27話
「居なかったわね…」
「意外だね。絶対に居ると思ってた。」
「アンソニー様はそんな方ではありません!」
3人でどっぷり温泉に浸かっている。意外にもアンソニーの姿はなく、少し言い過ぎたかな…とマリーは反省している。
「それにしても気持ちいいわねぇ」
「肌がスベスベになった気がします!」
「極楽~極楽~」
ゆっくりと疲れを癒す3人であった。
◆◆◆
「温泉へ行こう!今すぐ行こう!カメラ、カメラ~」
「アンソニー様、戻られてそんな急いで温泉に入られるのですか?」
「ああ、アルフリードもジョルズも勿論行くだろう?」
「俺、温泉入りたい!」
「私はまだ遠慮致します。それに護衛の身、むやみに服など脱げません」
「今なら、令嬢達が入っているよ。それでも行かないと?」
「ええっー!オ、オゼット達が入ってる!?駄目です!俺達は後で行きましょう!」
「そうですよ、アンソニー様。未婚の女性と混浴などいけません」
「ちょっ… 離してくれ!私はカメラに収めないと…」
「駄目です。行かせられません」
「止めましょう。後で3人で行きましょう」
「離してくれ~」
アンソニーはアルフリードとジョルズに捕まり、温泉に行くことが出来なかったが、後に2人に感謝することになったのである。
◆◆◆
「それで?どうして【ローズ嬢】から【ローズ】に変わったわけ?」
「是非、じっくり詳細に教えて欲しいですわ」
マリー達は食事と温泉を済ませ、3人でベッドの上で談話中。勿論 話題は、アンソニーとローズの事だ。
「実はあの事件の後、足に力が入らなくて アンソニー様に病院に連れていって貰ったの。お医者様から精神的ショックによる一時的なものと判断されて、様子を診る為に病院に泊まることになったの… 私は1人でも大丈夫ですと断ったのだけれど、アンソニー様は朝まで私の手を握ってくださっていたのよ。それで…」
「そ、それで?」
「朝、目覚めたアンソニー様は私を見て ローズ と呼んだの。私はびっくりして固まってしまったわ… その後 すぐにアンソニー様は謝って下さったんだけど…」
「だけど?」
「ローズ と呼んでもいいだろうかって… 「私、ええ、勿論」と答えてしまったわ。… ごめんなさい、オゼット…」
「何故、わたくしに謝るの?」
「私、、、貴女の婚約者にドキドキしてしまったわ…」
「いいのよ!言ったでしょ?わたくしの好きな人はジョルズなの!アンソニーではないわ。ローズはアンソニーが好き?」
「… 分からないの。」
「そう…。ゆっくりでいいのよ。焦る事はないわ。話してくれてありがとう。ローズ、貴女は誰を好きになってもいいのよ…それが例えわたくしの婚約者であってもね」
「オゼット…」
「言っとくけど、アルフリード様は駄目だよ!」
「そんなこと言ったら、ジョルズだって駄目よ」
「やだ、言ってること矛盾してる」
「あははっ おかしいね!」
3人は一緒になって笑い合うのであった。
◆◆◆
「今日はこの近くにある湖にみんなで行かないかい?」
「いいわね。あそこの湖はたくさん花が咲いているわ。ローズは花が好きだったわよね?」
「ええ、大好きです。是非見てみたいです。」
「では、決まりだね。軽食も用意させたから向こうでのんびりと過ごそう。」
湖は意外とすぐ近くで、馬車に揺られると直ぐに着いた。
「うわぁー、綺麗~」
「本当ね。色とりどりの花が咲いているわ。水面に浮かぶあの花は何かしら?ああ、もっと近くで見れたらいいのに…」
「なら、あそこに2人乗りのボートがある。あれに乗ればすぐ近くで見ることが出来るよ。」
「でも 私、ボートに乗ったことが無くて…漕げるかしら?」
「私と一緒に見に行かないか」
「それはアンソニー様に悪いです。」
「私も近くであの花を見たいんだ。」
「それなら お言葉に甘えてお願いします。」
嬉しそうにローズの手を引くアンソニー。もう2人の世界に入ってしまっている。
「置いてかれたね…」
「そうね。折角だし、わたくし達もボートに乗りましょうか。」
「うん。そうしますか。」
「では、ジョルズ行きましょう。」
「えっ!ちょっと待ってよ。私と乗るんじゃないの?」
「嫌よ。わたくし漕ぎたくないもの。見て、このジョルズの筋肉。まさにボートを漕ぐ為にあるのよ。」
「じゃあ私はどうするのよ!」
「アルフリードが居るじゃない。」
「嘘?本当に置いていくの?」
オゼットはジョルズの腕に掴まるとさっさとマリーを置いてボートの方へ歩き出す。後ろ向きで手を振っている。
『嘘でしょ… みんなひどいよ。私にどうしろと…』
「私達も乗るか?」
後ろで声がする。『マリー、勇気を出して!学園生活も残り半分。思い出を作らないと! はい と一言言えばいいのよ!言え、言ってしまえ!』
「は… い…」
「そうか… では、私は… えっ!今、はいって言ったか?」
「はい…」
「すまん。いつも断られるか逃げられるかだったから、今回もそうだと思っていた。そうか…私と乗るか」
「はい…」
「では、行こうか。お手をどうぞ」
アルフリードはマリーの前に手を差し出す。
『マリー掴むのよ!早く掴んで!無理ーーっ』
「アルフリード様、ボートまで競争です!」
マリーはスカートをたくしあげ、ハイヒールを履いているとは思えないダッシュを見せた。
「マリー嬢、面白い…」
アルフリードは獲物を見つけた野獣のようにマリーの背中を追うのであった。




