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 ……なんて感じの出会いだったな。


 エレノアは昔の事を思い出しながらクライドと打ち合っていた。彼は木剣で相変わらず稽古の時間であり、エレノアが気を抜いててもクライドに勝てるようになったというわけでもない。


 ……よく思い出してみると、アレックスも隣にいたんだったか?


 思い立って考え出すとその思考は止まらずに、すぐに隙が生まれる。


 その隙を逃すことなくクライドは踏み込み、エレノアの風の魔法の剣を弾き飛ばしついでに足を引っかけてエレノアを転ばせた。


「あっ、う」


 エレノアは簡単に転がって地面に体をぶつけた。しかし地面といっても芝生なので怪我をするということもない。


 しかし起き上がろうとすると木剣を突きつけられて、これから怪我をする可能性もあった。


 厳しい視線を向けられてエレノアは「ごめんなさい」と強くもないのに油断していたことを謝る。


「……はぁ……まあいい、それにしても今日は集中力が続かねぇな」


 今日、彼が来た時から上の空だったことも含めてエレノアにそんな風に言って手を伸ばす。


 色々と面倒を見てくれる彼には様々な相談ごとをするが流石に今日の事まで彼に相談するほどエレノアも適当な性格をしてない。


 本当の意味での愛情問題が解決し、アレクシスたちと和解してからというもの、それはもう忙しかった。


 おもに彼らと過ごす時間は、彼らのどっちとどんな話をしたのか何をしたのかをすり合わせて区別をつけるために時間を割いたり、一方では結婚式に向けての準備にいそしんだ。


 ただひたすらに忙しく、しかし、彼らに対して大見得を切った以上は結婚式も、彼らと向き合うのも、どちらも決して手を抜かなかった。


 その結果無事に結婚式も終えられてエレノアは正式に王室に入ったし、ここからはゆっくりと仕事を覚えて社交界に参加していくだけでいい。


 事はひと段落ついた。


「結婚式も終わって気ぃ抜けたのか? まぁ大分忙しかっただろうしな」

「……それもそうなんだけど」


 クライドは剣をどけてエレノアに手を伸ばしながらそう口にする。


 責めるのではなく理由を聞こうとしてくるグライドに、エレノアは煮え切らない返答を返す。


 仕事も落ち着いて、ひと段落できるからこその問題というのもある。それはエレノアの頭を悩ませていて、簡単にはあまり説明するようなことではなかった。


「休みはきちっと取った方がいいぞ。いくら気丈に振る舞ってたって気が弱るときは誰にでもあんだ」


 しかし、そんなこととは露知らずにクライドはエレノアを気遣うようにそういってエレノアの武器を拾ってきてやって手渡した。


「今日はこのぐらいにして、しばらくはゆっくり━━━━

「エレノア!」


 稽古の終わりを告げようとクライドが口にしたのと同時に、軽やかな声がエレノアの事を呼んだ。


 突然の事に体がびくっとしてぐるぐるとまた考える。


 振り向かなくても誰がいるのかはわかる。しかし、どっちがいるのかはわからない。


「……お前、あの夫になんかされてんのか?」

「いや、そんなことないんだけど」


 異様なエレノアの態度に、クライドが少し表情を険しくして聞くのをすぐに、そんなに深刻な問題ではないからと困り顔でエレノアは返す。


 エレノアの代わりにクライドが振り向いて、離宮の外廊下からこちらに来るアレクシスに視線を向けた。


「そろそろ、稽古も終わりの時間のはずだろ。迎えに来た」

「う、うん」


 そばまで走ってきた彼は、エレノアの手を取ってぐっと引き寄せて、肩を抱いた。


「……いつもご苦労様、クライド」

「いえ、お気になさらずアレクシス殿下。俺はただ、自分の満足の為に足を運んでいるだけですので」


 アレクシスの冷たい声とクライドの堅い話し方に、相変わらずの悪さを感じながら、エレノアはクライドに心配ないと伝えてくて笑みを向けた。


「今日もありがとう、あまり集中できなくて本当に悪かった。また来られる日を楽しみにしてる」

「……おう。あまり無理すんなよ。なんかあったら俺に言え。すぐどうにかしてやっから」

「うん」


 クライドはエレノアにではなく、何故だかアレクシスの方を見ながらそういって、返事をするエレノアを一瞥してから、かしこまった態度で別れの挨拶をして去っていく。


 アレクシスの機嫌が急降下していくのを背中で感じながら、ぐぬぬと考える。ぐっと抱かれた肩が痛くてふと見上げると彼は小さく舌打ちした。


「あれで牽制してるつもりかな」


 そうつぶやいて、去っていくクライドの背中をにらんでいた。


 ……なんでそんなに嫌うんだろ。クライドは悪い奴じゃないんだけど。


 昔から思っていた疑問がまた降ってわいて、すぐに男の子同士だと色々、エレノアにはわからない事もあるのだと考え直してそれから、んんっと咳ばらいをして改めて目の前にいる彼を見上げる。


「……そ、そんなに睨まなくてもいいじゃないか……あ、あ、あ……アレックス!」

「……」


 正直なところを言えばアレックスだという確証はなかった。


 しかしそれでも、受けて立つと決めたからには、毎日彼らの見分けをつけるために言動を思い出し、少しの違いもないものかと考えた結果、稽古にも集中力を欠く結果となってしまっていた。


 今日の結論はアレックス、彼らは日替わりで交代しているらしいけれども毎日交代しているとは限らない、昨日がアレックスでも今日もアレックスということも十分にあり得る。


 そんなわけでエレノアの答えは決まった。しかし、アレックスであると踏んだ彼は、じっとエレノアを見下ろした。


 ……あ、不正解。


 普段まったく外見で見分けがつかないエレノアであったが、時たまどちらか分かるときがある。


「残念。さ、部屋に行こう」


 薄ら笑みを浮かべてアレクシスはエレノアの手を掴んで引く、この強引さは間違いなくアレクシスだ。アレックスの方はもう少しだけ躊躇がある。そんな気がする。


 しかしながら、妻が夫に誘われて部屋に行くのに何の問題もない。それに用事もない事を彼だって知っているだろう。


「……む、無念」

「っはは。なにそれ。俺たち言ってるだろ。拘んなくていいってそんなこと」


 彼は藍色の髪を揺らして笑みを浮かべ、颯爽と歩いたそのうしろにエレノアも続く。


 ……そんなことなんかじゃない。大事なことだ。


 彼の言葉に口には出さずに反論をする。見分けられたら、きっとそう伝えようと思いつつも、少し悲しい気持ちになりながら足を動かした。




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