閑話.ばばあ驚愕
「なんじゃ、あの人族はっ!」
ただでさえ人族を凌駕する魔力量を持つ魔族にあって絶大な魔力を誇るサイーヴァ婆様は驚愕を隠せなかった。
千人を数える魔族の精鋭部隊を以てしても足止めすら敵わぬ上級竜を相手に単騎で立ちはだかり、素手でスッ転がし、見たことも聞いたこともない魔法を使い、ドラゴンに「アバババババ」などと言わせ、あまつさえ説教をかました。極め付きは上級竜と言う巨大な存在を収納魔法で収納した。
他の者共には突然ドラゴンが消え失せた! としか思えなかっただろうが、この国、いやさこの大陸随一の魔法の使い手である妾にはお見通しである。あれは収納魔法。人族の微妙な魔力量でなし得る所業ではない。何者なんじゃ彼奴めは。
思えば初対面の時から異常であった。
遮音の結界が張られた隣室の声を聞こえたと言う。
看破しようとしても何も見えない。いや、隠蔽スキルを使われた時の様な、黒く塗りつぶされた様な見え方ではない。むしろ逆である。
眩しいのだ。眩しくて何も見えないのだ。あたかもお日様を直視しようとしたかの様に……である。密偵や間諜と言った後ろ暗い存在とは真逆の存在。
もしかすると彼の者は、人族の姿を模した何か強大な存在ではなかろうか?
例えば人に变化できる上級竜の様な……。
だとすればあの様な所業にも得心が行く。じゃが、もしも邪悪な何かであったとすれば、魔族の国は滅ぶ。
妾は当代の魔王であるイシュヴァルに直言した。
イシュヴァルの事はハナタレ小僧の頃から見知っておるし、魔法の手ほどきもしてやった事がある。まずまず聡明で賢明であり豪胆さも兼ね備えた魔王に相応しい男に成長した。
「サイーヴァ婆さんがそういうのなら、そういった手合いなのであろう。だがアヤツはなかなか面白い人物であったぞ。婆さんが言った通りで、後ろ暗さの欠片もない、開けっぴろげな奴だった。俺には邪悪さなんぞ毛程にも感じられなかったな。それよりアレがもしも婆さんが懸念する様な邪悪の存在であれば、まず間違いなく魔族の国は滅ぶ。しかも然程時間はかからんだろうよ。考えても見ろよ。上級竜をわずか数分で撃退できるんだぜ? 我々が千人集まろうが万人集まろうが無駄ムダむだぁ! 住民を避難させる時間も取れないだろうよ。よって考えるだけ時間の無駄。違うかい、婆様?」
「……………………違わぬ」
しばらく間を置いた後に、観念して答える。
「婆様よ、その無駄にタメを作る答え方、やめなさいよ。それこそ時間の無駄だよ」
くっそ、ホントに聡明で賢明で豪胆な魔王に成長しやがったよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ラフィエルっ! お、お、お、お、俺とけ、け、け、け、こけっこー、じゃなくてだな、結婚してくれっ! お前の事が子供の頃から好きだったんだ。ミツ首の黒いワンコよりも頼りない俺だが、お前のことは俺が守るっ!」
ゾフィエルがなけなしの勇気を振り絞ってとうとうラフィエルに告白しプロポーズをかました。
ラフィエルと言えば真っ青な顔をして(魔族的には顔真っ赤の意)、体をクネクネさせながら、
「こ、こ、こ、こ、子供は何人ぐらい欲しい? 私としては二人以上は欲しいんだけど……」
だってさ、何人でもこさえやがれバカバカしい。
小ネタは以上です。
これ以上は逆さに振っても鼻血しか出ません。
では、何れまた。




