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雨男

作者: ユリウス卿

 雨男と呼ばれてきました。

 どうやら、女に好かれないばかりか天気にも好かれないようです。人間、いつだって雨は鬱陶しいものです。洗濯は乾かないわ、外に出るときには傘を差さなくてはいけません。自転車やバイクに乗る際はこの国の法律では傘すら許されず、合羽を着るしかありません。僕のように、汗ばみやすくじめじめとした体質を持つ者にはそりゃあもう、過ごしにくいったらありゃしません。

 僕はよく天気を確認することを怠ります。実際はどうなのか自分に聞いても分からなかったのですが、天気をいちいちチェックすることで自分がいかに雨男なのかを実感させられることが嫌なのかもしれません。いや、これは想像ですが、そんな気さえするのです。最近もよく雨続きだったでしょう。だから、たまに週末晴れるとここぞばかりに朝から干して出かけるのですが、この癖がいかんのでしょうね。この前なんか、仕事から帰ってきて雨が止んで雲も去っていったのを確認した上で夕方ごろから洗濯をして夜に干しておき、寝苦しいくらい暑い日が続いたもんですから、朝になったら乾いているだろうと高をくくっていたら、案の定雨に降られた後でした。

 ええ、いいんです。僕の人生には雨が付き物ですから。(かみ)からも見放された存在なんです。僕みたいな人間には、じっとりとした湿気がお似合いなんです。

 でもあるとき、雨はリラックス効果があるという話を耳にしました。なんでも、雨粒が地面に落ちる、ポツ、ポツというリズムは母体の心音にとても近く、胎内の中で赤子がよく眠れるように、人にとっては遺伝子レベルで落ち着くものなんだそうです。どのくらいの雨が降っている状態のことなのかは分かりません。あまりに多くの真実を目の当たりにしてしまうと、雨粒ほども満たなかった僕の良さが今か今かと流れ出てしまうかもしれません。人間、ほどほどがいいんです。知りたいことだけ知っておくのは、人生、気分よく過ごすコツかもしれませんね。そうそう、雨にも副産物はいくつかあります。当の本人は嫌でしょうが、傘を忘れて走る女学生なんかの濡れた制服は、いいもんですね。あれは、芸術といっても過言ではないでしょう。これを読んでるあなた、今少し邪なことを考えたでしょう。やや、いけませんね。下心が透けて見えますよ。いやね、何も濡れた上で透けることが全てではありません。濡れていることがそもそも人を美しく見せる効果があるのです。女のうなじがなぜ綺麗に見えるのか知っていますか?古来よりうなじは一般的に見せる部位ではありません。髪は長くして降ろすのが長年良しとされてきましたから、普段は隠れているわけです。でも、風呂上りなんかに濡れないように髪を結うでしょう。体は濡れて火照っているわけです。それは心を許した人にしか見せません。だから、良いんですって。ただ無頓着になっていくだけ?いいや、僕はそうとは思いません。真実を知る由もありませんがね。

 僕は知らないことは極力知らないほうがいいと思っている性質です。やれ近所の翔くんが僕のことをどう思っていただとか、やれ幼馴染の里奈ちゃんが僕を軽蔑していたのかもしれないとか、考えれば考えるだけ人は憂鬱になるように出来ている生き物なのかもしれません。こうして書くことを思い浮かべている今でさえ、胃が痛くなってきて後悔しています。後悔先に立たずとも言いますでしょう。そもそも悔やむ可能性のほうが高いなら、気にしない生き方をしたほうが楽なんです。まぁ、それが出来たら苦労はしませんがね。ええ、困ったことに、こうしている今もその考え方は抜けないのです。

 そうこうしているうちに今日は雨があがりそうですね。夕暮れ前に雨が上がった後の空は、幾分気持ちがいいものでしょう。今僕がいる北海道なんかでは、星も見えます。都会じゃ、星は見えません。黒く、くすんでいくのです。これからもっともっと見え辛くなるかもしれません。でもね、たまに見えるからいいんです。見せてもいいと心許した相手にしか見えないと考えたら、星もまた良いもんでしょう?心が晴れてきましたか?いやね、僕は、こんな話しか出来ません。あなたの心を直接照らしたわけじゃありません。僕は与太話をしたにすぎません。それで心が晴れたのなら、それはあなたの力ですね。でも、また寂しくなったら来てください。僕はお話しか出来ませんが、それでも良ければ、いつでも。

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