13
それほど大きな離宮ではないのでいつもの通りに彼の部屋へと向かうとほんの数十秒で到着することが出来る。
一応ノックをしてから扉を開くが返事も返ってこないし部屋の中には誰もいなかった。しかし、なんとなく人の気配がするというか、目線を感じる。
それにこの部屋意外に彼の行きそうな場所など分からないので、探しに行くよりもここで待っている方がずっと建設的である。そう思って中に入った。
パタンと扉を閉めて、耳を澄ましてみるとやっぱり、こそこそと人が話をするような雑音が聞こえてくる。
「……アレクシス、いるのか?」
声をかけてみて、いるとすればどこだろうと考えた。例えば使用人用の控室に隠れたとか、ないとは思うけれどクローゼット中だったりもするかもしれない。
考えつつもゆっくり部屋の中を進む。ところでこの離宮は外観よりもずっと部屋数が少なく感じることがある。
きっとそれは実家の田舎屋敷よりも、都会の方が様々な機能を兼ね備えた素晴らしい作りになっているはずだと思ってたのでまったく気にしていなかったのだが、先ほど分かった事実として彼らは双子だという事らしい。
それならば、この部屋から繋がるもう一人用の部屋があっても不思議でない。
……例えば隠し部屋みたいな感じで。
考えつつも空間があってもおかしくないような部屋のベットがある側の壁をよくよく見てみれば、若干、壁紙がヨレている部分がある。
それに触れて、まさかと思いながらもコンコンとノックしてみると向こう側に何か空洞があるような軽い音がした。
……開け方がわからないし……切ってみるか。
ここに隠れているのなら見つけてやろう、そう思ってエレノアは腰に差している剣を抜いて強く魔力を込めた。せっかくあるのならば魔法だって使わなければ損だ。
そんな気分で剣を構える。
すると、勝手に向こう側から扉が開いた。そして開いた先には、今いるアレクシスの部屋と鏡合わせになるみたいにまったく同じ部屋があって、目の前に二人のアレクシスがエレノアに向かい合うように立っていた。
「え、決断が早くないエレノア」
「もう俺たちを切り捨てるつもりってことか」
彼らはお互いに顔を見合わせて、剣を構えているエレノアから数歩引いて体を寄せあった。
……本当に二人いる。
しかし、そんなことはエレノアの考えの外であり、まったく同じ人間がエレノアの前に二人そろって並んでいることの衝撃の方が大きかった。
「このまま逃げるなんてことできないとは分かってたけど、流石に話ぐらいは聞いてくれてもいいと思うんだけど」
「そうだな。流石に切り殺されるのは、いや、そうされても仕方ないような騙し方はしたが」
彼らは二人お互いに対してそんな風に言って、困った様子でエレノアの事をみた。
その二人の視線に今更ながら剣を構えていたことを思い出して、込めてしまった魔力を霧散させて彼らと向き合った。
「ああ、良かった。言ってみるもんだ」
「本当、俺ら魔法使ってるエレノアには流石に勝てないから」
鞘に収めつつも安心したような二人の声が聞こえてきて、ものすごく妙な気分だった。
なんせ今までは独り言だったアレクシスの言葉はどうやら普段の会話の名残だったらしく、無言のエレノアに対し二人はペラペラと喋っていた。
まったく同じ声で会話していてそれはさながら一人二役、しかし顔をあげると同じ顔が二人、頭の中が混乱して何をどう彼らにとにかく言えばいいのかわからない。
……とにかく愛してるって言えばいいのか? でもそもそもどっちに対して? 両方アレクシスなのか? それともどっちかがアレクシス??
うかつに何かを言えば墓穴を掘りそうな状態で固まった。すると二人は顔を見合わせて、それから言葉を交わす。
「これは相当混乱してるみたいだ」
「エレノアって割と驚くと固まるよな」
「それはアレックスも同じだろ」
「俺はエレノアに対してだけ」
「そうか? 今日だって兄上に対して何も言えなかっただろ」
「じゃあアレクシスなら言えたって事?」
「そんなわけない、流石に兄上には逆らえないな」
どうやらどっちかがアレックスというらしいが、どっちがどっちかなどエレノアには見分けがつかなかった。
それに、こちらがそうだと言われても、すべてがまったく同じなので彼らが動いた時点ですぐに見失いそうだった。
どんなに集中して聞いていても、どちらがどちらなのかはさっぱりで険しい顔をして固まるエレノアに会話が一区切りすると、二人は急に視線をよこした。
「……それで結局、エレノアは答えを見つけてくれなかったわけだ」
「つまりまったくもって想定外で、俺たちが双子の可能性はエレノアの中にはまったくなかったって事だ」
彼らは同じ歩幅、同じ歩調でエレノアの目の前まで来た。それから二人でエレノアの事を覗き込む。
「せめて言い当ててくれたなら、少しは君の衝撃も少ないかもと思って、分かりやすく俺たちも素で生活してたんだけど」
「それでも見当違いの事を言うし。結局兄上にバラされて終わっちゃったな」
一人の人間が言うべき言葉を分けて左右に彼らは言って、なんだか妙な催眠術でもかけられてしまいそうで思わずエレノアは後ずさった。
それから元のアレクシスの部屋の方へと戻って距離をとる。
「この反応なら、聞くまでもないって事であってるかな」
「だと思う。まったくしゃべらないし、逃げてるし」
「……」
ちょっと悲しそうに二人は顔を見合わせて笑みを浮かべて、隠し部屋の扉を閉めてエレノアの方へとやってくる。
どうやら彼らの中では答えは出たも同然だと思っている様子で、それにエレノアは流石に何か言った方がいいだろうと思い、必死に頭を回す。
ぐるぐると回して答えを探した、しかし結論を急いでいる彼らに今言うべきしっくりくる言葉が思い浮かばなくて、もう面倒くさくなってきて適当に口を開いた。
「……勝手に決めるな。それに逃げてない、私の方が強いんだぞ」
彼らに、ずっと騙していたのだとか、こんなの信じられないというよりもアレクシスの言った逃げてるという言葉の方に思考が引っ張られて物調面でそういった。
それに二人もキョトンとして固まった。なので今度はエレノアの方が続けて言う。
「それに交互にしゃべるな、距離が近い、どっちがどっちだ。意味が分からん」
「……」
「……」
「いきなりいいだとか駄目だとか言われても困る。結局、何がしたい。私はここ最近ずっとお前たちが何を望んでるか考えてたんだぞ」
言っているうちに口調が段々ととがってきて、昔のようにきつく眉間にしわを寄せて彼らに言い募る。