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 まったくデリカシーもなく女の子らしくもない繊細さのかけらもないエレノアだったが、まったく何も感じないわけではない。


「秘密を知ったら後戻りが出来ないだとか、私に選ぶ権利があるとか言われて、でも結局望んでるのはお前らだろ。お前らが欲しがってるんだ、愛情だか何だか知らないが、選ぶのはお前たちの方だ二人だろうが一人だろうが知った事か」


 言い始めれば止まらずに、こんな風に言って傷つけたいわけではないのに、振り回された挙句に呑みこんですべてを愛するなんて無責任なことを口にできなかった。


 ただ、秘密はわかり、謎は解けて、それなら彼ら王族との間に感じている壁も少しはましになるかもと思いつつ、結局はエレノアは何をすればいいのだろうという問いは尽きない。


「私は引かない、元々そういう性分だ。愛せるだけ愛するし、無理ならできなくてもできる限りすべてを渡す。お前たちはどうなんだ。私になんて言って欲しいんだ」


 本当の意味での愛情なんてぼかしたことを言ってエレノアはこれでも割と真剣に悩んで、頑張って答えを見つけようとした。


 それでも至らなかった。


 彼らの期待には沿わなかったかもしれない、でも等身大で向き合った。


「はっきりしてくれ、本当の意味での愛情なんてぼかした言い方せずに、ほしいものを求めて手に入れればいい、お前たちは双子で二人とも認知して愛してほしいってんなら主張してくれ」


 言われなければわからない、言われれば忌み子だろうが双子だろうが、アレクシスはアレクシスだエレノアはちゃんと向き合う。


 それなのに受け入れられないかもしれないからと振り回し、挙句、婚約破棄までちらつかせて、どれだけ気をもんだことか。


「私が……」

 

 それでも苦しく思っていたとしても弱音は吐きたくなかった。文句はいっても弱い所は見せたくない。


「私は望まれれば全力で答える。私を嫁にと譲らなかったのはアレクシスだ。今更、不安になって、婚約を破棄してもいいだなんていうなよ」


 気持ちを吐き出すと少しだけ落ち着くことが出来た。それから驚いた様子でエレノアの事を見ている彼らに歩み寄った。


「……話を聞かせてくれ、お前たちがどうしたいのか、私に何をさせたいのか」


 そういえば彼らは視線だけを交わして、それからエレノアの体に縋りつくみたいにしてのしかかってきて抱きしめた。


 二人分の体重は重たくて足がプルプルしたけれど何とか堪えて離れてみると安心した様子の二人は行儀よくソファーに並んで座った。


 その向かいにエレノアも座って彼らを見ると、本当にそっくりで先程アレックスと呼ばれていた方がどちらかももうわからない。


 彼らには先程のようなペラペラと喋るような強気な雰囲気はなく、あれはきっとエレノアに拒絶されると勘違いした彼らの防衛反応だったのだと思う。


 いっきに静かになったアレクシスたちに、やっぱりなんだかんだ言ってもエイベル国王陛下とは兄弟だなと思う。


 凹んだ時の様子がまったく一緒だ。


 そう考えるともう、責めるような言葉は出てこなくて二人に対して少しだけ笑みを浮かべてエレノアは問いかけた。


「……それでまずは、聞くけど、二人は双子で両方私に接していたアレクシスって事で合ってるのか?」


 どちらかだけがアレクシスという事ではなく、二人ともがエレノアと接点のある彼であることそうでなければ、エレノアは一から片方と関係を構築していかなければならないので、まずはそう聞いた。


 すると彼らは示し合わせることもなく喋り始めた。


「日替わりで俺らは入れ替わってたから、どっちもエレノアとは接してる」

「本当にアレクシスなのは俺だけで、そっちがアレックスだけど、一人しか存在しない事になってるから基本アレクシスとして交代で動いてる」


 彼らの分担するような喋り方に、違和感がぬぐえないが何とか呑みこんでアレックスと呼ばれた方を見る。


 彼はどこからどう見てもアレクシスであり、いつもの深い夜空のような藍色の髪とアクアマリンの瞳も変わらない。


「だから両方アレクシスだし、アレクシスじゃない時もある」

「名前はそんなに重要じゃないから、二人ともアレクシスって呼んで問題ないから」


 ……名前が重要じゃない?


 そんなわけないだろ、それになんなんだそのシステム、双子が駄目ならばせめて片方が王子として暮らしてもう片方が身をかくすなりあるだろう。


 それを言ってもいいのか、彼らのうちのどちらかをいらないとエレノアが感じていると思われてしまわないか不安ではあったが、それでも話が進まない事にはどうしようもないので考えるのをやめてズバリ聞いた。


「……次、なんでそんな面倒くさいことしてるんだ? 片方だけが王族として生きてもう一人は別に暮らす手だってあっただろ」

「……」

「……」


 エレノアの質問に彼らはまったく同じように黙り込んで、それから長考こうして口を開いた。


「兄上から任される仕事の関係で俺らは二人一役を演じてる」

「黒魔法を持っていることは公にされているからそれなりに警戒されるけど、同じ魔法同じ容姿の人間が二人いるなんて想像もつかないから、やり口が増えて色々と便利……」

「っていうのが兄上と姉上の考え。俺たち自身からは、こう育てられたからとしか言いようがないって感じだな」


 ……たしかにそりゃ、黒魔法にもかけやすいだろうけど……。


 それにしても背負うものが重すぎる生き方だろう。しかしそれをアレクシスに糾弾するわけにもいかない。


 彼らは今現在こういう状況であって、そしてその彼らと結婚する以上はたぶん……。


「……最後に、一つ、現状はわかった。で、二人の望みは?」


 ここまで来ればエレノアに何を望んでいるのか理解できた。


 どうやらこうなった以上は、二人ともが幸せになるにはエレノアはそれを呑まなければならないし、そうしてほしいと望んだのだって理解ができる。

 

 しかし、きちんと口にしてほしかった。本当の意味での愛情なんて言葉ではなく、どんな風に結婚生活を送りたいのか、どんな風にエレノアと関わっていきたいのか。

 

 重要なことだ。そしてエレノアはきちんと言われなければ分からない、察しの悪い人間なんだ。







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