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異世界テンプレ・ドラゴン転生  作者: あまたちばなルイ
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閑話.トラヴィス王国・国王ヘリペリオ



 ヘリペリオはトラヴィス王国皇太子アレイスの側室の息子として生を受けた。当時の王位継承権は第四位であった。

 第一位は父である皇太子のアレイスが、第二位はアレイスの正室の長男フィリップが、第三位は同じく正室の次男トラウスが持っていた。

 ヘリペリオの祖父である国王マリウスは長きに渡り善政を布きトラヴィス王国を統治してきたが、さすがに老齢となり病の床についた。侍医たちからは、もう長い事はなかろうと目されていた。


 国王マリウスの治世が長く続いたため。次代の国王は父である皇太子のアレイスではなく、その長男フィリップか次男トラウスが継ぐだろうと考えられていた。

 また正室の息子が2人もいる以上、側室の息子であるヘリペリオに王位が回ってくる事はまずないだろうと思われていた。


 だが、状況はヘリペリオに都合よく動いた。王位を兄の手から奪おうと考えた次男トラウスが、父であるアレイスに毒を持ったのである。殺害が目的ではなく、兵を挙げ兄であるフィリップを討ち滅ぼすのを邪魔させないためである。皇太子アレイスはトラウスの狙い通り病の床についた。


 トラウスは、父アレイスに毒を持ったのは兄フィリップであるとして挙兵した。自分の罪を兄フィリップになすりつけた訳である。

 はっきり言ってメチャクチャな言い分なのであるが、トラウスはフィリップをたおしさえすれば、後はどうなると考えたのである。勝てば官軍という奴である。


 どうやら次男のトラウスが優勢と見たヘリペリオはトラウスに味方として取り入る事にした。下手に出てへりくだり、兄トラウスを誉めちぎった。そして、どうか陣幕の一角に加えて欲しいと頭を下げた。

 元々トラウスは側室の子であるヘリペリオを弟だと思った事はなく、歯牙にもかけていなかった。このため、一兵でも多くの兵を欲したトラウスは喜んでその申し出を受け入れた。ヘリペリオが王位継承権を持つ事など全く忘れていたのである。


 一方、長男のフィリップには、完全に寝耳に水の事であり、全く覚えのない罪で糾弾され、事態を把握するのが精一杯であった。

 そうしている間に、トラウスの迅速な出兵により、領地である街を包囲されてしまった。

 フィリップは弁明のための使者を送り、トラウスとの面会を求めたが、トラウスはこれを即座に拒否。

 ここに至って、フィリップはトラウスの本来の目的を察した。だがどうにもならず、最早これまでと自害してしまう。


 トラウス軍は勝利に大きく沸いた。そこに油断があるとも知らず。未だ軍は、敵地と言えるフィリップの領地の街に居たが、戦勝の宴がその地で催された。


 ここが勝機と目論んだヘリペリオはその戦勝の宴の酒に毒を盛った。トラウスが父アレイスに盛ったような致死性のない毒ではない。極めて致死性の高い、しかも悪辣な事に遅効性の毒である。

 勝利に沸きたつトラウスたちの完全な油断であった。体調に違和感を感じたトラウスは深酒をしたせいで気分が悪くなったのかと考え宴を中座、床についたのだが夜半に苦しみだし、泡を噴きながら絶命した。

 他の多くの将兵もその後を追った。


 宴に出席してはいたものの、頭痛を理由に諸将のお酌を辞退し、ちびちびと手酌で酒を口にしていた――勿論、自分で用意した無毒な酒である――ヘリペリオは生き残った者から疑惑の目を向けられたが、これはフィリップの配下の者が仇討ちで行ったのだと主張。

 酒宴はフィリップの領地で行なったし、実際にフィリップの配下が見つかったのである――勿論これは、トラウス軍に怨みを持つフィリップの配下を、ヘリペリオが裏から手引をしたからである。

 フィリップの配下は逆上したトラウスの将兵の手によりその場でメッタ斬りにされ息絶えた。

 

こうして、無実の罪で討ち滅ぼされた長男フィリップの陣営と、勝ち馬に乗ろうとした次男トラウスの陣営は、共に担ぐべき神輿を失い、王位継承権第四位に過ぎなかったヘリペリオを王位に頂く以外にはなかった。

 実にヘリペリオの計画通りの展開となったのである。

 祖父である国王マリウスが老衰で崩御――と言う事になっている――し、即位したヘリペリオの最初の仕事が先代国王マリウスの葬儀であったとは何と皮肉な事か。


 国王となったヘリペリオは、先ず税制を刷新、公4民6だった税率を一気に公7民3とし、次いで軍制の増強を始めた。

 トラヴィス王国は隣接する人族の国家を持たない。お隣の人族の国ノストリア王国とは山脈で隔てられている。なので、これまで常備軍と言うものはほぼなかった。

 ではなぜ軍備を始めたのか。狙いは北の隣国、魔族の国であった。


 トラヴィス王国は北方に位置するため、寒冷期が長く作物の実りが少ないのであるが、より北方にある筈の魔族国では作物の実りがよく、質もよかったのである。

 これは、魔族国による土壌改良や、作物の品種改良などによる弛まぬ努力によるものであるのだが、そんな事情を知ろうともしない国王ヘリペリオは、魔族国の実りをただただ羨み、魔族国に侵攻して農地を奪い、魔族を隷属化する事を企んだのである。


 数年の軍拡を行った後、トラヴィス王国は兵力5千をもってついに魔族国に侵攻。国境を越え、近くの魔族の村を急襲した。

 村人は十数人の犠牲を出すが、大半は逃げ出した。

 魔族なぞ恐るるに足りずと大いに沸いた侵略軍は戦果に満足し、村の食料や物品を略奪。

 殺害した村人の数が少なかった事に不満を漏らす始末であった。


 だが、次に標的とした魔族の街には、怒りに燃える魔族たちの集団が待ち構えていた。

 なんの策もなく、包囲すれば落とせるだろうと考えていたトラヴィス王国の侵略軍は、街を囲もうとしたところに、魔法による遠距離攻撃を受けた。

 慌てて後退しようとしたが、背後にはいつの間にか待ち構えていた魔族の集団がおり、侵略軍は前後からの遠距離魔法に晒された。

 死に物狂いで撤退しようとし、背後の魔族の魔術師集団――と侵略軍は考えていた――に突撃をかけた。だが、魔族の集団は単なる魔術師などではなく、近接戦闘でも無類の強さを誇った。こうしてトラヴィス王国の侵略軍は3割ほどが死亡し、残りは捕縛されるに至った。逃走できた者は皆無であった。


 魔族国は、この侵略行為に遺憾の意を示し、襲撃された村の復興費用と捕虜の身代金をトラヴィス王国に要求。尚、その要求は数人の捕虜を使者として行われた。

 だが、国王ヘリペリオは、これを完全に拒否。捕虜となり、使者代わりに使われた自国の兵を直ちに処刑した。


 返答の期限をすぎても回答がない事から、魔族国では見せしめとして指揮官クラスの将兵十名程を処刑し、国境の外に晒した。

 尚、他の一般兵などについては、取り調べの上、特に残虐な行為を行った者以外は武装解除の上、解放。国境外へと追放した。


 この後、魔族国は土魔法の使い手を集めると、たったの数ヶ月の内にトラヴィス王国との国境に壁を築いた。さながら万里の長城である。

 トラヴィス王国は、これより数年に渡って魔族国に侵攻軍を送るが、国境の壁に遮られ、国境を越える事すらできずに撃退される。


 魔族の意外な頑強さを前に、国王ヘリペリオは人族の各国に、魔族は人族の敵であると喧伝し、共に魔族国と闘おうと激を飛ばした。だが、トラヴィス王の野心は見え透いており、共に闘おうとする国は皆無だった。却って各国の失笑を買うだけであった。


 そして、重い税と徴兵により働き手を失った農村部は次第に疲弊していき、国王ヘリペリオに対する民衆の不満は徐々に高まっていったのであった。



     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ホーリア様、やはり始末した方が宜しいのでは?」

「放置でいいでしょう。人族などその内に死にます」


 ホーリア様はそう仰るが、生かしておいても厄介事しかやらかさないだろうし……。

 いっそ、こっそりと始末して後顧の憂いを断つか。


「ヤーズ、聞こえてますよ」

「ははっ! 失礼いたしました」



     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その頃、トラヴィス王国の王城では――。


「陛下! 国王陛下! 大変でございます」

「なんだ、騒々しい!」

「ドラ、ドラ、ドラゴンが現れました」

「なにっ! ドラゴンだとっ! それでっ?」

「人、人、人の姿に化けて」

「人に化けただと! すると上位竜と言う事か、それでっ?」

「へ、へ、陛下に合わせろと――」


 家臣がそこまで言ったところで、後ろからまだ10代後半に見える青年が現れた。いかにも生意気そうな風貌をしている。


「ふーん、お前がこの国の王か」

「無礼なっ! 何奴?」

「無礼だあー? 上位のドラゴン様に何言ってやがる。プチっと潰すぞゴルァ」


 なんだか知らないが、悪辣な国王と粗暴なドラゴンが出会ったようだった。


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