7.東の森で その1
翌朝早々に冒険者ギルドに向かう
冒険者ギルドに入ると視線が飛んできて一瞬ザワリとした雰囲気になるが、すぐに普通の雰囲気に戻った。
受付を見てみたが昨日の目のきついオバちゃんはおらず、代わりに美人とまではいかないが普通に若い女性が受付をしていた。
受付オバちゃんが基本的な規約やら規則については教えてくれなかったので聞いてみようかとも思ったのだが、面倒だし、どうせテンプレなんだろうと思い直して止めた。
受付嬢をスルーして依頼ボードを物色。FランクとEランク向けの依頼を見ていく。
低ランクに相応しく、街中の雑用や力仕事、薬草採取や鉱石採取と言った依頼が殆どだった。
常設依頼だとゴブリン退治とかグレーウルフ退治と言ったものがあった。
因みに、文字は異世界の物だったが普通に読めた。多分、スキルの多言語理解のお陰だろう。
冒険者ギルド内には資料室があり、周辺の地理や魔獣の情報が記載された冊子が置いてあった。
それに寄ると辺境の街は東西それぞれに森があり、近場にある東の森に比較的弱めの魔獣、やや遠方にある西の森に強めの魔獣が出るらしく、西の森はソロの場合、最低でもCランク以上じゃないと危険と書かれてあった。
パーティーの場合でも西の森はDランク以上が推奨されている。
小手調べの意味もあるし、今回は近場にある東の森に行って見ることにした。
東の森は辺境の街から徒歩で一時間ぐらいの場所にある。
さすがに街の近場なので飛行魔法は使わず、全速で走っていくことにしたのだが、途中ですれ違った冒険者たちが何故か驚愕していた。なぜなのだろう?
東の森には大体10分で到着した。
早速、探知で魔獣の分布を確認する。さすがに森の浅い場所だと冒険者に乱獲されているようで殆ど魔獣はいなかった。
やはり魔獣は森の中心付近に固まってるようだが、さすがにそこまで深い場所に行く冒険者はいないようで、中層よりも浅い場所で狩りをしてるようだった。
他の冒険者とバッティングしないように森の中に入っていく。
狙い目はグレーウルフである。討伐報酬は銀貨2枚だが、素材となる毛皮と肉が大体銀貨8枚前後で売れる。
ちなみにゴブリンは討伐報酬が銀貨1枚で、素材で売れそうなものは皆無である。
以前、村で10匹のゴブリンを狩った時は銀貨数十枚の報酬で、一匹辺りの報酬が銀貨数枚だった訳だが、あれは冒険者が村へ出張する旅費も込みでの報酬だったため、通常よりも割高だったのである。村長が言っていたように、あの報酬でも村まで出向いてゴブリンを討伐しようとする冒険者は恐らくいなかったであろう。
早速グレーウルフを発見。5匹の群れである。
速攻、雷矢を放ってグレーウルフを気絶させ、そのまま頭陀袋に入れていく。同様の手口で次々とグレーウルフを気絶させ頭陀袋に放り込んでいく。
たまにゴブリンが現れるが、こっちは氷矢で眉間を貫通して倒す。面倒なので仕留めても討伐部位の回収はせずに放置である。
小一時間の狩りでグレーウルフを30匹程捕獲したが、それだけで頭陀袋(特大)2袋がいっぱいになってしまったので引き上げることにする。
森を出て、やや開けた場所に出るとグレーウルフを取り出し、頸動脈の辺りを切って血抜きをしていく。
わざわざグレーウルフを雷矢で気絶させたのは血抜きのためである。狩りの時点で殺してしまうと、心臓が止まってしまい血抜きに時間がかかってしまうのだ。
普通は狩りの時点で殺してしまう訳だが、折角雷矢という便利な魔法があるのだ、使わない手はない。
血抜きを済ませると、グレーウルフを頭陀袋にしまう。
頭陀袋を両肩にぶら下げて帰り道も全速走行である。
グレーウルフ1匹の体重が30㎏だとして、左右それぞれに450㎏の重量物を担いでる訳で、まあ通常の冒険者にこんな真似は無理だろうが、俺、ドラゴンなんで。
ただ、小一時間程度の狩りで終了というのもツマラナイ。金が入ったら、今度は荷馬車でも借りようかな? あ、でも狩りの最中に馬車放置って訳にもいかないか、うーん。
この時の俺は気づいていなかった。結界魔法の存在を……。
そんなこんなで辺境の街に到着。冒険者ギルドに向かう。
受付嬢に討伐報告と素材の買い取りを申し込む。
「すいませーん、グレーウルフを狩ってきたんですが、討伐報酬と素材の買い取りお願いできますか?」
「はい、討伐部位の回収は済んでますか?」
「いえ、解体もまだで、そのままの状態で持ってきてます」
「ではギルド併設の解体場に持ち込んで下さい」
受付嬢と会話をしていると周囲の冒険者がざわつきだす。
「おい、あいつって昨日登録したばかりのルーキーだろ? 昨日の今日でグレーウルフを狩ってきたって」
「いやでもグレーウルフだろ? あんなの初級でも狩れるだろうよ」
「そりゃあそうなんだが、あいつの担いでる頭陀袋のでかさを見ろよ」
「え、あれ全部グレーウルフなのか? んな訳ないだろ」
「じゃあ何が入ってるって言うんだよ! しかも左右で二袋あるぞ」
「ちょっと俺、解体場に見に行くわ」
「あ、俺も俺も」
何だか冒険者がゾロゾロと付いてきた。
「ジャックさーん、魔獣の解体をお願いしまーす。グレーウルフだそうでーす」
受付嬢が解体場の奥に向かって大声で叫ぶと、大きめの解体ナイフを持った男がやってくる。
「グレーウルフか、ここに出してみろ」
ジャックと呼ばれた男の指示に従いグレーウルフを並べていくと、付いてきた冒険者たちが騒ぎ始める。
「ちょちょちょちょ」
「ほら見ろ、ほら見ろ。中身全部グレーウルフじゃねーか」
「え? まじ? なにあれ? まじ?」
「おいおい、まだ一袋目なんだが……」
「お前、初級でも狩れるって言ったよな。なら中級のお前ならあれだけの数も楽勝だよな」
「無理、無理、無理、無理、ごめん無理です」
出し終えたグレーウルフは結局32匹だった。
解体担当のジャックは平然を装っていたが、こめかみから冷や汗を流していた。
「今日中の解体は無理だな。とりあえず討伐報酬だけだしとけ。素材の買い取りは解体が済み次第行うが、そうだな…明日中にはなんとかする」
ジャックが受付嬢に指示を出す。受付嬢はあんぐりと開けていた口を閉じ動き出す。
「そ、それでは討伐報酬をお支払いしますので受付カウンターにどうぞ」
受付嬢の指示に従い受付カウンターに移動すると、なぜか冒険者たちも付いてくる。なんなのこの人達?
「グレーウルフ32匹の討伐報酬はこちらの銀貨64枚となります」
約6万円相当か、初日の小一時間での稼ぎとしてはまずまずかな。
「それとアマノさんはEランクに昇格となります」
ん? もう昇格?
「えーと、俺は昨日冒険者登録したばかりなんだけど?」
「常設依頼では、討伐した魔獣のランクによってその討伐数がそのまま同ランクでの依頼達成件数となります。グレーウルフはEランクですのでEランクでの依頼達成件数が32件という扱いになります。そしてEランクへの昇格条件はFランク以上の依頼を20件以上こなす事なのでEランク昇格で間違いありません」
ふーん、そうなんだ。
「ちなみにDランクへの昇格条件は?」
「Eランク以上の依頼を50件以上こなす事です。アマノさんの場合、差し引きで既に12件のEランク依頼を達成している事になります」
なんか割りと昇格条件のハードルが低いな、あとグレーウルフ38匹でDランク昇格って。
たしかDランクって中級冒険者扱いって話だけど、明日にも昇格できそうな……。
「それでは冒険者ギルド登録証の提示をお願いします」
「ああ、はいはい」
そんな訳で登録日の翌日にEランクに昇格しましたとさ。