8.東の森で その2
さて、今日は冒険者ギルドに寄らずに直接東の森に来てみた。
折角なのでDランク昇格を狙ってみるためだ。頭陀袋(特大)を二袋追加して臨む。
昨日同様、探知で冒険者を避けつつグレーウルフの居場所を捜す。
まあやる事は、昨日と同じである。索敵、接敵、雷矢で気絶させ、頭陀袋に回収、ゴブリンは氷矢で瞬殺して放置。
一時間ほどで予定数の38匹に到達。今日は頭陀袋に余裕があるのでそのまま続行。二時間ほどで追加分の頭陀袋もいっぱいになったので撤収。森の外で血抜きをするが、まだお昼にもなっていない。
「すいませーん、今日もグレーウルフを狩ってきたんですが、解体場に行くので受付さんも付いてきて貰えますか?」
「えっ! 今日もですか? しかもまだお昼前ですよ」
「今日は朝に直接、東の森に行ったものでー」
「いやいやいや、そういう事じゃなくて、あの、その……」
なんか受付嬢が動作不良を起こしてる。
「えっと、今日は昨日より数が多いので、先に解体場行ってますねー」
ガタガタッと音がしたので、そちらを見やると数人の冒険者が椅子を倒して立ち上がってるようだった。
「昨日の今日だぞおい!」
「しかも昨日より数が多いだと!?」
「おい、両肩に二袋ずつ特大頭陀袋を担いでるように見えるんだが」
「昨日の左右一袋ずつでも重量的におかしいと思ってたんだが、左右に二袋ずつ……だと!?」
「俺、今回も解体場に見に行くわ」
「あ、俺も俺も」
「じゃあ、俺も」
なんだかギャラリーが増えてる。
解体場ではジャックさんが絶賛解体中だった。
「ジャックさん、こんにちはー!」
「ん? ああお前か、ご覧のとおりでまだ解体作業は終わってないぞ」
「あ、はい分かってます」
「なら何しにきたんだ?」
「今日、狩った分を持ってきました。またグレーウルフですけど」
「なん……だと……!?」
昨日は平静を装っていたジャックさんだが、今日はさすがに顔面蒼白になってる。
「えーと、この辺に出していっていいですか?」
さすがに今日は数が多いので、多少重ね気味においていく。
「な! 昨日言った通りだろ」
「まじか! まじでか!」
「それよりもお前らさ……昨日も思ったけど、グレーウルフが綺麗すぎね?」
「グレーウルフが綺麗って、お前ケモナーか?」
「ちっげーよ! そうじゃなくって、身体のどこにも傷跡がないんじゃないかって事だよ」
「ああ、そういう……そういやないな」
「血の痕を探してみろよ」
「血の痕って首筋のアレか」
「ピンポイントで頸動脈を斬ったって言うのか?」
「いや、あれって血抜きのための傷だろ?」
「じゃあどうやって仕留めたんだ」
「……わからん」
なんかうるさかったギャラリーがいつの間にか静かになってるな。
静かといえば、ジャックさんも静かなんだよな……、って硬直してるじゃん。
「ちょっとちょっとジャックさん! 大丈夫ですか」
ジャックさんの肩を揺さぶってみる。
「う……あ……? ああ……だ、大丈夫だ。それでグレーウルフは今の袋ので最後か?」
「後、二袋あります」
あ、なんかジャックさん、口を開けたまま硬直しちゃったよ。
動作不良を起こしていた受付嬢さんが数えた所、今回の討伐数は65匹だった。
予定通りDランクに昇格したのだが、受付嬢さんの目が死んだ魚の目のようになってたのは何故なんだろう?
念のためCランクへの昇格条件を聞いた所、Dランクの依頼達成数が100件デスーと棒読み調な返答が返ってきた。
Dランクの常設依頼となると、西の森に出るオークや、懐かしのフォレストウルフになるので、ランクの昇格は一休みかな?
グレーウルフの解体も今日の分を含め、あと2、3日かかるそうで、頼むからおかわりは勘弁してくれと泣きが入った。
それでいいのか冒険者ギルド! とも思ったが、なんでもこの時期、常設依頼での討伐は少ないらしく、解体担当者が数人休暇を貰っていたとの事。俺が来て、ジャックさんがババを引いた感じだ。まあ俺は悪くないんだけどね。