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人間

香霞ちゃんの過去です。

「人間は信じてはならぬ!人は生きているというだけの何の価値もないもの。」


「妖怪というだけで我々を()み嫌う。口を開けば最後、嘘しか吐かぬ愚か者だ。」


 吐き捨てるようにまだ5つの幼い少女にたくさんの負の言葉を浴びせかける。まるでその少女すらも()んでいるかのようにーー。


「お母様は、人間を......忌んでおいでですか...?」


 消え入りそうな声で震えながらそう問うた少女に、母親は見るものを凍えさせてしまいそうな眼差しを向けてこう言い放った。


「ああ、もちろんとも。我ら雪女族を滅ぼすような輩を忌んで何が悪い。それともお前はそんな者にも情けをかけろと言うのか?」


 涙で頬を濡らし、目尻が真っ赤になるほど泣き腫らして少女はふるふると首を横に振る。


「いいえ、いいえ...!」


「お前には何も分かっておらぬ!ここで頭を冷やすがよい。」


 冷めたい言葉とともに重い扉が閉ざされ、辺りを漆黒の闇が支配する。


「...おかあ、さま......。」


 毎日のように少女はここに閉じ込められ、いつの日からか少女の顔からは表情が消え、口数もめっきりと減ってしまった。


 そして、ある日ーー。


 その扉が開かれることは遂になかった。




 周りの闇に溶け込むようにして少女の心はゆっくりと(とざ)されていった。



 ❄️ ❄️ ❄️



 俄に外が(うるさ)くなり、金属がぶつかり合うような音や人の声のようなものが辺りに響いていたが、少女がそれに気を止めることはなくぼんやりと何も映さない瞳は虚空を見つめたままだった。


 暫くして全ての音が止み、辺りが静けさに包まれた頃、突然射し込んできた一筋の光が少女の頬を柔らかく照らした。


 すると、それまで何も映さなかった少女の目に朧げにではあるが、(かす)かに光が戻り少女はふらふらと立ち上がった。


 力の入らない身体を引きずって少女は初めて自らの手でその扉を開いた。


 それまで何度閉じ込められてもびくともしなかった重い扉は何故か朽ち果ててぼろぼろで、飲まず食わずで弱りきった少女の力でも簡単に開けることができた。

 先程少女の頬を照らした光もこのぼろぼろに朽ちた扉の隙間から射し込んできたものである。


 だが、ギリギリのところで生きていた彼女はそんなことに気づくはずもなく、しとしとと身体を打つ雨に身を任せ久々に見る外の世界にぼんやりとその瑠璃色の双眸(そうぼう)を揺らしていた。


 その日は空一面をどんよりとした分厚い雲が覆っており、しとしとと秋霖(しゅうりん)が続いていた。


 自分からでてきた彼女を見つけた母親の顔には驚愕が滲み、どこからともなく現れた2人の良く似た男性に少女をーー自身の子を、預けた。


 母親は、少女の記憶よりもかなり(やつ)れていて、雪女一族に遺伝する美しかった黒髪は見るも無惨な様子で絡まってボサボサだったし、少し年老いて見えた。

 何せ、少女が最後に閉じ込められてからその日出てくるまでなんと2年もの時が経過していたのだからそれも仕方ないことではある。しかし、ずっと時間も感覚も何もかもが失われた場所で過ごしていたーー(いな)、生きているかどうかも怪しい状態でただただ生かされていただけの彼女にそんなことは分かるはずもない。


 少女を2人の男性に預けた彼女の両親はその日を境に忽然と姿を消し、彼女の目の前に現れることは二度となかった。


 その2人の男性のうちの1人が緑陰であった。


暗い話で恐縮ですが香霞ちゃんが育ったのはそういう家庭でした.....


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