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地下2階

 地下1階の奥も兵奇が居る可能性は捨て切れないが、晶椰であれば香霞当が戻るまでの間何とか持ち堪えてくれるだろうと信じて香霞と緑陰は先へ向かう。


 地下2階、降りた先で感じた気配に香霞は緑陰の推測が正しかったことを確信する。おどろおどろしい妖気を感じて香霞は緑陰の方を見遣れば静かな頷きが返ってくる。その目には隠しきれない怒りの炎がゆらゆらと揺れていた。


 私達の因縁の敵、兵奇は間違いなくここ地下2階にいる。


「香霞様。」


「ええ、貴方に任せるわ。」


 既に重量級の鎖鎌を召喚し、戦闘態勢に入った緑陰に香霞は艶然と微笑んで彼を送り出す。

 花音が兵奇と同じ場所にいようと違う場所にいようと、これは決定事項であった。


 ーー兵奇の首は緑陰が取る。


 香霞自ら手を下したい気持ちもあったが、それでは緑陰の怒りは収まらない。嘗て風オオカミ族の里に土足で踏み入り、何者かと共謀して多くの仲間を殺し、香霞の命を奪い、弟を瀕死の状態に追い込み、最愛の美紗渚の命を犠牲にする元凶ともなった上、今なお香霞を術で縛り続けるこの男への憎しみは計り知れない。


 今日この時を誰よりも待ち望んでいた緑陰の気持ちを知る香霞は、素直に兵奇を討つ権利を彼へと譲った。


 香霞としても花音の安全が何よりも優先するため、花音が兵奇とは別の場所にいる今、特に異論はない。


 緑陰であれば確実に兵奇を討ち取ってきてくれるだろう。


 奥へ向かって駆け出した緑陰に背を向け、香霞は地下3階へ続く階段へと踏み出した。



 ❄️ ❄️ ❄️


 気配を隠すこともせず、立ち上る闘気を抑えることなく緑陰は不快な気配の強い方へと向かう。


 気配が強くなれば強くなるほど、道中で足留めを試みる敵の強さも増していた気がするが、風オオカミ族当主である彼にとってそれらは所詮雑魚でしか無かった。


 駆ける足を止めることなく鎖鎌の刃と反対側に鎖で繋がった鉄球を無駄のない動きで振り回して敵を一蹴する。

 出入口の見張りを倒した時とは異なり、緑陰が通過した後には死屍累々という血腥(ちなまぐさ)い光景が広がっていたが、彼の知ったことではない。

 幸いにして、ここに彼の敬愛する唯一と定めた主は居ない。


(地下2階の奴らだけにするので、皆殺ししても見逃してください。)


 心の中で、主に告げる気のない言葉をさらっと告げて開き直った緑陰は、愛用の武器を握り直すと強い気配を感じた手前の岩に鉄球をぶつけて文字通り叩き壊す。


 頑丈そうに見えた岩はガラガラと音を立てて呆気なく崩れ去り、ぽっかりと奥に開けた空間が飛び込んできた。

 薄暗いが緑陰の夏空の瞳がしっかりと標的を捉え、剣呑に光る。


「探したぞ。」


 挨拶がわりとばかりに捉えた気配に向けて鉄球を投げつけるが、三日月形に口が開いたかと思うとその影がぐらりと空間ごと歪む。


 また幻術か。ある程度予想しており、すぐに殺すつもりも無かったが、幻術で避けられるのはどうも不快だ。


「双瑠璃の娘は一緒では無いのか?あの娘無しで儂を相手にするつもりか。」


 探るように緑陰を隅から隅まで舐めるように見つめてくる兵奇。その視線を高圧的に見返して、緑陰は、はっと心底おかしいと言いたげな顔で兵奇を嘲笑う。そして、


風魔刃(ふうまじん)!」


 怪訝そうに緑陰を見つめたままの兵奇へと妖力を練り上げた無数の風の刃が襲いかかる。


「当たらぬわ。......っ!」


 再び幻術を使い、余裕の表情で緑陰を見返そうとした兵奇は彼が視界から消えていることに気づき、次の瞬間背後に凄まじい闘気を感じて、息を飲む。

 恐る恐る首を背後に巡らせるよりも先に本能が幻術を発動仕掛けたが、それはヒタリ、と首に感じた冷たい感触によって阻まれる。

 緑陰の大鎌がしっかりと兵奇の首を捉えていたのだ。


「双瑠璃以外は敵ではないと?むしろ彼女がいないからこそ私は()()()()()()()()()()()()()()、知りませんでしたか?」


「.....っ」


 口調は丁寧でゆったりとしているのに、凍てつく青い瞳と緑陰から立ち上る刃物のような闘気が兵奇を恐怖へと突き落とす。しかし、ぶるぶると震えながらも兵奇の濁った瞳に絶望の色は見えず、緑陰は違和感に眉を顰める。


 勿論、このまま一思いに殺してしまいたい気持ちはあるが、それでは緑陰の恨みは晴れない。

 絶対に簡単には殺してやるものか。それに、彼から聞き出さなければならない情報もある。この世の終わりよりも恐ろしい拷問にかけてせいぜい苦しみながら死ねばいい、と緑陰はそう思っていた。しかし、緑陰の敬愛する主にそんな血腥い場面を見せるのは本意ではないため、彼女がこの場に居ない現状は彼にとってとても都合が良いと言える。


「兵奇。」


 地を這うような声で妖力を込めて名を呼べば、首に切っ先を突きつけられたままの状態で兵奇の顔が緑陰の方を向く。


 さあ、どんな風に拷問にかけてやろうかと鋭く伸びた爪に妖力を流しかけた時、怯えを滲ませながらも兵奇が口端を吊り上げて見せた。


「馬鹿めがっ。あの娘、地下へ人間を...助けに行った、んだろう......っ...。.....地下3,4階は真っ暗闇だ。あの娘が闇を恐れることはこれを通じて知っている。」


 じゃらり、と緑陰の耳にあの鎖の音が響く。背筋を氷塊が滑り落ちるような感触に緑陰はどうしようもなく嫌な予感を覚えた。


「地下にはここまでよりも多くの精鋭を配置済みだ。.....もっとも、暗闇の中では双瑠璃を殺すことなど、赤子の手を捻るよりも容易(たやす)いかもしれんがな。ははっ!!」


 最初は緑陰の闘気に震えながら話していた兵奇だったが、徐々に勢いづき、兵奇を凝視したまま目を見張る緑陰に向かって高笑いする。

 野太い笑い声が響き渡り、緑陰は不快感にびしりと眉間に皺を刻んだ。

兵奇は風魔いたち族過激派のトップなので狡賢さにかけてはピカイチです(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆

次回更新は12月15日です。

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