73.ゴーレム馬車
一泊の野営を挟み、翌日の夕方頃に宿場町に到着。ここで一泊した後、馬車を借りて王都を目指すらしい。
宿を借りる事になったが、生憎とどの宿も満室で、ようやく空きがあった宿も2人部屋が2つしか空いてないと言う。
「じゃあ、ひと部屋はゾフィエルさんとラフィエルさん、もうひと部屋が俺とベルって事で」
「なんでだよっ!」「なんでよっ!」
「いえ、幼馴染みなんでしょ」
「そうだけど、そう言う話じゃなくって!」
「大体なんでワンコが一人扱いになってんだよっ!」
「えーと、ゾフィエルさんよりも強いから?」
「そ、そ、そ、そうだけど。そう言う話じゃねー!」
「全く我儘ですねえ」
まあ、からかうのもこの辺にしておくか。
「そう言えば、明日馬車を借りるって話でしたけど、なんで入国審査のところには置いてなかったんです?」
「あそこはあくまで入国審査を行う施設であって、宿泊や馬車を貸す場所じゃないって事だ。馬車も職員用のしか置いてないしな」
「ああ、馬の世話も要りますしね」
「いや、馬の世話は要らないんだよ」
「んん?」
「明日になれば、わかるわよ。きっとビックリするけどね」
フフッと、いたずらっぽい顔をするラフィエルさん。
その後、三人で夕食をとる事にした。俺は、半分ぐらい箸をつけた後――お箸はないけど――、残りはベルにあげた。中々美味しかった。
「アマノは随分と小食なのね」
「俺なんか、一食じゃ足りないぐらいだぜ」
「その分、ベルが食べてくれますから」
「でも、犬が食べちゃマズイ食材もあったんじゃなかった?」
「犬と言ってもベルは魔獣であって、普通の犬じゃないから平気ですよ」
実際、ベルは何でも食べるし、何かに中った事もない。下手したら毒持ちの魔獣も食べかねない。まあ、その時は治癒魔法で治してやるけどね。
「しかし、そのワンコって強すぎじゃね? Aランク魔獣って言っても成獣になってからの話だろ?」
「そうよね、こんなにちっちゃくて可愛いのにねえ」
「まあ、俺のお供で魔獣は結構狩り慣れてますから」
言えない。俺の加護のせいでステータスが軒並み1ランク上がってるとか。
その後、軽い雑談をした後、俺たちは早々に寝る事にした。
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「なんじゃこりゃあああああ!」
翌朝朝食を済ませ、馬車を借りに言った先で、俺は叫んでいた。ゾフィエルさんとラフィエルさんはニヤニヤしてる。
そこに居たのは、馬ではなく、馬を模した石の塊だった。正確には石ではなく石よりも硬く粘り強さのある素材で出来ているそうだ。
「これがこの国自慢のゴーレム馬車よ」
おおっ! ゴーレム馬車とな! うん、知ってた。テンプレ作品で出てきた。昨日ゾフィエルさんが馬の世話は要らないって言ってたのはこう言う事か。確かにゴーレムには水も飼葉も必要ない。
しかし駆動部は車輪じゃなくて馬の足なのか。普通の馬よりも随分と逞しい足だが。
「これ、なんで車輪にしなかったんだろ。馬の足の動きって凄く複雑で面倒そうなのに」
「最初はそうしようとしたらしいんだけどね。街道って言っても、結構道が悪いじゃない。車輪だと荷馬車の轍やぬかるみに嵌って、あっと言う間に立ち往生したからなんだって」
なるほど、巨大ロボット物の下半身が足なのも、そういう理由なのか――って、そんな訳がない! 偉い人じゃないから分からんとです。
でも実際に足って理に適って居るんだよな。階段や凸凹道って足の方が都合がいいし、ちょっとした溝も越えられるし。そりゃあオフロード車みたいのなら行けるんだろうけどね。
と言う事で早速乗ってみる。乗車部分は御者台と4人程度が乗れる幌付き馬車である。これで一番小さいサイズなのだそうだ。でも荷物も特にないのでこれで充分である。
「それじゃあ出発なー」
ゾフィエルさんが御者台に乗って操作するようだ。カションカションと言う駆動音がするが意外と静かだ。徐々に速度が上がっていく。
おっ! おおっ! 意外と速いぞ!
俺やベルが走る速度よりは遅いが、元の世界で言うと、マラソンのトップランナー並の速度はありそうだ――テレビでしか見た事ないけど。
そして意外と乗り心地が良い。もっと揺れでお尻にダメージが入ると覚悟していたのだが……。
「ラフィエルさん、なんか乗り心地が良いですね。ちょっと意外です」
「それはきっと浮遊魔法でゴーレム部分と馬車の部分が若干浮いてる状態だからよ。この馬車最新式だしね」
なんとハイテク! ハイファンタジーなだけに!
「「「がぅっ!」」」――『メタ発言禁止!』
「気になるお値段は?」
「いや、知らないわよ」
「しかし、これって、交通革命とか商業革命になりますよ。初めて見たけど、輸出はしてないんですか?」
「あー、よく聞かれるんだけど、輸出は厳禁よ。作動原理も製造方法も一切が秘匿情報よ。因みに盗んだとしても位置情報が発信されてるから、一発で居場所がバレるわよ」
すっげー! 更にハイテク! ハイファ――。
「「「がぁう」」」――『ハイ、ハイ』
でも、なるほど、考えてみたら、こんなのが広まったら確実に軍事転用されるな……。交通革命や商業革命の他に軍事革命にもなりうるな。開発したのが非好戦的で温厚な魔族で良かったって事か。
因みに作動原理は秘匿情報だが、燃料は秘密ではなく魔石だそうだ。なんでも燃料切れになる事もあるので予備の魔石が積んであり、操縦者が自分で交換をする必要があるため、秘密にしようがないとの事だ。なる程そりゃそうだ。
そんなゴーレム馬車は一日で徒歩4日分の距離を稼いだ。
途中で魔獣が現れる事もあったが、探知で特定した位置を2人に伝えると、遠距離魔法で撃退してくれた。尚、盗賊の類は全く出なかった。素晴らしいぞ魔族の国。
こうして王都には5日で到着した。




