表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき2

春の朝

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくよんじゅうはち。

 


 季節が変われど、相変わらず太陽はお元気なようで。

 凍えるような冬をこえ、ようやくやってきた春。

 人々はそれを歓迎するように、宴を開き、やんやと騒ぐ。

「……ふぁ……」

 我が家の近くにも、そういう公園なるものがあるのだが。

 おかげで、こんな時間に目が覚めた。

 桜を愛でるのはいいが、もう少し静かにしてもらえないだろうか……。

 睡眠妨害もいいところだぞ。

「……んん……」

 まぁ、しかし。

 普通、彼らはこの時間に寝てはいないから、仕方ないのか。

 こんな時間に寝こけているやつは、そうそういないと聞く。いても少数派だと。

 あまり詳しいことは知らない。

 何せ興味がない。

「……っるさ……」

 なんだ、こんな時間から酒でも入れているのか?騒がしいにもほどがあるぞ。

 この辺りに住んでる人間は、比較的静かなものだと思っていたのだが。だから、この辺に越してきたのに……。

 この時期は、どうあがいてもうるさいということか。

 最悪、この国から出たくなる、五月蠅さだぞ……。

「……」

 それはそれで、こちらに利はないのだが。

 ここまで治安が安定している国はないし。夜に出歩いていても、咎められにくいし。

 夜は基本的に静かでいいし。明るすぎるとは思うが。

 日中も、早朝の時間を覗けば、比較的静かなのだ。

 車の音はあれ個、今日ほどやかましくはないし。

 今日が異常なだけだ。

「……」

 それに何より。

 この国の、食はものすごく好みなのだ。食べねば生きていけぬのは、何でも同じだ。

 ならば、それにかかわる食は、何よりも第一にしなくてはいけまい。

 個人的な趣味として、料理をすることは多いので、質のいい食材が集まるこの国は、何よりもありがたい。

「……」

 おぉ。

 そんなことを考えて居たら、腹が減ってきた。

 この時間に食べることはあまりないのだが……。

 しかし、寝直そうにも腹が減り始めていて、眠くもならない。

 仕方ない。

 本格的に腹が鳴きだす前に、何かを入れておこう。幸い、食材は何かしらあるはずだ。

「……ん…?」

 そう思い、ベットから降りようと体を起こすと、居るはずの影が、なかった。

 ピタリと閉じられた、遮光カーテン。

 部屋の中には、ただ暗闇が広がる。外はきっと、この数倍明るいだろう。

 ―そんな寝室なのだが。部屋の端の方に、1つの鳥籠を置いてある。そこには、いつも寝ているはずなのだが。今日は、扉が開いていた。

「……?」

 どこかに出かけでもしているのだろうか。

 確かに、アイツは陽の光にはたいして弱くはないから、この時間に出ても何ら支障はないが。

 そうだとしても、普通主人に言わず、何も書き置きもせずに、出ていくことはないだろう。

 ―ああ、まさかリビングの机にでも置いているのだろうか。

「……しょ」

 きっとそうだろう。

 では早速、リビングに向かうとしよう。

 片手間に、鳥籠の扉を閉めて置く。全く、開けっ放しにするなというに。

 普段はしっかりしているのだが、こういう所は抜けている。

「……?」

 ガチャ―と、寝室の扉を開くと、何かの匂いが鼻をついた。

 もしや、キッチンで何かしているのだろうか。

 んん。

 鼻が少々利きづらい……。花粉症とやらになってしまったかな。

「……なにしてる?」

 案の定。というか。当然のように、キッチンにいた。

 何やら作っているようだが……。

「ぉ、吸血鬼様がこんな時間にどうしたんですか。」

 特に騒ぐでもなく、驚くでもなく、こちらを振り返りもせずに。そんな言葉がよこされる。

 まぁ、コイツはこういうやつだ。今に始まったことじゃない。

 が、それは人に対する態度ではない。全く……。

「外がやかましくてな……」

「あー。お花見してますからねー」

 とんとんと、何かを切りながら話す。

 ホントに何しているんだ?

「……スープでも作っているのか?」

 ひょいと肩越しにまな板の上を見てみる。

 小さめに切られた、色とりどりの野菜。あっちには、固形のコンソメ……。

「ポトフですよ」

「あぁ、だろうな」

 野菜の並び的には、そうだろうと思った。

 この間適当に買ってきた、サイズがバラバラの野菜たちを使っているのだろう。

 今度、カレーにでもしようと思ったが…まぁ、いいか。食べられれば、何も問題はない。

「食べます?」

「あぁ、よければ。腹が空いて仕方ない」

「はいはい、じゃ、できるまで待っててください」

 後は、鍋に野菜を入れて煮込むだけだろうか。

 どのあたりまで調理が進んでいるかは分からないが。

 後数十分はかかるだろう。

「……散歩でもしてくるか」

「やけますよ?」

「平気だよ」

 夏程日差しは強くないし。冬程寒くもないし。

 玄関に向かい、靴箱の横にかけてある、コートを羽織る。

 真黒の、大き目のコートだ。

「いってくる。」

「30分後ぐらいには帰ってきてくださいねー」

「あぁ……」

 さて。

 人間の愛でる桜を、少し見に行ってみよう。



 お題:野菜・コート・吸血鬼

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お花見 [一言] 桜って、冬は見た目、枯れ木でしかないので、寂れた枯れ木の立ち並ぶ静かな環境、と思ったのでしょうねぇ、吸血鬼様。  ・・・ふっ(勝った!)。  失礼しました。  風景が描…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ