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 ❄️ ❄️ ❄️



(『氷雪神』雪奈様、ね.....。)


 一体どんな人なのだろうか。香霞は会ったことがないけれど、同じ天華一族の頂点に君臨する存在で、気にはなる。

 しかし、5年前に起きたあの悲しい出来事を起こした真の黒幕がその雪奈様であると聞けば、穏やかではいられない。


 雪奈様も他の妖等同様、香霞の持つ双瑠璃の力が欲しかったのであろうか。氷雪神であるということは、双瑠璃ほどとはいかないまでもそれなりに力も地位も存在するはずだ。

 その彼女が双瑠璃を手に入れようとする理由が香霞には分からなかった。



 憂いを帯びた横顔を透明の花びらに反射した光が小さな虹を作り出して香霞の白い頬にゆらゆらと浮かぶ。

 眩しさについと目を細めたその視界の隅に風に揺れる衣を見つけて香霞は顔を上げた。


「蒼と葉?」


 呼べば頭の上にちょこんと生えた小さな(いたち)の耳がぴょこぴょこと嬉しそうに動く。

 愛らしさに表情を緩めているとさくり、と霜の降りた土を踏みしめる音がして晶椰がこちらへと近づいてくる。


 香霞と目が合うと琥珀色の瞳がぎこちなく揺らいだ。


「晶椰様.....?」


 一体何の用だろう。そもそも、今日ここで約束をして香霞が待っていたのは彼では無いのだけれど。

 不思議に思いながら首を傾げると、少しバツが悪そうな顔で晶椰が視線を逸らしながらぼそりと呟いた。


「香の時間を少しだけもらったんだ。だから、少しだけ.....少しだけ、僕の話に付き合ってくれないか?」


「それは良いですけど、もらったとは誰に...?」


 私の時間なのに許可を取ってきた相手が私ではなかったことを何となく不思議に思って尋ねるとあどけなさの残る秀麗な顔に渋面が浮かぶ。

 答えを聞いたわけではないけれど誰に許可をとってきたのかが手に取るように分かり、香霞はなるほどと苦笑した。


 確かに私が良いと言っても首を縦に振ってくれなさそうな相手だなと他人事のように思いながら香霞はその2人に代わって軽く謝罪した。


「すみません、昔からずっと過保護で...とっても優しいのに私のことになると融通が効かなくて。」


「.....いや、思ったよりあっさり許して貰えたというか、何と言うか.....。」


 複雑そうに目を彷徨わせる晶椰に香霞は内心驚く。

 あの2人があっさり許可を?

 この数日、特に祐馬はそれこそ四六時中ずっと香霞のそばを離れずべったりだった。それはまるで、この5年間の会えなかった時間を埋めているようで、香霞も別段断る理由もなかったためにずっと一緒に過ごしていた。緑陰も大概過保護ですが、祐馬の過保護度合いはその更に上を行くのだと身をもって実感した香霞である。


 そして今朝、今日は花音と約束があるからと離れようとすると部屋を出る直前まで、それはもうびっくりするほど駄々を捏ねられ、置いてくるのが大変だった。だが、花音なら問題ないということで最終的にはお許しを貰えたのである。

 しかし、何故か祐馬は香霞が緑陰と2人になることを良しとせず、緑陰が一緒にいる時には必ず傍についていた。


 だから、今、晶椰が香霞と2人になる状況を祐馬が許したというのはにわかに信じ難い状況であったのだ。


「緑陰はダメで晶椰様が良い理由がよく分からないわ。」


 祐馬のよく分からない基準に、思わず声に出た呟き。それに反応するようにしてぷっと吹き出す声が聞こえ、そちらを見れば、猫のような細い目の目尻にうっすらと涙を湛えながら腹を抱えて爆笑する功世がいつの間にか晶椰の傍に控えていた。


「.....おい、」


「いや、だって若っ.....全然相手にされてないどころか、敵認定すらされてねぇ.....ぷっ...くくく、」


 功世は、香霞の呟きの意味を正しく理解し、祐馬が緑陰は危ないけれど晶椰であれば香霞と2人きりにしても何ら問題ないと判断したことに思わず自身の主に憐憫の眼差しを向けてしまう。


「...功世、そんな目で見るな。くそっ.....あっさり許可が出たことがこんなに悔しいなんてあんまりだっ...!」


 晶椰の低い声にも動じず、功世はますます憐れみの色を濃くして可哀想なものを見る目で晶椰を見やる。


「晶椰様は元々敵ではないわ。功世殿は分からないけれど。」


 そこへ、解釈を間違え斜め上の方向から返事をする香霞の言葉に晶椰はますますがっくりと肩を落とし、功世は思わぬ方向から刺された棘に頬を若干引き攣らせた。


「ちょ、辛辣だな。これでも反省してるし、晶椰様が香につく限り俺も味方だ。」


「そう。あなたは面白ければなんでも良いと思っていそうだから、それが聞けて安心したわ。」


 それでも香霞はしっかりとトドメを刺すことを忘れない。私はお前の性格をちゃんと理解しているぞ、とこれはそういう脅しである。


「.....勘弁してくれ。あの悪魔のような兄弟を敵に回すほど俺は馬鹿じゃない。」


 何を思い出したのかぶるりと身体を震わせる功世に香霞は怪訝そうに眉を寄せた。

 そういえば、緑陰もそんなようなことを言っていたが、あんなにも心優しい2人に対して悪魔はいくらなんでも酷い、と香霞は思う。確かに2人は恐ろしいほど強いけれど、悪魔ではない。ちゃんとそこには優しさがある。


「悪魔じゃないわ。確かに強いけど、緑陰も祐馬もとっても優しいのよ?」


 むっとしたようにそう主張する香霞。だが、それを聞いた晶椰と功世は顔を見合わせた後2人揃って顔を引き攣らせるのだった。


「優しい...優しいってどういう意味だ.....?」


「若、考えたら負けです。あの2人が大切に守ってるお姫様に黒い部分見せる訳ねぇじゃないですか。」


「はぁぁなんで僕はあんな黒いやつに勝てないんだ.....。」


「...ま、頑張ってください。」


 小声で言い合う晶椰と功世のやり取りはもちろん香霞の耳には届かない。


 背中を押され、よろけるように一歩晶椰が香霞の方へと踏み出したのを見届けて功世はニヤリと笑うとその場を後にした。


「強敵ってやっぱあいつなんだろうなぁ...。」


 背を向けてぼそりと呟く功世の脳裏には見事な銀灰色の髪を靡かせ、鮮やかな新緑の瞳から放たれる眼光を軌跡のように残しながら残虐に敵を切り捨てる、氷のような冷たい表情の青年が浮かんでいた。

晶椰様、祐馬の嫉妬対象外認定おめでとうございます(*´꒳`ノノ゛パチパチ(不憫)

不憫だけどお気に入りのシーンでございます(((←趣味が悪い


晶椰様にも頑張って欲しいなと思いつつ、次回更新は14日バレンタインデーです〜!

美味しいチョコが食べたいですね!

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