあねえだろ」


 そういった元々の事情を知っているクライドは、イラついた様子でエレノアにまでそのイラついた恐ろしい顔を向けた。


 しかし、怖いとは思わないし、それにエレノアは事実だけ見れば確かにアレクシスはひどいと思うけれど、怒ってはいなかった。


「そうだけど、うーん」


 けっして彼を罵りたいわけではないし、悪意があるとは思いずらいというか言い表すのが難しかった。


 だからこそクライドに同意できずにいると、彼もエレノアの言いたいことが愚痴ではないのだと言うことに察しがついた。


 しかし、それなりに面倒を見てやっている弟分ならぬ妹分が、理不尽な目に遭わされるのは黙ってられないという気持ちとエレノアが求めている答えをともに探してやりたい気持ちが拮抗して頭をガシガシと掻いた。


「あ゛~、愚痴が言いたいわけじゃねぇんだな?」

「うん」

「本当の意味での愛な…………そうだなぁ。なんかお前が知らない事があるんだろうな」

「知らない事」


 そこまではエレノアも分かるのだ。しかし、それをどうやって探すかが問題だ。


 復唱して考えても、具体的な案が思い浮かばない。


「……本人が言わないなら家族に聞けばいいんじゃねぇの」

「家族……」

「もちろん、家族も知らねぇ可能性もあるが、お前がアレクシス王子殿下の為に動いたこと、その事実も大事なんじゃねぇの、分かんねぇけど」


 難しい顔をしながらクライドは言うだけ言って体を揺らして立ち上がる。


 彼がアレクシスの話を聞いてイラついているのはわかっていたので、引き留めることなくエレノアは「今日もありがとうな!」と伝えて振り返らずにひらりと手を振って去っていくクライドの背中を眺めた。


 ……アレクシスの家族……か。


 そう考えて思い浮かべた。適任は誰だろうか。





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