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地獄の雪景色

かつかつ更新で頑張っております...汗

香霞も頑張りどころですねっ応援よろしくお願いします!!

 ややあって、密着させていた身体を離し、優しく香霞の目元を指先で拭うと美紗渚は陽だまりのような優しい微笑みを浮かべ、香霞の両手を取って軽く引っ張った。

 彼女の力を借りて立ち上がった香霞に美紗渚は満足そうに頷いて、触れたままの両手に何かを握りこませる。


「ほら、待っているわ。」


 美紗渚の言葉に香霞が首を傾げると、手に握りこんだものが微かに震えているのを感じ、香霞は視線を落としてはっとする。


 香霞が手に握りこんでいたのは、紅氷柱の片割れーー宵吹雪であった。


「.....共鳴、してる.....?」


 何に、とそう思いかけて香霞の思考がはた、と何かに思い当たる。


(......そうよ、私は.....!)


 宵吹雪の共鳴を引き金に、今までのことを一気に思い出した香霞にすぐ傍にいたはずの美紗渚の声がやけに遠くで聞こえた。堕ちていた香霞の意識が、なすべきことを思い出したことによって覚醒しかけているのだ。


「早く助けに行きなさい!自信を持って、香霞は強いわ。」


「美紗渚様!ーーーーっ!!」


 急激に現実へと引き戻されていく意識に、香霞は美紗渚に向けて叫んだ。


 私はまだ、貴女に伝えなければならないことがーー......。


 遠ざかる美紗渚に向けて叫んだ言葉は果たして彼女へ届いただろうか。

 香霞の言葉に美紗渚がその金色の瞳を見開いたように見えたような気がするが、それが見間違えでなければ良いと願うばかりだ。




 浮上した意識がまだ安定するかしないかの状態で、香霞は瞼を開ける前に座り込んだままの状態で手にしていた宵吹雪をすらりと鞘から抜き放ち、無駄のない動きで一閃する。


「.....っ!?」


 一瞬の出来事に香霞を狙った敵は状況を把握出来ず、顔に驚愕を滲ませたままドサリとその場に頽れる。敵が驚くのも無理はない。

 先程まで、闇と同化するかの如く、微動だにせずその場に蹲っていたはずの香霞が急に目にも止まらぬ速さで攻撃してきたのだから。

 予想もしなかった出来事に敵はただただ驚くばかりだが、驚いた時には既に命の火は消えている。


 対する香霞は完全に不可抗力であった。まだ意識が戻りきっていない状態で彼女が目前に迫っていた敵を切ることができたのは、彼女が本能的に殺気を感知し、ただそれに身体が反応したからに他ならない。

 振り切った右手に感じた肉を切り裂く感触に完全に現実へと意識が戻った香霞は(ようや)く目蓋を開き、美しい瑠璃色の双眸を現す。


(.....暗い.....。)


 暗黒に支配される空間は、彼女(みさなぎさま)が一緒に居てくれていると分かっていても、恐怖を拭い去ることは出来なかった。


 でもーー。


 ギィィィーーン


 先程から鈍い振動を伝えてくる愛刀に、右手がじーんと痺れそうになるのを堪えて柄の部分を強く握り込む。

 花音が近くにいる。

 宵吹雪が強く共鳴しているのは、きっと香霞に紅氷柱のーー花音の居場所を伝えてくれているのだ。


 ()く気持ちと今にも溢れそうになる恐怖と淋しさを必死に押さえ込んで香霞は慎重に妖力を身体中にゆっくりと巡らせる。


 数の多すぎる敵。囚われている花音に害が及ばないためにも香霞は一刻も早く全ての敵を倒しきらなければならない。.....そして何より、時間をかけることは香霞にとっても悪手であった。

 漆黒の闇が支配するこの場所で香霞が意識を正常に保っていられる時間はそう長くはない。ーー限界が既に近いことを、香霞は正しく理解していた。


(なら、一瞬で終わらせるわ......!!)


 生まれて初めて、と言っても過言ではないほどに高精度に練り上げた妖力を極限まで研ぎ澄ませ、身体の隅々まで行き渡らせた香霞は瑠璃の玉を核として渾身の術を発動させた。


「地獄の雪景色!」


 どくり。


 そして最高のタイミングで戻ってきた妖力に香霞の桜色の唇が弧を描く。


(.....緑陰ね。流石だわ!)


 美しい微笑みを湛え、香霞は戻ってきた妖力を惜しみなく注ぎ込み、発動させた術の威力を更に何倍にも跳ね上げる。


『地獄の雪景色』ーーそれは天華一族の奥義であり、最強にして最凶の術の名称である。

 その場に存在する全てを奪い尽くし、一瞬にして文字通り地獄に送る凄まじい威力を持つ術でありながら、その光景は見るもの全てを魅了する、この世のものとは思えないほどの美しい雪景色を作り出す術でもあるのだ。しかし、その雪景色が放つ輝きは術が奪った大量の命の輝きであり、その美しさは術に散る命の儚さによって生まれる。

 そのため、『地獄の雪景色』を受けて生き残れる者はまず居ない。皆、例外なく美しい雪景色を構成する一部と成り果てる。

 そして、『地獄の雪景色』は術を使う雪女の妖力でその威力が決まる。根こそぎ妖力を持っていく術であるため、発動した雪女は妖力がすっからかんになるが、莫大な妖力を使うからこそ全てを奪い尽くすことが可能なのである。


 今回その奥義を発動させたのは、雪女の中でも桁違いの妖力を有する双瑠璃の雪女。その威力は控えめに言っても壮絶であった。


次回更新は23日の予定ですがひょっとすると24になるかもしれません...かつかつなので...汗

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