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 午後の授業を終え、香霞は手紙通り屋上へ向かった。


 一体何の用だろうかと彼女は少し違和感の出てきた身体に力を入れ直して花音と向かい合う。


「香霞さん、あなた妖怪が好きなんでしょ?ですから、わたくし、あなたのお友達になって差し上げますわ。」


「結構です。」


 先に口を開いたのは花音だった。意味の通らない話にくらくらしながら香霞は無意識のうちに即答していた。

 あっさりと即答されて、生まれてこの方一度も他人に断られたことを知らないであろう生粋のお嬢様である花音はふるふると握りしめた拳を震わせ、香霞を睨みつける。


「このわたくしの誘いを断るなんて......。わたくしからお声がけしたにも関わらず...あなた、後悔しますわよ......!」


 可哀想に、やはり彼女は今まで思い通りにならなかったことなどなかったのであろう。

 お嬢様でハーフで見目も麗しい上に有名な占い師の娘ともなれば前の学校でもさぞかしちやほやされてきたことだろうと容易に想像出来る。

 だが、香霞にそんなことは関係ないし、何よりそれを当然のように思っている彼女に軽く苛立っていた。


「後悔なんてしないと思います。...用がそれだけなら失礼しま...」


 冷たい言葉を放って腰を浮かせ、早くも帰りかけた香霞の制服の裾を花音がはっしと掴む。


「どうしてですの...?今までわたくしの誘いを断る方なんていなかったのに、なぜ?!」


 透き通るような水色の目に涙を浮かべて叫ぶ花音に香霞はますます表情を冷え冷えとさせる。


 だって、そんなのは。そんな関係は、私を双瑠璃の雪女と言うだけで欲しがる(やから)と大差ないでは無いかーー。


 自分ではない、自分の家柄や見た目、生まれ持った性質だけを見て寄ってくるような薄っぺらな関係なんて、私はごめんだ。

 うんざりするくらい見てきた人間の醜い部分を思い、香霞は我知らず拳を固く握りしめる。


「...香霞、さん......?」


 呼びかけられて香霞ははっと花音を振り返る。


「ごめんなさい。少し考え事をしていました。」


「そう、ねぇ、何か理由があるなら聞かせてくれないかしら?」


 本当に何も分かってなさそうな彼女の様子に、香霞はふっと淋しそうに微笑してゆっくりと口を開いた。


「...だって、友達って強引にならせるものじゃないでしょう?人にはそれぞれ意志がある。私にも......。」


 本当はこんなこと言うつもりじゃなかったけれど。


「決してあなたの友達になるのが嫌なのではありません。...でも、ですよ、仮にあなたに私が友達になろうと誘う時あなたならどんな風に誘われたいですか?」


 ひょっとしたら彼女は生まれた時からずっとそう生きてきて、温かな踏み込んだ関係を知らないのかもしれない。

 ならば、彼女もまた私と同じ。


 香霞の言葉は花音の中でこだまのように響く。


 ややあって、花音がさっぱりとした笑みを浮かべてこう言った。


「ごめんなさい。......わたくし、やっぱりあなたと友達になりたい。あなたなら、って思ったの。」


 あぁ、やっぱり。種類は違えど、彼女もまた淋しさの中で生きてきた、私と同じ存在ーー。


 ひと呼吸おいてこちらに向き直った花音の表情はとてもすっきりしていてそこには確かな彼女の意志が篭っているのを感じる。


「だから、香霞さん。わたくしの友達になってください!」


「こちらこそ。」


 そんな彼女に、香霞は今度こそ肯定を示し、晴れて2人は友達となった。


 後に人間と妖怪の垣根を超えた2人の絆の強さは伝説として語り継がれることとなるのだが、今はまだ別のお話である。


新しいおとももち♪.*⁽⁽ ◝꒰´꒳`∗꒱◟ ₎₎₊·*

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