プロローグ
初投稿です。
2話連続投稿です。
ーー願わくは、あの子が幸せで居られますように。
彼女の家族は確かに彼女を心から愛していた。だが、双瑠璃として生まれた彼女は人間や他の妖怪にとって恰好の餌となる存在。
いつしか、大切にしていたその思いは彼女を光の届かない闇へと深く閉じ込めることになってしまった。
雪女は自分の命とも呼ぶべき瑠璃の玉を核としてこの世に生を受ける。その数は本来1人1つであるべきところ、ごく稀にその瑠璃を2つ持って生まれる者が現れるのだという。その間隔は何年かに1度である場合もあれば、何百年、何千年に1度である場合もあり、発生頻度は定かではない。
しかし、美しい瑠璃色の瞳を両眼に宿して生まれてくることから、人々はその雪女をこう呼んだ。
ーー『双瑠璃』と。
❄️ ❄️ ❄️
すとん。
「......うっ......」
落ちる際に受け身をとった右手が酷く痛んだ。少女はもう一方の腕に抱え込んでいた"もの"に目を落とす。
「...大丈夫?」
秀麗な眉を寄せて心配そうにそう言うと、それに応えるようにして子猫がぐるぐると喉を鳴らし、少女の深い瑠璃色の瞳を覗き込んでくる。
「そう、良かったわ。」
その愛らしい様子に安心した様子で少女はほんのりと淡く微笑し、怪我がないことを慎重に確かめてから子猫を地面に下ろしてやった。
次いで、たった今自分が落ちてきた桜の木を見上げた。枝と地面との間は3メートル弱、下手をすれば自分の右手は折れていたかもしれないな、と少女は我知らず右手をさする。
刹那、
「やっと見つけた。」
という声がして彼女は後ろから軽々と抱え上げられる。
「緑陰、降ろしてちょうだい。」
程よく筋肉の付いた逞しい腕の中で、彼女が身動ぎする度に、彼女の見事な烏の濡れ羽色の長い黒髪がさらさらと揺れる。
「降ろせば逃げるでしょう?」
整った顔に渋面を貼り付けてそう問われ、彼女は内心あぁせっかくのイケメンが台無しだな、などと思いながらもゆるゆると首を振った。
彼女に緑陰と呼ばれた男は20代半ば程の目鼻立ちの整った風貌をしており、瞳は夏空を思わせるような青で深緑の長髪を後頭部の高い位置で1つに結い上げていた。ほど良く筋肉を蓄えた細身の長身に萌葱色の着物の上から闇色の厚めの羽織を纏う姿は1枚の絵のように美しい。
今は渋面だが、笑えばきっと多くの女性を虜にするであろう。
「猫を助けるのはいいですが、無理をしてあんな高いところから落ちるなんて不注意にも程があります。気をつけてください。」
そんな美しい顔になおも眉間に皺を寄せたまま、彼はようやく彼女を解放する。その時、過保護な小言を追加するのを忘れないのが緑陰である。
「わかったわ。」
少女は眉根を寄せながら渋々そう言った。
みゃーー
足元で愛くるしい鳴き声がしたので少女はうつむいて、その身に纏う真っ白い着物が地面に付いて汚れるのも気にせず、しゃがんで目線を子猫に合わせる。
「もうあんな高いところに登らないようにね。.....じゃあね、気をつけて帰るのよ。」
それだけ言うと彼女は少し名残惜しそうにしながらも、立ち上がって家へ戻ろうと歩き出した。
次話もよろしくお願いします。
楽しんで頂けたら幸いです(*´꒳`*)